ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第61回) プレーファストに徹することがお互いの成長を築く

スポーツ

公開日:2020.08.18

 コースをラウンドしていて、次のようなケースを経験したことはありませんか?ある局面で使いたいクラブが手元になく、かつカートが遠い場合、カートまでそれを取りに行くべきか、あるいはプレーファスト(PLAY FAST)の観点からそれを我慢し、手元にあるクラブで打つべきか……に迷うケースです。

 ゴルファーなら、1打でも良いスコアで上がるために最善を尽くすべき。多少時間がかかっても、使いたいクラブを取りに行き、悔いの残らぬようプレーすべきだ……という考え方がある一方で、ゴルフの本質は他人に迷惑をかけないこと。たとえ使いたいクラブが手元になくてもプレーファストを意識するなら、そのまま手持ちのクラブでプレーを続けるべきだ……という考え方もあります。そもそも、ストローク前には、あらかじめ使いたいクラブ数本を手元に用意しておくべきで、それを怠った自分を改めるべき!という意見もあるでしょう。

 このように、良いスコアを追求すべきかプレーファストを守るべきか、どちらを優先するのかの選択に迫られたとき、どのように行動するのがプレーヤーとして正解なのでしょうか。

誰もがしがちな反プレーファスト行動とは?

 「少しでも良いスコアで上がりたい!」。その思いから、プレーファストではない行動、すなわち反プレーファスト行動を取ることが度々あります。

例えば……

(a)何度も素振りを繰り返す
(b)何度も仕切り直しをして方向を確認する
(c)やけに長いアドレスを取る
(d)クラブ選択などの決断に時間をかける

などがあります。

 以前、第56回のコラム「ショットを安定させるクオリティーコントロール」では、ナイスショットに不可欠な5つのステップについて説明しました。これら5つのステップ、どれが欠けてもうまく打つことはできません。

 プレーファストではない行動、上記例(a)何度も素振りを繰り返す人は、5つのステップのうち「決断」から「実行」になかなか移せない人だといえます。素振りをしながらスイングをチェックしている人、もしくはクラブヘッドが地面を正しく通過することを確認している人が多いように思います。

 (b)何度も方向を確認する人は、「イメージ」が固まりきらず「目標設定」を繰り返しやり直しているのか、「実行」の段階で、正しく目標方向に構えているかに自信が持てない人なのかもしれません。

 (c)やけにアドレスが長い人も少なくないでしょう。このタイプの人は、何度も素振りをする人と同じように、「実行」の段階であれこれ迷いがある人、つまり「決断」ができていない人ではないでしょうか。単にプレッシャーで動けなくなっているだけ、というケースも考えられます。

 (d)クラブ選択などの決断に時間をかける人は、文字通り「決断」ができない人です。

反プレーファスト行動ではナイスショットを期待できない

 素振りをしながらスイングをチェックしている人や、クラブヘッドが地面を正しく通過することを確認している人、アドレスがやけに長い人は、それだけ余計な意識が働いているわけですから、スムーズなスイング動作を妨げるリスクが高まります。

 例に挙げた(a)~(d)をまとめると、決断ができない、自信がない、迷いがあるなどが原因で、5つのステップいずれかで滞っている状態です。これではナイスショットを望むことは難しくなります。ナイスショットを打ちたい一心で何度も素振りをしたり、慎重にプレーしようと長くアドレスを取ったりする反プレーファスト行動は、実はナイスショットの妨げとなっているケースが多いのです。

 このように、反プレーファスト行動をした結果、ナイスショットに結びつかないケースが少なくありません。良いスコアで上がることを優先しているつもりなのに、それに反する結果につながっているのですから本末転倒といえます。

 こうした点から、冒頭の問い「良いスコアかプレーファスト、どちらを優先して行動するのが正解か」に対して、私は「プレーファストに徹しなさい」と答えます。それが良いスコアにもつながるからです。

プレーファストはゴルフの上達につながる

 私は、ゴルフスクールにお越しいただくお客さまが初心者の場合に必ず伝えていることがあります。自分のプレーより、後続組に迷惑をかけないことや、同伴プレーヤーへの気配りや配慮のほうが大事であることを述べ、その上でスロープレーは後続組や同伴プレーヤーに迷惑をかけることになるため禁物であることを伝えます。自分本位で利己主義的なプレーではなく、利他主義に基づくプレー、つまり、プレーファストを教えています。

 お客さまが中級以上の場合、プレーファストは後続組や同伴プレーヤーのためだけではなく、己のためになることを伝えます。プレーファストだからこそ、5つのステップのうち、「情報収集」によって状況を判断し、「目標設定」や「イメージ」といった“自分のための時間”が取れるからです。

 冒頭で例示した、使いたいクラブが手元にないケースにおいても、プレーファストの行動は己のためになります。なぜなら、限られた時間をクラブを取りに行くことに使うのか、手元にあるクラブで最善の方法を模索することに使うのか、先々のスキルアップにつながる行動は後者だと言い切れるからです。

 前者の場合、「このシーンではこのクラブ」といった固執的なイメージから脱却することができず、技術の引き出しを増やすことができません。一方後者は、失敗するかもしれませんが、それで新たなチャレンジができ、うまく行けば技術の引き出しを増やすことにつながります。

 プレーファストとは、時間の最適な使い方を実行することだといえるのかもしれません。プレーに参加する全員が時短を心掛けていれば、必要以上に他人の時間を浪費させることもなく、お互いのスコアにも良い影響を与え合うことができます。

 ビジネスも「時は金なり」。市場は変化しているのに、これまでのやり方に固執しているばかりでは時流についていけなくなるでしょう。新型コロナウイルス対策で勢いのついているテレワークへの転換、これで「移動時間がなくなった」「会議時間が短くなった」という企業が多いそう。こうしたことは、ゴルフでいうプレーファストの実践に似ているのではないでしょうか。

 ゴルフは、プレーファストのスポーツです。そして、それは“他者と自己の成長”につながります。まさに「情けは人(他人)のためならず、巡り巡って自分のため……」です。テレワークも会社としての生産性向上と、従業員のワーク・ライフ・バランスの改善の両方に効果があります。時間の最適な使い方を実行するのはゴルフだけではありません。ビジネスについても、時間の使い方を改善していきましょう。

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

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