ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第10回) 逆境を好転させるメンタリティー

スポーツ

公開日:2016.05.31

 春の人事異動で、新しい環境で業務をスタートされた方も多いのではないでしょうか。新しい部門を率いたり、新たなプロジェクトを任されたりといった、新たな挑戦は気持ちがワクワクするものです。

 しかし、新たな挑戦といっても場合によっては自分の希望と異なることも少なくありません。不得手分野のプロジェクトを任されたり、苦手なタイプの部下の面倒を見たりしなければならないといった状況になると、不安や失望のほうが大きく、ネガティブな気持ちになりがちです。

 ゴルフプレーにおいても自分にとって好ましくない状況に陥るケースがあります。むしろ、珍しくないといっていいかもしれません。そんな逆境を克服するためには、物事をプラスに転じる発想が肝心です。それは勝つためのマインドとも言い換えられるかもしれません。

ボールを林に打ち込んだときの打開策

 例えば、ティーショットを大きく曲げて、林に打ち込んだとしましょう。多くのゴルファーは、こうした場合ネガティブな気持ちになるのではないでしょうか。しかし、そうした心理状態で、林の中から打つという難しいショットに挑んでも、成功の確率は低くなります。ネガティブな感情は心に“ノンフロー”を引き起こし、パフォーマンスを著しく低下させるからです。

 “ノンフロー”とは、応用スポーツ心理学でいうパフォーマンスが低下する心の状態です。一方、パフォーマンスが向上する心の状態を“フロー”といいます。ポジティブな感情、つまり、ウキウキ、ワクワク、楽しく、物事に集中している心の状態です。林にボールを打ち込んだときでも、気持ちは“フロー”に切り替えることが大切です。どうしたら気持ちの切り替えができるのでしょうか。

 結論からいえば、「楽しむ」ことです。林の中からどこを狙えば脱出できるのか、確実にベスト地点へボールを運ぶルートはあるか、グリーンを狙えるポイントはないか、次のショットで攻められる場所はどこか……などなど。それらをパズルでも解くかのように考えるのです。

 林の中であっても、四方八方全てを塞がれ、脱出できる方向がまったくないということはあり得ません。よく見ればどこかしら抜け道があるものです。それを探し出し、脱出ゲームをしているように楽しんでみましょう。どうでしょう、ワクワクしませんか。ワクワクしながら楽しめれば、心はフロー状態になり、パフォーマンスは向上します。そうなれば、たとえ林の中からの難しいショットであっても、成功の可能性はグンと上がります。

宮里藍選手の活躍を支えたメンタリティー

 かつて、あるトーナメントで、宮里藍選手がバンカーに入れたあと、何事もなかったようにリカバリーショットを決めました。試合後、密着取材していたテレビキャスターが、このことについてインタビューしました。

 「どんなことを考えて打ったのですか?」

 すると、宮里選手は次のように答えました。「バンカーに入れたのは“失敗”ではなく“事実”なんです。ただ目の前にあるボールを打っただけです」と。バンカーに入れたことは失敗ではなく、ただ起きた事実にすぎない。その事実を受け入れて、今やらなければならないことに全力を注いだ、と彼女は答えたのです。

 この考え方は、ゴルフに限らずビジネスや生活のあらゆる逆境において参考になります。宮里選手が日本国内に止まらず、海外でも活躍できたのは、こうしたメンタリティーが支えになっていたのでしょう。そしてこれこそが、気持ちを“フロー”に切り替える思考法です。過去にとらわれず、今に集中できればパフォーマンスも上がり、良いスコアにつながる確率が上がります。

逆境でも楽しめば次のチャンスがやってくる

 ゴルフがうまい人とは、いつでもナイスショットが打てる人でもなく、いつでもフェアウエーをキープできる人でもありません。ゴルフが本当にうまい人とは、悪天候、林やバンカーなどの逆境だろうと、常にベストを尽くし、それを乗り越えられる人です。

 冒頭のビジネスの話に戻しますが、希望しない人事異動を命ぜられ、人事や上長を恨んでも物事は好転しません。希望する部署に配属された同僚を妬むのも同じです。逆に、「恨み」や「妬み」といった負の感情は心に“ノンフロー”を引き起こしてしまいます。そうなると、成果を上げることは難しくなり、あなたの評価は下がることになります。

 「過去と他人は変えられない、変えられるのは未来と自分だけ」という言葉があります。起きてしまったことはすでに過去のことと割り切って悔やまない。人事という自分の力ではどうしようもないことをクヨクヨ考えていては、物事は前に進みません。過去はこだわることなく、自分が置かれた現状を肯定し、未来を良くするために最善の努力をしていけばよいのです。

 配属先が希望する部署でなくても、任されたプロジェクトがやりたい仕事でなくても、宮里選手のようにそれを「事実」と受け止め、目の前の仕事に全力で挑みましょう。そして、林の中に打ち込み次の一打を考えるように、そこでの仕事を楽しんでください。そうすれば、きっと次につながる新しい視界が広がっていくでしょう。

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

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