ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第65回) ゴルフに学ぶ、個の時代の「助け合い」の精神

コミュニケーション スポーツ

公開日:2020.12.22

 ゴルフは個人競技とされていますが、他の個人競技と異なる点があります。それは、同伴競技者(対戦相手)と互いに“助け合う”要素があるという点です。競技である以上、勝ち負けを競うスポーツなのでは?と思う方がいるかもしれません。しかし、シビアな競技レベルを除いた皆さんが楽しむゴルフにおいては、同伴競技者を応援し助けつつ、自分自身も良い結果を求めて最善を尽くすスポーツなのです。今回は、このゴルフ特有の「相手を応援して助ける」という行為を考えてみましょう。

ゴルフに見られる助け合いのシーン

 私が主管するゴルフスクールが主催しているゴルフコンペは、親睦を目的とし、それほど競技性の高いものではありません。初心者でも参加しやすく和気あいあいとした“ゆるい”コンペがほとんどです。ラウンド経験の少ない初心者の方も参加されますので、最初はサポートが必要になります。1組限定のラウンドレッスンの場合、インストラクターは終日その組につきっきりで指導やサポートを行いますが、ある程度の人数が参加し、複数の組になるコンペではそうはいきません。「○○さんは初心者なのでよろしくお願いします」と紹介し、後は、同じ組でプレーする先輩ゴルファーに初心者をフォローしてもらっています。

 ゆるいとはいえコンペですので、当然スコアを競い合っています。ゴルフコンペでは、初心者には大きなハンディキャップが付きますから、先輩ゴルファーを差し置いて優勝する可能性はゼロではありません。それでも多くの先輩ゴルファーは一緒に回る初心者を応援し、サポートします。同じ組で回った人が優勝すると、まるで自分のことのように喜ぶ人の姿を目にするシーンも珍しくありません。「対戦相手」ではなく、1日一緒にゴルフを楽しむ「仲間」といった感覚になるのだと思います。

 サポート役の先輩ゴルファーにも、かつては初心者で先輩のサポートに助けられた経験があるはずです。先輩の助けを借りてゴルフコンペを楽しむことができた新米ゴルファーも、経験を重ね、いつしかベテランゴルファーへと成長していきます。そしてまた、後輩の新米ゴルファーをサポートする側に回ります。このように、ゴルフは助け合いの連鎖が続いていくのです。

 同伴者を助ける場合、その相手は初心者だけとは限りません。深いラフや林の中に打ち込まれた他人のボールを一緒に探す、打ちたい方向が見えない人に方向を教える、カートが遠くに離れていたら、カートの近くにいる人が、打者の使いたいクラブを探して渡す……など、ゴルフには同伴競技者を助けるシーンが多分に見られます。また、バンカーショットの後はバンカーをならす、目土をしてディボットを埋める、グリーン上のボールマークを修復するといった行為は、後続組の競技者を助ける気遣いといえるでしょう。

“個の力”が重視される時代に変わりつつある

 ゴルフコンペにおける助け合いの例を紹介しましたが、ビジネスシーンではどうでしょうか?近年、リモートワークを導入する企業が増えています。同じオフィスで仕事をしていたときは、困っている人や悩んでいる仲間がいれば力になることができました。また、自分が困ったり悩んだりしたときも、隣の人に聞いたり周囲の人に相談することができました。このように当たり前だった助け合いですが、リモートワークの導入によってそれが難しくなったと感じるビジネスパーソンも少なくないかもしれません。私のスクールでも、リモートワークをしているお客さまの中には「会社に在籍していながら、まるで個人事業主のようだ」といった声が聞かれました。

 リモートワークの導入により、社員、個人個人の評価の仕方も変わりつつあります。従来は、極端に言えば出社さえしていれば仕事をしていると見なされていたケースもありました。しかし、リモートワークではそうした甘えは許されなくなります。どんな仕事をしているのか、どんな成果を出しているのかを明確にすることが求められ、それによって個人個人の評価が大きく異なることになります。

 また、最近は雇用形態も「人に仕事を付ける」という考え方のメンバーシップ型から、「仕事に人を付ける」というジョブ型に移行させる企業も増えています。そうした企業では終身雇用や年功序列といった従来の日本型のシステムがなくなり、個々の社員をシビアに評価するケースが目立ちます。

 さらに近年は、副業・兼業を解禁する企業が少なくありません。1社にしがみつかず、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方で、能力のある人がより稼ぐことのできる環境が整いつつあります。こうして見ると日本のビジネス社会においても、“個の力”の重視が大きな流れになっているように思えます。

助け合いの精神で生産性の向上を

 しかし、いくら“個の力”がモノをいう時代が到来したとはいえ、ビジネスは1人の力では成り立ちません。取引先、上司や同僚、場合によっては同業者などと助け合う場面があります。例えば、最近話題の「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みにおいては、企業レベルを超えた協調が不可欠です。ビジネスには「助け合いの精神」も不可欠なのです。

 最初のコンペの説明でお分かりいただけたように、ビジネスに求められる「助け合いの精神」を学ぶに当たり、ゴルフは格好のスポーツです。ゴルフには、初心者を温かく迎え、プレーヤー同士が助け合うという文化があります。人は誰かに助けられると、今度は誰かを助けたくなります。そして人を助けると、それがモチベーションアップにつながり、自分のパフォーマンスにもプラスに働きます。そしてそれが組織としての生産性向上につながり、結果として関係者すべてに実りをもたらします。

 新型コロナウイルス感染症の収束に関しては、まだまだ先の見通しが立ちません。しかし、これを機会と捉え、“個の力”を向上させ、それを存分に発揮できる環境づくりが企業に求められています。個人競技であるゴルフで助け合いの精神が発揮されているように、ビジネス社会においても、周囲と協力して最大の成果を生み出す働き方が求められているように思います。

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

【T】

あわせて読みたい記事

連載バックナンバー

ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」