弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第58回) 2020年、改正民法施行で「保証」が変わる!

法・制度対応

公開日:2019.07.22

 2017年5月26日、民法の一部を改正する法律が成立しました。一部の規定を除いて2020年4月1日から改正された民法(以下:「新法」)が施行されます。新法では、ビジネスに関連する項目が多数、改正されました。本連載第56回では売買契約関連を解説しました。今回は、保証契約に関する改正のうち、特に重要な部分について見ていきたいと思います。

 取引先に保証人を求めたり、融資を受ける際に金融機関から保証人を求められたりと、保証契約は企業の活動に非常に身近なものです。保証契約の改正点についてはよく知っておく必要があります。

 改正点の説明の前に、保証契約の用語について簡単に説明しておきましょう。保証契約では、お金を借りたり、何らかの取引をしたりした結果、債務を負った本人を主債務者といいます。そして、主債務者が負っている債務を主債務といいます。保証人は、債権者と保証契約を結ぶことにより、主債務の履行がされない場合に、主債務者に代わって債務を履行する義務を負います。

債権者が保証人に対して情報提供義務を負う

 主債務がきちんと履行されているか、未払いの主債務の残額がいくらであるかなどの情報については、保証人にとって重要な関心事です。ただ、改正前の民法では債権者は保証人に対して、これらの情報を提供する義務を負っていませんでした。

 それに対して新法では、保証人から請求があった場合は、債権者は、主債務の元本や従たる債務(利息、違約金、損害賠償など)全てについて、その不履行の有無や残額がいくらであるかなどの情報を、遅滞なく提供しなければならないことになりました(新法458条の2)。なお、この規定は主債務者の委託を受けて保証した保証人にしか適用されないことに注意が必要です。

 また、主債務者が期限の利益(期限到達まで債務の返済を請求されない権利)を喪失してしまったことも、保証人にとって重要な関心事といえます。そこで、新法では保証人が個人の場合において、主債務者が期限の利益を喪失した場合には、債権者はそのことを知った時から2カ月以内に保証人に対して通知しなければならないことになりました(新法458条の3)。

 これに違反して債権者が通知を行わなかった場合、債権者は期限の利益喪失時点から、保証人に通知が到達した時点までの遅延損害金を請求することができません。ですから、取引において個人の保証人を立ててもらっている企業は、主債務者が期限の利益を喪失した場合、速やかに保証人に通知することが必要になります。

公正証書による意思確認が必要になる

 新法においては、個人の保証人が事業のために負担した貸金などの債務について保証契約を締結する場合、公証人による保証意思の確認が必要になります(新法465条の6第1項)。この手続きを踏まないと保証契約は無効になります。

 ただし、主債務者が会社で、その取締役の地位にある者が会社の債務を保証する場合などは例外的に保証意思の確認は不要とされます(新法465条の9)。これは、取締役などは会社の財務状況などを十分に把握することができる立場にあるため、保証人になることのリスクを十分に認識せずに保証契約を締結する恐れが低いからです。

 公証人による保証人の保証意思の確認は、公正証書を作る形で行わなければなりません。この公正証書は、あくまで保証意思を確認するためのものであり、保証契約そのものではありません。また、この公正証書は、保証契約を締結する日の1カ月以内に作成する必要があるため、作成時期に注意しなければなりません。

上限額を定めなければ根保証契約が無効になる

 企業間の取引において日々発生する債務など、継続的な関係から生じる不特定の債務について保証する契約を「根保証契約」と呼びます。根保証契約では、保証人となる時点では負担する債務が未確定であるため、保証人の責任が過大になる恐れがあります。

 従来、個人が保証人となる根保証契約については、主債務に貸金などの債務を含むものについてのみ、極度額を定めなければ効力が生じないとされていました。極度額とは平たく言うと保証人が負担する債務の上限額のことです。このように貸金などについてのみ極度額の規律がなされていましたが、保証人の責任が過大になる恐れがあることは、貸金以外についての根保証契約であっても変わりません。

 そこで新法では、保証人が個人である根保証契約一般について、書面または電磁的記録で極度額を定めなければその効力を生じないとされ、規律の対象が拡大されました(新法465条の2)。

 これにより、不動産の賃貸借契約において、賃借人が負担する一切の債務を保証する保証契約や、会社の社長が取引先に負担する全ての債務をまとめて保証する保証契約などは、極度額を定めなければ無効となることになりました。従って、不動産を賃貸されている企業や、取引先の社長に保証を求めている企業は契約書を見直す必要があります。

 個人が保証人となる根保証契約において、保証人の財産に対して強制執行や担保権の実行などがなされた場合や、保証人が破産や死亡した場合は、新法では根保証契約の元本が確定し、保証人はその後に発生する主債務について責任を負わないことになりました(新法465条の4第1項)。

 さらに個人が保証人となる貸金などの根保証契約では、主債務者の財産に対して強制執行や担保権の実行があったとき、主債務者が破産や死亡したときも元本が確定することになりました(新法465条の4第2項)。このように根保証契約についてはさまざまな改正が行われますから、注意しておきましょう。

 今回は、民法改正の中で保証契約に関連するポイントに絞って解説しました。新法では保証に関する部分は大きく変わりました。今回、紹介したのは代表的な部分だけです。新法が施行される前に自社のビジネスに影響がないか、弁護士に相談するなどして、しっかりチェックしておきましょう。

執筆=近藤 亮

近藤綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属) 平成27年弁護士登録。主な著作として、『会社法実務Q&A』(ぎょうせい、共著)、『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房:2019、共著)、『民事執行法及びハーグ条約実施法等改正のポイントと実務への影響』(日本加除出版:2020、共著)などがある。

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