弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第9回) 御社はマタハラをしていないと言い切れますか?

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公開日:2015.09.07

 セクハラ、パワハラに続き、最近徐々に言葉が浸透してきた「マタハラ」。何それ?と思う人もまだまだ多いと思いますが、先日、マタハラに関する最高裁判決が出たことにより、認知度が高まっています。そこで今回は、話題のマタハラについて考えてみましょう。

セクハラよりも身近なマタハラ

 そもそも、マタハラとは、どんな意味なのでしょうか。マタハラとは、マタニティハラスメントの略であり、「職場における妊娠・出産を理由とした嫌がらせ」のことです。

 最近、マタニティマークの普及などもあり、人によっては、妊娠・出産により優遇されることはあっても、嫌がらせをさせるなんてと思うかもしれません。しかし、日本労働組合総連合会(連合)が行った「マタニティハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」(PDF)によると、実はセクハラ以上に被害者が多いことが判明しています。同調査によると、実に4人に1人が被害を受けているのです。

 ではこのマタハラ、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。 そこで問題です。次の1~6の例のうち、どれがマタハラに当たるでしょうか?

【1】妊娠を上司に伝えたら、「おめでとう。初めての出産なので、企業としても応援をしよう。体のことを考え、フルタイムからパートに切り替えよう。切り替えないのであれば、早めに休んではどうか。仲間に迷惑をかけてもいけないでしょう。」と言われた。

【2】検診に行く必要があったため、上司にその旨伝えたところ、快く了解してもらえたが、勝手に有給休暇扱いにされた。

【3】妊娠を報告し産休を申請したら、うちのような小さい企業には産休制度がないから無理しない程度に頑張ってといわれた。

【4】妊娠を報告したら、うちは男女平等だから問題なく働けるよといわれ、こちらの意思に関係なくこれまでどおり残業、休日出勤を行わされた。

【5】貴重な戦力だからということで、産後1か月で現場に復帰することになった。

【6】出産後、企業に戻ろうとしたら、人員を補充したため仕事がないとして解雇された。

 正解は、これらはすべて法律違反であり、マタハラに当たります。あなたの企業では、こんなことはありませんか?

妊娠・出産にまつわる法律を知ろう!

 マタハラの原因の一つとして、妊娠・出産に関する法律の理解不足があります。そこで、まず法律の規定の主なものを確認してみましょう。なお、番号は前述の例と対応しています。

【1】妊娠・出産・産前産後の休業を請求したこと等を理由として解雇等の不利益な取り扱いをすることは禁止されている(均等法9条3項)。

【2】妊娠中、企業は、健康検査等のために必要な時間を確保し、医師らの指導事項が順守できるように勤務時間の変更等必要な措置をとらなければならない(均等法13条)。

【3】6週間以内に出産予定の女性は、請求により、産前休業をとれる(労基法65条1項)

【4】妊娠中及び出産後1年未満の女性は、請求があった場合、時間外・休日労働・深夜業をさせてはならない(労基法66条1項~3項)

【5】産後8週間は、女性を就労させてはいけない(労基法65条2項)。

【6】妊娠中及び産後1年未満の女性労働者の解雇は原則無効(均等法9条3項)。

 このように、妊娠中・出産後の女性が企業で働き続けられるために、さまざまな法律の定めがあります。就業規則等で定めがなかったとしても、上記の法律が優先されます。そのため前述の具体例は、いずれも法律違反であり、明らかなマタハラであるといえます。

 これらに違反した場合、行政による指導等の対象となり、場合によっては企業名が公表されます。また、企業は損害賠償責任を負う可能性もあります。罰則規定があるものもあります。そのため、企業は、最低限これらの法律について、理解をしている必要があります。

 平成26年10月23日に出された最高裁判所の判決においても、妊娠中の軽易業務への転換を契機としてなされる降格処分は、労働者の自由な意思に基づく同意か特段の事情がない限り違法であるとの判断が示されました。つまり、妊娠を理由とした処分には、原則として企業の裁量は認められず、違法であるということです。このことからも、企業は、これまで以上に妊娠・出産をした社員に対する処遇に注意をしなければいけません。

マタハラが起こらない職場環境が生産性を高める!

 ですが、企業はマタハラに関する法律を理解していればそれだけでいいというわけではありません。実はマタハラで一番の問題となっているのは、妊娠・出産に理解のない人の言動であるとされています。

たとえば次のようなものがあります。
・妊娠により時差通勤をしていたところ、同僚の男性社員から「妊婦は重役出勤できていいなぁ」と言われた。
・妊婦であるため、男性社員に重量物を扱う作業をかわってもらうなどの配慮をされていたら、同僚の女性社員から「お姫様みたいで良いね」と言われた。
・「あなたが妊娠してくれたおかげで私の残業代が増えました」と言われた。

 これらはそれぞれ悪意をもって言われた言葉ではないかもしれません。しかし、妊娠をしていることを理由に皮肉をいわれていると受け取れる言動であり、人格を傷つけるものである以上、マタハラになりうるものです。

 そして現実に、多くの人がこのような言動により苦痛を感じ、退職しています。その結果、優秀な人材が流出し、職場の雰囲気が悪化し、生産性が低下している可能性も十分にあります。

 では、このような言動を防止するためにはどうすればよいでしょうか。

 まず、社員に妊産婦の身体的な特徴・変化を知ってもらう必要があります。情報共有によって、妊娠・出産に対する配慮があたりまえのことであることを理解してもらいましょう。

 また、長時間労働が評価されるような職場は、その雰囲気を変える必要があります。このような価値観では、働く時間が相対的に短くなりやすい妊産婦が仕事をしていない悪者のように思われてしまうからです。

 そして、何よりも企業は妊産婦がいることを前提とした職場の体制を作り、企業が妊産婦に権利を行使させることが重要です。当初から妊産婦が存在することを想定していれば、他の社員の負担が急に増えるということにも対応することができるからです。

 このようにして、妊産婦が安心できるような職場環境を企業が整えることができれば、優秀な女性社員ほど長期間働くことを希望し、辞めたいとは思わないはずです。その結果、生産効率も上がるのではないでしょうか。

 優秀な人材が少ないと嘆く前に、目の前の女性社員が働きやすい環境を作ってみてはいかがでしょうか。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年11月6日)のものです。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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