弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第22回) 大卒より大変?高卒の新卒採用で失敗しない方法

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公開日:2016.04.25

 この4月から新卒の社員が入った企業も多いと思われます。しかし、すでに2017年の新卒採用スケジュールは始まっています。3月から2017年卒の学生に向けた就活サイトもスタートしており、会社説明会やイベントを行っている企業も多いでしょう。

 「新卒」というと大卒をイメージする人も多いかもしれませんが、高卒ももちろん新卒採用です。高卒の場合、早くから現場での経験を積め、将来企業を担う若手を早くから育成できるメリットがあります。

 こうしたニーズがある一方で、新卒1年目の離職率は、大卒の12.2%に対して高卒が19.4%になっています(厚生労働省 新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況)。そこで今回は、高卒採用する際に覚えておきたいルールと注意点をまとめます。

職安を通さずに高卒採用ができない理由

 高卒採用をする際、特に注意をしなければいけない点は2つあります。1つは、大卒と比べて、採用までの手続きの流れに制約がある点です。

 手続きは都道府県ごとに毎年決められています。一般的には高校新卒の人材を採用する企業は、公共職業安定所に求人票を提出し、チェックを受けてから高校へ求人の申し込みをする必要があります。その後、会社見学会などを実施し、高校側から求人への応募があるのを待ち、面接などを行い、採否を決めるという流れになります。

 公共職業安定所を利用せずに、独自で高校とやりとりをしようとしても、現実的には受け入れてもらえません。なぜかというと、募集期間中は学生であり、しかも未成年者だからです。学業への影響や未成年者が適切な職業選択をできるようにという観点から、このような配慮がなされているわけです。

 そのため、企業が高卒予定者やその保護者と直接連絡を取るということはありません。職業安定所を通さずに、企業が新規高卒者に文書で募集したり、直接応募を勧誘したりできません。高校への訪問も、時期によって制限があるのが一般的です。事前に生徒側から個別事情などを聞くことや書類の提出を求めることもできず、面接も1回などと制限され、採否も速やかに伝えることが求められます。

 さらにインターネットや広告などで募集を出す時期は、およそ採用前年の7月以降からとなることや、利用する履歴書も全国高等学校統一用紙の利用を求められるなどの制限もあります。このように、高卒者を採用しようとする場合、採用の手順などにおいて複数の制約があります。簡潔にまとめれば、必ず職業安定所を通じて募集をするようにして、手順も職業安定所などの指示に従う必要があるということです。

高校が独自に実施している「慣行」に要注意

 高卒採用で、もう1つ注意をしなければならない点として、高校独自の“慣行”が存在しているケースがあることが挙げられます。

 高卒採用には、学校によってさまざまな慣行が存在します。例えば、求人数に見合った生徒数になるよう、校内で選抜がなされる「校内選考」や、求人の際に特定の学校の生徒だけに企業が応募を認める「指定校制」、学生が応募できる企業を一社に制限する「一人一社制」といった慣行があります。

 こうした慣行は学校が独自に行っているものです。応募者をよく知っている学校側が、本人の意向をふまえて推薦をするので、大卒採用以上にマッチングがうまくいくようにも思えます。しかし現実には、冒頭で取り上げた通り、離職率は大卒よりも高くなってしまっています。

 この矛盾を解消するためには、まずは企業が、自社の情報を積極的に高校側に伝えることが重要です。高卒予定者とのマッチングがうまくいかない理由の1つは、企業側の情報提供が少なく、応募者も労働経験が乏しいため、実際の労働のイメージが湧きにくく、就労後にギャップを感じやすいところにあります。さらにいえば、学校の進路指導者も、すべての業界に詳しいわけではありません。

 離職率を下げるには、事前に進路指導者や高校生自身が働く場面をイメージしやすいように情報を提供することが重要です。例えば、ホームページやパンフレットで事業内容、具体的な仕事の内容、先輩からのメッセージ、具体的な1日のタイムスケジュール、昇進の例、福利厚生の内容などを紹介する、写真などを用いた職場紹介を準備する、職場見学会を必ず開催しその様子を公開するといったことが効果です。

 また、企業が高校を訪問し、アピールする時間も限られています。そのため、例えば厚生労働省の職業安定局が開設している「高卒就職情報WEB提供サービス」を利用し、企業の所在地付近の高校で就職率の高い学校に絞って訪問をし、パンフレットなどとともに進路指導者に対してアピールをするのも手です。

 さらに可能であれば、採用ではなく面接の前に、業務内容だけでなく、労働時間、賃金形態などの労働条件もできる限り書面で明示することをお勧めします。

 高卒に限った話ではありませんが、離職の原因の1つに、労働条件が不明確であることなどから生じる会社への不信感があります。高卒の場合には、大卒と比べ事前の知識不足などから理想と現実にギャップが生じ、不信感が生まれやすい傾向にあります。そのため、実際に予定している労働契約書や就業規則などを提示しておけば、ギャップを回避し、会社との信頼関係を築きやすくなります。

 なお労働契約を締結するときは未成年であっても、企業は未成年者自身と直接結ぶことになります。賃金も学卒予定者に直接支払います。この際に、親権者から同意書を取り付けておくと、後日のトラブル防止にも役立ちます。

 就職は、人生の重要な選択場面です。それだけに、トラブルも生じやすいところです。もっとも、「高校生の目線」「進路指導者の目線」で見た場合に、これまで十分な情報提供がなされていたかというと疑問があります。事前に十分な情報提供を行うことができれば、離職率の低い高卒採用が実現するでしょう。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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