弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第92回) 2022年に施行される労務関連改正をチェック

法・制度対応

公開日:2022.05.30

 2022年もさまざまな法律が施行され、中小企業の経営に影響を与えます。今回は、そうした法律の中で、労務面で注意すべき、①パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)、②改正女性活躍推進法、③年金制度改正法の3つについて、ポイントを解説します。

 この3つ以外に2022年4月および10月に施行される改正育児・介護休業法も重要です。同法については、「弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話」の第82回で解説していますので参考にしてください。

パワハラ防止法の対象が中小企業にも拡大

 パワハラ防止法は2020年6月に施行されました。そして、適用を猶予されていた中小企業も、いよいよ2022年4月1日からその対象となりました。従って中小企業経営者は、これ以降、パワハラによって労働者の就業環境が害されることのないように、雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられます。

 中小企業の範囲については、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが基準を満たしていれば、該当すると判断されます。また、事業場単位ではなく、企業単位で判断されると覚えておきましょう(詳しくは「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」の5ページを参照してください)。

(1)パワハラとは

 そもそも、パワハラとはどのようなものでしょうか。パワハラ防止法によれば、職場におけるパワハラとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動で、②職務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、とされています。

 より具体的に理解できるように、パワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、パワハラに該当する代表的な言動として、以下の6類型を示しています。

①身体的な攻撃(暴行・傷害)

②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

(2)事業主が雇用管理上講ずべき措置とは

 パワハラ防止法およびパワハラ指針によって、事業主は、以下の措置について講ずることが義務付けられます。違反については、行政上の助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わなかったときはその旨を公表されることがあります。

①事業主による、パワハラを許さない旨の方針等の明確化およびその周知・啓発

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口設置など)

③職場におけるパワハラに係る相談などへの迅速かつ適切な対応(事実確認、懲戒、再発防止策の策定など)

④その他以上と併せて講ずべき措置(相談者・行為者などのプライバシー保護に必要な措置、相談を理由に解雇などの不利益な取り扱いをしない旨の定めと周知・啓発)

 こうした雇用管理上講ずべき措置は、セクハラなどの他のハラスメント対策ともおおむね共通したものです。従って、今回まったく新たな措置の導入が義務化されるわけではないので、中小企業経営者は、これまでのハラスメントに対する取り組みを振り返り、不足している部分を補う形で対応するとよいでしょう。

改正女性活躍推進法は中小企業なども情報公開が必要に

 女性労働者などが活躍できる就業環境を整備する目的で、女性活躍推進法が改正され2019年6月に公布されました。このうち、「一般事業主行動計画の策定・届出」や「情報公表」の義務の対象を拡大する改正が2022年4月1日から施行となっています。

 すなわち、これまでは、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主が上記義務を負っていましたが、2022年4月1日からは、常時雇用する労働者数が101人以上の事業主も上記義務を負うこととなります。義務の概要は次の通りです。

(1)一般事業主行動計画の策定・届出義務

 策定を求められる一般事業主行動計画とは、当該事業主が実施する女性の職業生活における活躍の推進に関する取り組みに関する計画をいいます。具体的には、①計画期間、②1つ以上の数値目標、③取り組み内容、④取り組みの実施時期を盛り込んだ計画であることが求められ、策定した同計画は都道府県労働局に届け出なければなりません。

 具体的な行動計画は以下のような内容です。厚生労働書が「一般事業主行動計画の策定例」を公表しているので参考にしてください。

株式会社〇〇 行動計画

 女性が管理職として活躍でき、男女ともに長く勤められる職場環境を作るため、次の行動計画を策定する。

1 計画期間:2022年4月1日~2025年3月31日

2 目標と取り組み内容・実施時期

目標1:管理職(課長級以上)に占める女性労働者の割合を30%以上にする。

<取り組み内容・実施時期>

 ・2022年 4月~ 経営層や管理職を対象に、会議にて女性活躍に関する意見交換の実施

 ・2022年10月~ 女性管理職に対するヒアリングの実施およびロールモデルとして社員に紹介

・・・・・・

 目標2:・・・・・・

(2)情報公表義務

 この義務は、自社の女性の活躍に関する状況について、求職者などが簡単に閲覧できるように、少なくとも次の①②のいずれかの実績情報を公表しなければならないというものです。

①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供実績

②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備実績

 今回の対象拡大による一般事業主行動計画の作成・届け出や情報公表の詳細については、厚労省の情報などを参考にしてください。

年金制度改正法は2段階で中小企業などに拡大

 長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るために、2020年6月に年金制度改正法が公布されました。この改正法による改正項目は多岐にわたっていますが、中小経営者に影響を与えるものとして、短時間労働者を被用者保険(厚生年金保険、健康保険)の適用対象とすべき事業所の範囲を拡大する改正が含まれており、これは2022年10月1日より段階的に施行されます。

 具体的には、これまでは短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件は従業員数501人以上とされていましたが、これが段階的に引き下げられ、2022年10月1日に101人以上の規模、2024年10月1日に51人以上の規模へと拡大されます。企業規模要件以外の要件も含めて、短時間労働者を被用者保険の対象とすべき要件を示すと次の囲みの通りとなります。

 2016.10.1~2022.10.1~2024.10.1~
企業規模要件従業員501人以上従業員101人以上従業員51人以上
労働時間要件週20時間以上同左同左
月額賃金要件月8.8万円以上同左同左
勤務期間要件1年以上2カ月超同左
学生除外要件学生は適用除外同左同左

 企業規模要件における従業員のカウント方法の詳細などについては、厚労省の情報などを参考にしてくだい。

執筆=植松 勉

日比谷T&Y法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)、平成8年弁護士登録。東京弁護士会法制委員会商事法制部会部会長、東京弁護士会会社法部副部長、平成28~30年司法試験・司法試験予備試験考査委員(商法)、令和2年司法試験予備試験考査委員(商法)。主な著書は、『会社役員 法務・税務の原則と例外-令和3年3月施行 改正会社法対応-』(編著、新日本法規出版、令和3年)、『最新 事業承継対策の法務と税務』(共著、日本法令、令和2年)など多数。

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