ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
新型コロナウイルス感染拡大の影響でゴルフ場の営業形態が大きく変化しました。2020年5月中旬、ゴルフ場を運営する業界団体は連名で「ゴルフ場業界としての『新型コロナウイルス感染症』感染拡大防止ガイドライン」を公開し、加盟団体に周知徹底を呼びかけました。
その結果、多くのゴルフ場では休憩や昼食を挟まないで18ホールを回りきるスループレーを導入し、レストランを休業したり、ランチ限定営業を行ったり、平時以上に衛生管理を徹底するようになっています。
ロッカールームやフロント受付などでは、人の滞留を避けるための工夫やソーシャルディスタンス確保が目に付くようになりました。事業者はゴルフ場の運営を維持すること、プレーヤーは快適なゴルフプレーを楽しむことを望んでいますから、今はお互いの協力が不可欠です。
新型コロナウイルスの感染拡大によってゴルフ場のビジネスモデルは変化を迫られていますが、今後を考えると、日本のゴルフ文化においては良い影響があるのではないかと思うようになりました。今回は、ゴルフ場並びに集客施設におけるビジネスモデルの時流予測をしてみたいと思います。
感染予防に対応しているゴルフ場の営業形態の変化を、もう少し詳しく見てみましょう。従来は、午前中に9ホールをプレーし、クラブハウスに戻り、少々お高めのランチで会食。午後に残り9ホールを回った後、大きな湯船にのんびりつかってプレーの疲れを癒やし、それぞれの家路に就く、そんなルーティンが日本におけるゴルフ場利用の「当たり前」でした。こうしたパターンは昔話になるかもしれません。
また、従来は、ゴルフ場に着くとクラブハウス玄関でポーターさんがキャディバックを預かり、カートに積み込む作業までをすべて任せることができたコースも少なくありませんでした。しかし、今では、接触機会になるということでこうしたサービスを撤廃し、カートに積み込むまでをプレーヤー自身で行う完全セルフのコースが増えました。このようにサービスを簡素化した分、セルフプレー料金を設定するなど、料金を割り引くコースが多く見られるようになりました。
さらに、従来は1組4人で回るプレースタイルでしたが、2~3人で回る2サム、3サムをゴルフ場側が推奨することも増えました。乗用カートの使用は、4人で回る場合1組で1台でしたが、安全対策に考慮して2台提供するコースが多くなっています。ゴルフ場の乗用カートは密閉空間ではありませんが、4人が1台に乗り合うと人と人との距離が近くなり、感染リスクが高まるからです。
もちろん、冒頭にも触れた通り、18ホールスループレーや9ホールだけのプレーを導入するコースも珍しくありません。これまではプレーをスタートする間隔は7分が一般的でしたが、その間隔を広げたコースも見られます。こうしたことにより1日の来場者数を制限して営業するコースは珍しくありません。冒頭に紹介したガイドラインでは三密(密室・密集・密接)の徹底回避をうたっていますが、その具体的な方法として、さまざまな方法が取り入れられているのです。
こうした中には、夫婦やカップルだけで気兼ねなく回れる、少ない組数でのんびり回れる、18ホールスループレーや9ホールプレーの導入によって多様なプレースタイルが選択できるなど、プレーヤーにとっては好ましい施策もあります。一方、ゴルフ場の経営者にとっては、客数が減ったり、客単価が低下したりするなど、マイナスの施策がかなりあります。
例えば、日本のゴルフ場の収入全体に対するレストラン売り上げの比率は、かつて15~18%といわれていました。これだけ大きなウエートを占めていたレストランの売り上げが、スループレーの導入などによって減っているのです。多くのゴルフ場経営者は、事業の維持に悩んでいます。
このような営業環境の変化はゴルフ場に限ったことではありません。映画館、フィットネスクラブ、ライブハウス、遊園地など、多くの集客施設が同じ状況下にあると考えられます。感染症対策では、客数を増やして、売り上げを多くするという、多くの企業がめざしてきた取り組みとは異なった施策を実行した上で、事業の維持を考えなければなりません。多くの集客事業所で、それぞれの業界ガイドラインにどれだけ寄り添えるか工夫を凝らしていらっしゃることでしょう。
振り返ると、戦後日本は高度経済成長期を経て、「もっと売れ!もっと客を入れろ!もっと頑張れ!」という経営モデルが長く続いたように思います。このことで従業員は疲弊し、ストレス過多となったケースは少なくありません。その結果、近年は過労死が社会問題になりました。また、ノルマの押し付けなどのパワハラの横行も問題視されて、防止する法律ができたほどです。最近は、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉とともに政府が「働き方改革」を打ち出しましたが、こうしたゆがみが急速に解消されているわけではなかったように思います。
この「もっと!もっと!」という経営モデルは、高度経済成長期の人口も景気もすべて上向きだった時代のものでした。しかし今や日本は人口減少時代に突入しています。人口が減っているのに、「もっと客を入れろ!」では時代の流れに逆行しています。いつまでも時代の流れとは真逆の経営モデルに固執してはいけない、それが今回の新型コロナウイルス感染拡大で気付かされたことです。ゴルフスクールを経営する私自身、これまでは会員数を増やそう増やそうと努めてきましたが、このままではいけないと考えるようになりました。
これからの時代、多くの企業は身の丈に合った事業規模での経営スタイルが主流になるのではないかと思います。そこでは、売り上げも客数も分相応の最適目標を決め、必要以上の顧客数を追い求めず、1人ひとりに向き合うことが重要です。1人のお客さまに向けて従業員が自信を持って柔軟なサービスを提供する。それができる企業やお店が利用者から選ばれるようになるのではないでしょうか。
こうした経営スタイルによって、従業員は身体的にも精神的にも余裕を持って仕事をすることができるようになります。オフィスワーカーにとって、テレワークが一時的ではなく働き方の1つとして一般に定着しつつあるように、集客施設の業務スタイル、そして営業スタイルも変わっていくことでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、中小企業でもようやくそうした新しい働き方への取り組みが本格化しているように感じています。これから、本当の意味でのワーク・ライフ・バランスや働き方改革が日本で実現するのではないでしょうか。ネットを活用したリモートによるゴルフレッスン、リモートで楽しむゴルフトーナメントの観戦などは、5Gの登場でさらに身近なものになるでしょう。ゴルフ場には、さまざまなICTサービスをうまく活用しながら決して背伸びをすることなく、お客さまに柔軟なサービスを提供し続けてほしいと期待しています。
しばらくは、新型コロナウイルス感染の収束に決定打はないかもしれません。そうした中で、プレーヤーとゴルフ関連事業所の従業員はお互いに協力しながら過ごさねばなりません。同じゴルフというスポーツを愛する精神や信頼感を維持して、互いのことを思いやることが、ゴルフ界の生命線になるのではないでしょうか。
ガイドラインでは、最優先すべきは「ゴルファーと従業員の健康」と明記されています。ポストコロナでも、両者が互いを尊重し、ゴルフ業界を盛り上げていくことが不変のビジネステーマになることでしょう。
執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)
有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。
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