弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第21回) これだけは知っておきたい!外国人雇用の注意点

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公開日:2016.03.28

 近年、少子高齢化を迎え、労働力の不足が問題となっています。また、日本国内の人口減少を背景に、海外市場開拓や現地拠点の開設に取り組む企業も増えてきました。こうした問題に対する対応策の一環として、外国人の雇用を検討している企業もあると思います。現在、日本で働く外国人労働者は約80万人であり、毎年増加しています。もはや外国人の雇用検討は、珍しいことではありません。

 とはいえ、外国人を雇用する際のルールや注意点が分からず、いまいち踏み切れないという企業も多いでしょう。そこで今回は、外国人を雇用するメリット・デメリットを整理して、最低限知っておきたい3つのルールを紹介したいと思います。

外国人雇用のメリット・デメリット

 そもそもなぜ、外国人を雇用するのでしょうか。外国人を雇用するメリットは、主に以下の点が挙げられます。

 ・母国語を中心とした高い語学力
 ・母国を中心とした外国文化や習慣への理解、現地の情報収集能力
 ・優秀な人材確保

 海外を相手にビジネスを始める場合、日本人スタッフばかりで対応するのではなく、現地で育ったネーティブの人材を採用すれば、文化の違いなどが原因で事業が失敗するリスクを減らすことができるでしょう。

 デメリットとしては主に以下の点が挙げられます。

 ・文化の違いによる社内不和、労使間トラブル
 ・宿舎などの手配、在留資格などのサポート体制

 このうち、文化の違いによる問題は、社員がそれぞれ十分なコミュニケーションを取ればある程度は軽減できます。逆にそれが刺激となって新しい創造を生み出すケースもあります。労使トラブルも、労働条件は書面化し、社内ルールを整備することなどで対応可能です。

 また、企業が宿舎などの手配をする問題は、企業に相応の負担はありますが、専門家に依頼をするなどで軽減を図れます。

 こうしたデメリットへの対応策を実行できれば、上記のようなメリットを受けたい企業において、外国人を雇用することは魅力的な選択肢となります。

採用時は在留資格を確認しよう!

 では、実際に外国人を採用する際には、どんな点に注意をすればよいでしょうか。日本人は、日本国内において当然働けます。しかし、外国人の場合には、誰でも日本国内で働けるわけではありません。来日する際、その目的に応じて活動範囲、活動期間が限定されています。

 雇用をする際には、日本で働くことが認められた在留資格を有している外国人でなければいけません。例えば、短期滞在や就学の在留資格では働けません。(就学などの一部の在留資格の場合、許可により一定時間までアルバイトは許されています)。

 しかも、外国人労働者には、基本的には単純労働は認められていません。在留資格としては、専門的・技術的分野(大卒ホワイトカラー、技術者、外国人特有または特殊な能力などを生かした職業、高度に専門的な職業)の一部のみの労働が認められています。

 外国人採用の1つ目のルールとして、遅くとも採用決定直後に在留資格、在留期間を在留カードなどにより確認し、就労に問題がないか確認をするようにしましょう。在留資格を確認しなかったり、在留資格上認められていない外国人を就労させたりすると、罰則の適用もあります。

採用後は日本人と同等に!

 では、採用した後はどのように対応する必要があるのでしょうか。まず、日本における労働者を保護するためのルールは、原則として外国人にも適用されます。そのため、国籍に関係なく最低賃金以下の賃金で働かせることはできません。国籍による差別もできないため、日本人のみを優遇するようなこと(外国人から解雇をするなど)はできません。雇用保険、健康保険などの社会保険や労災保険の適用についても、基本的には日本人と同じです。

 外国人採用の2つ目のルールは、雇用した後は、原則として日本人と同等に扱うことです。「外国人だから安く雇える」とか、「保険に入らなくてよい」といったことはありません。

 一部の企業では、就職時に外国人の生活に必要な一部の費用を負担し、中途退職の場合には、それらの全額の返還を要求するようなケースや、まじめに働かせることが目的で旅券などを企業が預かるというケースも見られます。しかし、いずれも違法となる可能性が高い行為です。

 また、外国人の雇用後または離職後には、ハローワークへの届け出が必要となります。届け出を怠ると罰金が科されてしまうため、忘れないようにしましょう。

とはいえ、外国人である事実は忘れない

 2つ目のルールとして「外国人は日本人と同等に扱う」を挙げましたが、それは外国人であることへの配慮が不要という意味ではありません。3つ目のルールとして、当たり前のようですが、言葉を十分に理解できているのか、文化や生活習慣は異ならないのか、他の従業員と十分にコミュニケーションが取れているのかなど外国人であることを意識し、相応の配慮をするようにしましょう。

 外国人労働者との間では、少なくとも労働条件については、募集時に文書にて明示することが重要です。最低でも従事すべき業務内容、賃金、 労働時間、 就業場所、 労働契約期間、 労働・社会保険関係法令の適用に関する事項は事前に伝えましょう。また、国外に居住している場合は、渡航費用の負担や住居の確保など、条件の詳細についても明確にしておくとトラブルの予防となります。外国語で就業規則等の社内ルールを整備したり、十分な研修期間を設けたりすることも重要です。

外国人採用は会社に新たな風を吹き込むことに

 このように、実は外国人を雇用する際に必要なことはさほど多くありません。多くは日本人労働者を雇用する際にも求められるものです。むしろ、外国人雇用がコンプライアンスを見直すきっかけとなるかもしれません。

 ハローワークでは、日々の外国人労働者の雇用管理やトラブルなどについて、外国人雇用管理アドバイザーに無料で相談できます。そのため、前述のルールにおける例外の有無や、日々の細かな不安などについてはその都度確認をすることもできます。「この採用条件で大丈夫だろうか……」と心配になったら、ぜひ相談してみてください。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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