ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第64回) 女子プロ人気の世代に学ぶ、若い人材の活躍要件

スポーツ

公開日:2020.11.24

 女子プロゴルフ界において、昨年、全英女子オープンを1998年生まれの渋野日向子選手が制したのを皮切りに、最近は非常に若い選手の活躍が目覚ましいと感じます。特に、98年度生まれの世代は「黄金世代」と呼ばれ、ゴルフ界で注目を集めています。そして、今年はコロナの影響で多くの大会が中止になる中、さらにその下の「プラチナ世代」と呼ばれる2001年生まれの笹生優花選手(19歳)が2週連続優勝を飾り、日本女子プロゴルフ協会(以下略、JLPGA)ツアー競技で年間賞金ランキングの首位に立っています(10月18日時点)。これら若い選手の活躍の裏には、ゴルフ環境の変化と組織的な取り組みがありました。今回は女子プロゴルフを通じて、若い世代が活躍するための要件について考えてみたいと思います。

ボールやクラブの進化がゴルフのプレーを変えた

 20歳前後の若い女子プロが活躍している背景には、まず、ゴルフのプレースタイルの変化が挙げられます。かつての女子プロゴルフトーナメントでは、ボールを曲げたり、スピンをかけてグリーン上で止めたり、引いたり(バックスピンをかけてボールを戻すこと)といったテクニックにたけている選手でなければなかなか勝てませんでした。しかしここ数年、ゴルフのプレースタイルがシンプルに変化してきています。第1打はフェアウエーの真ん中に打っておき、グリーンを狙うショットでは無理をせず真ん中辺りに乗せておき、あとはパッティング勝負……。

 こうしたプレースタイルの変化をもたらしたものは、ボールとクラブの進化です。かつてのボールとクラブは、ダウンブローに打ち込み、かつ腕をロールさせるなどのテクニックがなければ球は上がらず、距離も出ませんでした。テクニックが必要であったため、ある程度経験を積んだベテラン選手でなければ、なかなか勝つことができなかったわけです。

 それが、ボールとクラブがここ数年で劇的に進化したため、そのようなテクニックが不要となり、シンプルに真っすぐ打ち、シンプルにグリーンを狙うスタイルに変わっていきました。高度なテクニックがなくとも、体力があって飛距離が出せる選手が有利になり、トーナメントで若い選手が活躍するようになったのです。

若手ゴルファー育成のための取り組み

 黄金世代やプラチナ世代が活躍する要因の2つ目が、試合環境の変化です。JLPGAが若手ゴルファーの育成を図るため、2001年にアマチュア(主に学生)のトーナメントへの出場制限を撤廃。トーナメントを主催する企業の「主催者推薦」という枠で、有望な多くの学生ゴルファーに出場の機会が与えられるようになりました。今年からはその出場枠に8試合までという上限が設けられたものの、多くの有望選手がプロ入りする前から多くの試合に出場できるようになったのです。

 2014年、当時高校1年生だった勝みなみ選手が女子プロのトーナメントでアマチュアでありながら優勝を果たし、翌2015年には年間15試合、2016年には年間23試合出場しています。これはプロ入り前のことです。彼女は高校卒業後の2017年にプロ入りしました。つまり今、黄金世代やプラチナ世代と呼ばれて注目されている選手たちはプロ入りしてから強くなったのではなく、プロ入りする前からプロのトーナメントに出場し、試合経験を十分積んでいるからこそ、プロ入りして即活躍できているという見方ができるのです。

ただ強いだけでない女子プロ人気の背景

 JLPGAの若手ゴルファー育成の取り組みはこれだけではありません。もう1つ効果的だったと考えられるのは研修制度の充実です。新人女子プロゴルファーの研修は2つあります。その1つが、毎年9月に開催されるメジャー大会「日本女子プロゴルフ選手権大会」の試合会場で実施される「ルーキーキャンプ」です。

 ここでは、コースの球探しやフォアキャディー(コース前方でボールの行方を確認するキャディー)、キャリングボード持ち担当、ギャラリー誘導担当、練習場の整理担当といったトーナメントを支える裏方の仕事を、新人プロに経験させます。新人プロはこの経験を通じて、トーナメントの運営の仕組みや、裏方の大変さ、そしてトッププロの振る舞い、ファンとの接し方などを学びます。これにより、多くの新人プロは、トーナメントを支えてくれる大会関係者やスタッフ、お客さまへの感謝の気持ちが芽生えるといいます。

 新人プロ研修の2つ目は、毎年12月に行われる「新人セミナー」です。これは1995年から毎年開催されているもので、社会人としてのマナーや身だしなみ、トレーニング方法やメンタル、メディア対応、プロアマ大会での振る舞いやファンへの対応、そして税金の知識など、この研修で学ぶ項目は多岐にわたります。昨年はSNSの利用に関する講義もあったそうです。

 黄金世代やプラチナ世代の選手ばかりか女子プロ全体に、関係者・スタッフ、ファンへの気持ちのよい対応が浸透しているのは、このようなしっかりした教育環境が整っているからに他なりません。そしてこのことが、現在の女子プロ人気のベースになっていることは間違いないでしょう。

若い人材を即戦力化する要件とは

 若い選手が活躍する背景には、ボールやクラブといったツールが進化し、体力のある世代に有利なゴルフスタイルに変化したということと、試合に出て経験が積める環境づくりや教育環境の整備など、組織がしっかりとその土壌を下支えしている点が挙げられます。こうしたことは、ビジネスにおいても若い世代が活躍するための要件とまったく同じではないでしょうか。

 多くの職場で、若い人材を即戦力化し、できるだけ早く第一線で活躍させたいと考えているでしょう。デジタルネーティブ世代、とりわけ“Z世代”と呼ばれる1990年代後半以降に生まれた層は、子どもの頃から携帯電話が存在し、インターネットが当たり前の中で育っています。スマートフォンやタブレットを使いこなし、SNSの活用にもたけています。このことは、女子プロゴルフ界において、進化したボールやクラブを使いこなす黄金世代やプラチナ世代とかぶります。

 そして、現在のようなネット情報があふれている社会だからこそ、自ら得た実体験が最も信頼できる糧になります。それがアマチュア時代からのトーナメント出場であり、ルーキーキャンプでの経験です。

 こうしたことを考えると、若い人材をいち早く活躍させるには、上の世代が、自分たちの仕事のやり方を絶対と考えず、新しい最新のビジネスツールを生かした新しいやり方を認めて、それを生かしやすい環境を整えることが大切だと思われます。そして、充実した教育環境を提供し、早いうちから多くの経験を積ませることで、若い人材は伸びていくでしょう。

 若い人材が活躍する環境をつくり、整備していくのは、経営陣や先輩社員の役割です。皆さんの会社でも黄金世代、プラチナ世代を育成し、業績アップにつなげてください。

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

【T】

あわせて読みたい記事

  • ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第97回)

    3つの悩みを解決し、ゴルフを長く続けていく

    スポーツ

    2024.12.23

  • ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第96回)

    ウェルビーイングでパフォーマンスを高めよう

    スポーツ

    2024.09.26

  • ココロ踊る!山麓生活のススメ(第28回)

    日本各地を巡って「水」を考える

    スポーツ

    2024.08.26

連載バックナンバー

ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」