税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第111回) 2025年度税制改正でiDeCoが変わる

業務課題 経営全般資金・経費

公開日:2025.05.09

iDeCoの仕組みとメリット

 老後の資産形成のために、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)の活用を検討している人も多いのではないでしょうか。iDeCoは、加入者が拠出した掛け金を自分で運用して資産を形成する年金制度で、公的年金とは別に給付を受けられます(私的年金制度といいます)。掛け金は65歳まで積み立て可能で、60歳以降に老齢給付金を受け取れます。運用対象商品は、投資信託や定期預金などです。

 金融商品などを運用すると、通常は掛け金や運用益に税金がかかりますが、iDeCoは老後の資産形成を目的とした年金制度のため、税制面のメリットがあります。

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〔メリット1〕
iDeCoの掛け金は、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。そのため、所得税や住民税の節税につながります。

〔メリット2〕
運用益は非課税です。通常、株式や投資信託などの金融商品の運用益には20.315%の税金(源泉分離課税)がかかりますが、iDeCoの運用益には税金がかかりません。

〔メリット3〕
将来、給付金(老齢給付金)を受け取る際にも控除の対象となります。

 老齢給付金には「一時金」として受け取る方法と、「年金」として受け取る方法があります。併用も可能です。「一時金」として受け取る場合は退職所得とみなされ、退職所得控除を適用できます。「年金」として受け取る場合は雑所得に該当し、「公的年金等控除」の対象となります。

2025年税制改正で掛け金の拠出限度額を引き上げ

 公的年金を補完し、豊かな老後生活に向けた資産形成を支援するという私的年金の役割を踏まえ、iDeCoの拠出限度額の引き上げ等が2025年度税制改正大綱に盛り込まれました。

 企業に勤める会社員(第2号被保険者)がiDeCoと企業型確定拠出年金(DC)を併用した場合の掛け金の限度額は、現行の月額5.5万円から月額6.2万円に引き上げられます。また、現行ではiDeCoの掛け金の上限は月額2万円となっていますが、改正後は上限が撤廃されます。企業年金制度がない会社の従業員は、iDeCoの掛け金の上限が現行の月額2.3万円から月額6.2万円に引き上げられます。

 自営業者など第1号被保険者は、国民年金基金の拠出額との合計が、現行の月額6.8万円から月額7.5万円に引き上げられます。iDeCoに掛け金を拠出できる期間は、これまでの20歳から65歳までから、70歳未満まで拡大されます。

<掛け金の拠出限度額>

現行 改正後
第1号被保険者(自営業者など) 国民年金基金の拠出額と
合算で月額6.8万円
国民年金基金の拠出額と
合算で月額7.5万円
第2号被保険者
(会社員・公務員
など)
企業年金なし iDeCoで月額2.3万円 iDeCoで月額6.2万円
企業型DCのみ加入 いずれも合計で
月額5.5万円

(iDeCoの上限は2万円)
いずれも合計で
月額6.2万円

(iDeCoの上限は撤廃
DCと確定給付企業
年金(DB)に加入
公務員

退職所得控除を見直し、「5年ルール」から「10年ルール」へ

 拠出限度額が拡大すれば税制上のメリットも拡大しますが、同時にiDeCoの老齢給付金を一時金で受け取る場合の「退職所得控除」の見直しも、2025年度税制改正大綱に盛り込まれました。これは「課税逃れ」を防ぐための改正といえます。

 退職所得は以下の算式で計算されます。
(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/ 2 = 退職所得の金額
この算式にある退職所得控除は、以下のように計算されます。

■勤続年数が20年以下の場合:退職所得控除額=40万円×勤続年数
ただし、計算結果が80万円未満の場合は80万円
■勤続年数が20年を超える場合:退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 なお、退職所得控除の計算は、退職金の場合は勤続年数、iDeCoの場合は加入期間を使用します。

 現行では、退職金より先にiDeCoの老齢給付金を一時金で受け取る場合、5年の間隔を空ければ退職金とiDeCoそれぞれ、勤続期間や加入期間に応じた退職所得控除を満額受けられます(5年ルール)。5年に満たない場合は重複期間分を除いて計算するため、控除額が減ります。

 2025年度税制改正により、この5年ルールが10年ルールに変更されます。退職所得控除をそれぞれ満額で使うためには、iDeCoの一時金を受け取ってから退職金を受け取るまで10年の間隔を空けなければならなくなります(10年ルールへの変更)。これは、定年の引き上げなどにより退職金の受給年齢が65歳以降となるケースが増えていることを踏まえた改正といわれています。

 この改正により、勤務先企業の退職金に加えてiDeCoの老齢給付金を受け取る人は、受け取るタイミングによって税負担が増える可能性があるため、注意が必要でしょう。

 iDeCoの老齢給付金は一時金として受け取る方法と、年金として分割受給する方法があります。年金で受け取る場合は雑所得に該当し、公的年金等控除の対象となります。そこで一つの方法として、iDeCoの老齢給付金は年金で受け取り、会社から受け取る退職金は退職所得控除を満額使用する選択肢もあると思われます。

 iDeCoの老齢給付金と会社から退職金などを受け取る予定のある人は、iDeCoの老齢給付金の受け取り方や受け取る時期によって、税負担がどのように変わるかのシミュレーションが必要かもしれません。

執筆=多田恭章
一般社団法人租税調査研究会主任研究員。税理士・社会保険労務士
TOP総合会計事務所所長。元東京国税局調査部移転価格事前確認・調査担当、都内税務署国際税務専門官、東京国税局法人課税課、国税庁国際業務課(情報交換担当)を歴任。

監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。

一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手がける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。

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