弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第4回) インターネットによる風評被害を防げ!

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公開日:2015.07.23

 過去、不適切なマスコミ報道によって、一部の地域産の野菜がダイオキシンと関係があると誤解され、価格が大暴落したことがありました。現在も東日本大震災の影響で、原発事故とはまったく無関係と思われる企業も、原発から比較的近い場所にあるというような理由で、その企業活動に影響が出ています。

 このように根拠のないうわさ話、虚偽の情報などによっていわれなき損害を受けることが、いわゆる「風評被害」です。放置をしていると、企業イメージの低下だけでなく、売り上げや株価の低下、従業員のモチベーションの低下にまで発展しかねません。そのため、企業ではこのような風評に対する予防・対策を施す必要があります。

なぜ風評が発信されるのか~原因と対策~

 「火のないところに煙は立たぬ」ということわざがあります。虚偽の情報発信も、基本的には、企業活動が原因となっていることが多いのです。

 たとえば、その原因の1つに「苦情処理の失敗」というものが考えられます。企業が苦情に対して適切に対応したにもかかわらず、顧客は誠実に対応してもらえなかったと考え、ひどい会社であるなどと風評を発信することがあるのです。この原因としては、顧客が企業の苦情に対する回答の理由・根拠を十分に理解できていなかったり、誤解をしていたりすることが多いと思われます。

 そのため、このような風評を防ぐためには、明確な苦情処理基準を公表し、これに基づきその根拠等を丁寧に説明することが重要となります。これにより顧客は、不合理な取り扱いをされた、自分だけが不当な取り扱いをされたなどと考えにくくなると思われるからです。また、いわれのない不誠実な対応をされたと言われないように、苦情対応の会話をすべて録音することも重要でしょう。

 また、従業員が意識せずにSNSで投稿した私的な内容から、企業の風評が発生したり、従業員が企業情報やサービス内容を不用意に開示したりしたことから、その情報を閲覧した人の誤解を生み、風評が生まれることもあります。そのため、従業員に対し、就業規則などによって業務中のインターネットの利用を禁止するなど、一定のルールを設けるべきでしょう。また、研修等によりこれらのルールを周知させ、場合によっては懲戒処分にもなりうることなども周知すべきでしょう。

 ほか、競業企業の不祥事などが、自社への風評の原因となる場合も考えられます。不祥事を起こした競業企業の仕入れ先と、自社の仕入先が同じではないかと疑われ、売り上げが落ちることもあります。

 この原因としては、適切な情報開示がなされておらず、消費者等から、その不祥事と自社が無関係であることが認識できないことが考えらえます。このような誤解をなくすためには、日ごろから重要な情報について開示を行うとともに、業界内で不祥事が起こった場合には、早期に改めて自社の情報を開示・説明することが重要でしょう。

 このように、無用の風評を防止するためには、企業の情報の適切な開示・コントロールが重要であると考えます。

書き込みを見極める!

 上記のような対策をしていたにもかかわらず、事実とは異なる風評の書き込み等があった場合、どのように対応することが考えられるでしょうか。具体的に例をあげてみていきましょう。

【Q1】「国分寺のKD屋法律事務所の弁護士Hはバカ。相談は無意味」との書き込みが口コミサイトに1回だけ投稿された。どう対応すべきでしょうか。

【A1】無視する。

 場所やアルファベット等の情報などから、H弁護士は私(本間)であることは容易に特定できます。そのため、このような場合には、名指しされているものと同様に考えてかまいません。このような具体的な事実の書き込みがない場合は、侮辱罪が成立する可能性があります。しかし一般的な閲覧者であれば、この書き込みを見たとしても具体性がないため、あまり気にしないと思われます。

 また、書き込み自体が1回だけで、今後の投稿がなされなければ、企業の信用に与える影響は皆無に等しいと思われます。そのため、無視をすることで問題ないでしょう。逆に過剰な反応は表現の弾圧として批判されることもあるため、注意が必要です。

【Q2】「国分寺のKD屋法律事務所に損害賠償請求を依頼した。しかし、H弁護士は事件をまったく処理せずに、3年以上も放置した。Hは詐欺弁護士だ」と口コミサイトで複数回投稿された。どう対応すべきでしょうか。

【A2】口コミサイト管理者に削除依頼をする。場合によっては、投稿者に対する損害賠償請求等も検討。

 具体的な出来事の書き込みがなされ、これにより私の社会的な評価を低下させることになるため、名誉棄損罪が成立する可能性があります。また、具体的な出来事の記載があるため、一般的な閲覧者が、真実かのように誤解する可能性が十分にあります。そのため、私の信用に与える影響も大きいと思われ、現在の書き込みを削除する必要があります。

 また、複数回投稿されているので、今後も投稿が継続する可能性も考えられます。そのため、投稿者に対し警告をし、場合によっては損害賠償請求や謝罪広告請求を行うべきでしょう。権利侵害の程度が大きい場合には、新しい風評を防ぐためにも毅然とした対応をすべきであり、これによって批判されることは通常はないと思われます。

 なお、掲示板等での書き込み記事の削除依頼は、多くの場合サイトの利用規約等に従い、サイト管理者やサーバーの管理者に対し行うことができます。そのため、削除のみを求める場合であれば、専門家の関与の必要性はそれほど高くはないでしょう。

インターネットは匿名ではない~情報発信者特定の方法~

 虚偽の情報の削除だけではなく、情報発信者に対する警告や損害賠償・告訴なども行いたい場合、情報発信者を特定しなければなりません。どのようにすれば情報発信者を特定できるのでしょうか。

 インターネットは、インターネット上の住所ともいえるIPアドレスを利用して、個々のパソコンと情報とをつなげています。そして、このIPアドレスは重複して存在しないことになっているため、ある一定の時間にIPアドレスを利用している人(パソコン)は1人(1台)しかいないことになります。そのため、ウェブサイトに投稿等をしたIPアドレスを調べることによって、基本的には情報発信者を特定することができます。

 情報発信者を特定するためには、ある程度の時間がかかります。この間何もしないでいると、プロバイダのデータ保存期間等の関係から被害全部が確認できなくなってしまうことがあります。そのため、まず被害状況を保全するために、URL等がわかるようにウェブページをコピーする、データとして保存することなどが重要となります。

 その後の方法は以下のとおりです。

・掲示板等の問い合わせ情報、会社情報やwhois検索の情報を参考にして、掲示板等のサイト管理者やサーバー管理者を確認します。

・確認できたサイト管理者やサーバー管理者に対し、情報発信者のIPアドレス等の発信者情報の開示を請求します。

・開示されたIPアドレス等をもとに、whois検索により、情報発信に使用されたプロバイダを調べます。

・そのプロバイダに対し、情報発信日時に当該IPアドレスを利用していたものの発信者情報の開示とその開示手続き中に発信者情報が削除されないように、同情報消去の禁止を求めます。

 これらの手続きでは、プロバイダの情報保有期間等との関係から、迅速な手続きが求められており、「仮処分」という裁判所を使った手続きが必要な可能性が高いと思われます。そのため、早期の段階から弁護士と連携をとることをお勧めします。情報発信者の特定まで検討している場合には注意が必要でしょう。

 ※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年8月19日)のものです。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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