弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第77回) 気を引き締めて注意、取引先の廃業、倒産に備える

法・制度対応

公開日:2021.02.02

 新型コロナウイルスの影響で多くの企業の経営状態が悪化し、帝国データバンクの調査によると「新型コロナウイルス関連倒産」(法人および個人事業主。なお、破産だけでなく民事再生、特別清算、事業停止も含まれる)は、2020年12月14日時点で797件判明しています。新型コロナウイルスの影響により、事業活動が制限される状態は今後も継続される恐れがあり、今年は乗り切ったとしても来年以降に倒産する企業が増える可能性は残ります。

 今回の記事では、取引先の倒産の予兆を見分ける方法や、取引先が倒産する前の対応、取引先が倒産してしまった場合の対応を見ていきたいと思います。

取引先の倒産の予兆を見分ける方法

 一般に、取引先が倒産するリスクがあるどうかを見分けることは容易ではありません。ただ、取引先について、本来の支払時期に入金が遅れた、手形の不渡りを出したとの情報が出回る、役員や従業員の退職が目立つなど、倒産の予兆とも取れる事情がみられる場合は注意しなければなりません。

 このような事情がある場合は、まず帝国データバンクなどの企業の信用調査を行っている会社から取引先の情報を取得することが考えられます。帝国データバンクから取引先の情報を取得すると、現在までの業績の推移や主な取引先、信用の程度など、裏付けとなる情報を得ることができ、取引先の財務状況を考える際の参考になります。

 また、得意先企業の倒産により、取引先が連鎖倒産してしまうリスクがあるかどうかをチェックするのもよいでしょう。会社が破産をすると、官報に公告されますし、インターネット上で破産申し立てをした会社をまとめているサイトもあります。こうした方法により、取引先の得意先企業が倒産していないかチェックすることも有益です。

 さらに、借入金などの負債を株式に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ)と呼ばれる方法があり、中小企業やベンチャー企業などの財務体質の改善にしばしば使われています。DESを簡単に説明すると、債権者に対する債務の支払いに代えて、債権者に対して株式を発行することです。債務者は債務を返済する必要がなくなる一方で、債権者は新たに出資金を払うことなく債務者の株式を取得することができます。

 取引先がDESを行ったかについて知るには、取引先のホームページ(新たな主要株主が突然増えている場合)や登記簿謄本(「発行済株式の総数」において短いスパンで複数回にわたって株式を発行している場合)などで、その可能性を確認することができます。日ごろから取引先の公開情報に目を配っておくことも重要でしょう。

取引先が倒産する前の対応

 取引先が倒産するリスクに備えるなら、契約書に期限利益喪失約款を入れておくことが重要です。「期限の利益喪失約款」とは、契約で金銭を支払う期限が猶予されている場合(例えば翌々月の末日払いなど)において、一定の事由が生じた場合に、この期限の猶予がなくなり、直ちに支払期限が到来するという条項です。

 取引先が倒産にまで至らなくても、経営が悪化している状態であれば、直ちに支払期限を到来させた方がよいですから、この期限の利益喪失約款の文言について、「信用状態に重大な変化が生じたとき」といった抽象的な文言を含めておくことが考えられます。

 併せて、取引先の経営状態が悪化した場合に、速やかに取引関係を解消できるようにするため、「取引先の信用状態に重大な変化が生じた場合には、取引先との基本契約を解除できる」ようにしておくこともよいでしょう。

 また、取引先の経営状態が悪化して、売掛金などを支払ってもらえない場合は、預金や売掛金を仮差し押さえするという方法があります。通常、裁判を起こして支払いを求めると解決までに時間がかかりますが、仮差し押さえは迅速な手続きで債務者の財産を仮に差し押さえることができますので、取引先の信用状態が悪化しているときには有効な方法です。

取引先が倒産してしまった後の対応

 取引先が破産申し立てを行った場合、債権調査を行う破産管財人から債権届出書が送付されてきます。債権届出書とは、破産者(破産申し立てをした取引先)の財産から配当を得るため、債権者が破産者に対する債権を届け出る書面のことです。債権者は、原則として破産の手続きでしか債権を回収することができませんので、債権を回収しようとするには、この破産手続きにおいて債権届け出をしなければ配当を受けられないことになります。

 従って、債権者としては、届け出期間内に、証拠書類を添えた上で、取引先に対するすべての債権について債権届け出を行うことが求められます。届け出期間後に債権届出書を提出しても、原則として認められませんので、その点に注意してください。

執筆=近藤 亮

近藤綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属) 平成27年弁護士登録。主な著作として、『会社法実務Q&A』(ぎょうせい、共著)、『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房:2019、共著)、『民事執行法及びハーグ条約実施法等改正のポイントと実務への影響』(日本加除出版:2020、共著)などがある。

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