弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第111回) 2023年不正競争防止法改正、来年の施行に備える

法・制度対応

公開日:2023.12.21

 事業を営む者にとって、第三者にコピー商品や模倣商品を販売されることは大きな問題です。不正競争防止法は、このような事業者間の公正な競争を害する行為を規制するための法律です。

 この不正競争防止法について改正がなされ、2024年4月1日から施行される予定です。不正競争防止法の改正のうち、事業者への影響が大きいものについて解説します。

デジタル空間における模倣行為の防止

 近年、メタバースなどのデジタル空間における経済取引が活発化しています。他人の商品を模倣する行為はデジタル空間においても可能ですので、例えば、現実空間において著名なブランド商品を模倣した商品を、デジタル空間において販売することも想定されます。

 改正前の不正競争防止法では、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」が不正競争とされていました(不正競争防止法第2条第1項第3号)。この「商品」に無体物が含まれるかどうかについては、解釈に争いがありました。

 デジタル空間における経済取引が活発化する中で、デジタル空間上でも模倣商品の取引が規制対象になると明確化するために、今回の改正では「他人の商品の形態を模倣した商品を電気通信回線を通じて提供する行為」も不正競争であると明文化されました。

 今回の改正により、デジタル空間上での模倣商品の取引が明確に規制されるようになりましたので、このような商品と判断される可能性があるかどうかチェックしておきましょう。なお、模倣商品を提供した者に対しては、刑事罰(不正競争防止法第21条第2項第3号)があります。

 また、模倣された者は、模倣商品を提供した者に対して、損害賠償請求(不正競争防止法第4条)や差し止め請求(不正競争防止法第3条第1項、第2項)が可能です。模倣を見つけた場合の対応についても確認していきましょう。

損害の推定規定の対象の拡大

 先述のとおり、不正競争防止法による救済手段の一つに損害賠償請求があります。損害賠償請求を行う際には、不正競争により権利を侵害された側が、損害の立証を行わなければならないのが原則です。ただ、その立証は簡単ではありません。例えば、メーカーなどが営業損害を請求する際に、不正競争がなければ得られたであろう利益(逸失利益)を請求しますが、商品の販売数の増減にはさまざまな要因が絡むため、不正競争によりどの程度販売数が減少したか、より多くの商品を販売できたかを証明するには困難が付きまといます。

 そのため、不正競争防止法では損害の推定規定が置かれていますが、今回の改正ではこの推定規定が拡充されています。まず、現行法の推定規定では、損害賠償請求をする場合、侵害者が不正競争行為により組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売できた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者が受けた損害の額とすることができると定められています(不正競争防止法第5条第1項)。

 例えば、不正競争行為に基づいて生産した商品を販売しているような場合、被侵害者が販売できたであろう商品の数量に、商品の数量あたりの利益を乗じた金額が損害であると推定されます。この損害額の推定規定については、現行法では「営業上の秘密」には適用できませんでしたが、今回の改正により適用対象に含まれるようになりました。これにより、営業秘密を不正取得した者が、それを利用して商品の販売などを行っているような場合に、この推定規定が利用できるようになります。 

使用料相当額の請求が可能になる

 また、現行の推定規定は「物の譲渡」に限定されていましたが、今回の改正により、「物」だけでなくデータなどの電磁的記録も含まれるようになり、「譲渡」だけでなく「役務の提供」も含まれることになりました。

 さらに現行法の推定規定では、「被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において」損害が推定されるとされ(不正競争防止法第5条第1項本文)、「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除する」とされています(不正競争防止法第5条第1項但書)。

 つまり、不正競争行為により営業上の利益が侵害された場合であっても、被侵害者の生産能力や販売能力を超える数量を販売されてしまった場合は、その超過部分については損害として認められていませんでした。

 今回の改正では、この超過部分については、使用許諾料相当額として損害賠償請求ができるようになり、その使用許諾料については不正競争をした侵害者との間で合意をするとしたならば、被侵害者が得る対価を考慮できるとされました。つまり、仮に侵害者と被侵害者との間でライセンス契約を締結するとすれば、いくらのライセンス料で契約するかを考慮した上で、超過部分について損害として計上できるようになります。

 以上、不正競争防止法の主な改正点について説明しました。デジタル空間における模倣行為などが規制対象に含まれたり、損害賠償請求がより行いやすくなったりするなど重要な改正が盛り込まれています。不正競争防止法は、事業者にとって重要な法律です。あまり意識していない事業者も多いと思いますが、これを機に経済産業省特許庁のWebサイトなどで確認し、概要程度は知っておいた方がよいでしょう。

執筆=近藤 亮

近藤綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属) 平成27年弁護士登録。主な著作として、『会社法実務Q&A』(ぎょうせい、共著)、『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房:2019、共著)、『民事執行法及びハーグ条約実施法等改正のポイントと実務への影響』(日本加除出版:2020、共著)などがある。

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