ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
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2022年4月1日に全面施行された「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の附則、第10条に「いわゆる3年ごと見直し」の規定があります。これは同法を取り巻く状況を考慮して、法改正の施行後3年ごとに法律の施行状況を検討し、必要があれば法改正などを行うという内容です。
これに基づき、2025年改正に関する具体的な検討が進められています。この個人情報保護法改正の取りまとめの状況を説明する前提として、2022年秋以降における個人情報保護法に関連する主な動きについて解説します。
個人情報保護法を所管する政府機関である個人情報保護委員会がWEBサイトで、以下のような情報漏えいなどの事案を公開しています。
① 一般送配電事業者および関係小売り電気事業者が、電気事業法で禁止されているにもかかわらず、新規参入の小売り電気事業者の顧客情報を含む個人データを取得した事案。
② 大手学習塾に所属する元塾講師が、SNSのグループチャット上に、同学習塾の児童の個人情報を投稿した事案。
③ 社会保険/人事労務業務支援システムをSaaS環境においてサービス提供していた事業者のサーバーが不正アクセスを受け、ランサムウエアにより、同システム上で管理されていた個人データが暗号化され、漏えいなどのおそれが発生した事案。
④ 自動車メーカーが関連会社に対し、車両利用者に対するサービスに関する個人データの取り扱いを委託していたところ、同社のクラウド環境の誤設定に起因して同サービスのためのサーバーが公開状態に置かれた。同サービス利用者の車両から収集した約230万人分の個人データが外部から閲覧できる状態にあり、個人データの漏えいが発生したおそれのある事態が発覚した事案。
こうした情報漏えい事案の発生以外に、2022年以降、個人データの保護・利活用に関し、社会に影響を与えている出来事としては、Chat GPTをはじめとする生成AIの普及が挙げられます。2022年11月にChat GPTの一般利用者に対する公開が始まって以降、他の生成AIもビジネス目的を含め世界中で利用が進められ、これまでの検索サイトを中心としたインターネット利用に変化を与える可能性もあると評価されています。
個人情報保護委員会は2023年11月から、個人情報保護法改正に関する具体的検討を進めています。2024年6月には、同時点における委員会の考え方を取りまとめ、「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る 検討の中間整理」(以下:中間整理)を公表して意見募集を実施し、同年9月に意見募集結果を公表しました。
中間整理では、前述した個人情報保護法を取り巻く現況などを踏まえ、主に以下の①~⑧を個別検討事項として挙げています。なお、実務への影響の大きさという観点から重要なものに絞り、かみ砕いて説明しているので、正確な内容は中間整理を参照してください。
① 生体データの取り扱い:特に要保護性が高いと考えられる生体データについて、実効性ある規律を設けることを検討する。
② 子どもの個人情報などに関する規律のあり方:子どもの権利利益の保護という観点から、規律のあり方の検討を深める。具体的な検討事項として、法定代理人の関与、利用停止など請求権の拡張、安全管理措置義務の強化、責務規定、年齢基準が挙げられている。
③ 本人同意を要しないデータ利活用などのあり方(健康・医療、生成AIなど):生成AIなどの、社会の基盤となり得る技術やサービスのように、社会にとって有益であり、公益性が高いと考えられる技術やサービスについて、例外規定を設けることを検討する。
④ 「不適正な利用の禁止」「適正な取得」の規律の明確化:適用される範囲などの具体化・類型化を図る。
⑤ 漏えいなどの報告・本人通知のあり方:漏えいなどの報告や本人通知の範囲・内容の合理化、違法な第三者提供を報告義務および本人通知義務の対象とすることを検討する。
⑥ 第三者提供規制(オプトアウト)のあり方:一定の場合には提供先の利用目的や身元などを特に確認する義務を課すことを検討する。
⑦ 課徴金制度の導入を検討する。導入する場合の具体的な検討事項として、課徴金賦課の対象となる違法行為類型、課徴金の算定方法、課徴金の最低額の設定、一定の要件を満たした場合の課徴金の加減算などが挙げられている。
⑧ 適格消費者団体などを念頭に置いた、差止請求制度や被害回復制度について、導入を検討する。
個人情報保護委員会は、今後はステークホルダーと議論をするための場を設けつつ、2024 年末までをめどに議論を深めていくとしています。2020年個人情報保護法改正では、個人情報保護委員会は、2019年12月に「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」を公表しており、2025年改正についても2024年末をめどに、同様の文書が公表されると予想されますので、注目しましょう。
執筆=渡邊 涼介
光和総合法律事務所 弁護士 2007年弁護士登録。元総務省総合通信基盤局専門職。2023年4月から「プライバシー・サイバーセキュリティと企業法務」を法律のひろば(ぎょうせい)で連載。主な著作として、『データ利活用とプライバシー・個人情報保護〔第2版〕』(青林書院、2023)がある。
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