ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第48回) ゴルフ規則の大改正。初心者が始めやすくなりました

スポーツ

公開日:2019.07.16

 ゴルフのルールが大きく改正されて約半年が過ぎました。最も目立って変わった点が、グリーン上でピンをカップに立てたままカップインさせることが可能になったことでしょう。プロゴルフトーナメントのテレビ中継でも、カップにピンを刺したままパッティングするシーンをよく目にするようになりました。当初は少々戸惑いましたが、人はすぐに慣れるものですね。ゴルファーの読者も、そろそろ新しいルールになじんできた頃ではないでしょうか。

 実は、今回のルール改正をひもとくと、今ゴルフ界が抱えている問題と、これから求められるゴルファー像が見えてきます。

大幅な改正となったゴルフの新ルール

 かつて、ゴルフのルールは、4年に1度オリンピックの開催年に見直されるのが常でした。ところが今回は、2020年の1年前倒し、2019年に新ルール施行となりました。というのも、内容的にとても大きな改正であり、かつ今度の東京オリンピックで混乱しないようにという意思が働いたようです。

 今回のルール改正のポイントは次の4つです。改正の背景には、ゴルフ人口が世界的に減少しているという問題があります。

(1) ルールの簡素化
(2) プレー時間の短縮
(3) 規制緩和
(4) 自己自律の強化

 ルール改正について詳しく知りたい方はJGA(日本ゴルフ協会)のページ「ゴルフ規則」を参考にしてください。ここでは、上記のポイントについて順を追って紹介します。

 まず、ルールの簡素化ですが、これまでは、ゴルフのルールが難解で初心者には覚えにくいという問題がありました。「ゴルフはルールが難しい」「とっつきにくい」「ルールにうるさく疲れる」などの声を解消し、初心者がゴルフに参加しやすい環境をつくるという狙いがあります。

 簡素化されたルールの例としては、ハザードやウォーターハザードという言葉がなくなり、ペナルティーエリアという名称に変わった点が挙げられます。詳細は割愛しますが、そこにボールが入った場合の処置の仕方も簡素化されました。ベテランゴルファーにとっては長年慣れ親しんだ名称が変わるのは戸惑いを感じるかもしれませんが、初心者にとっては処置の仕方がより理解しやすくなったといえるでしょう。

 また、バンカー内から「2打罰でバンカー外(後方延長線上)にドロップできる」という処置も、初心者に優しいルール改正です。昨年までは、バンカー内におけるアンプレヤブルの3つの処置はあっても、バンカー内からバンカー外へのドロップは違反行為でした。バンカーからなかなか脱出できない初心者にとってはうれしいルール改正といえるでしょう。

ルール改正の目的の1つ「プレイファースト」

 2番目のプレー時間の短縮も、ゴルフ人口の減少に歯止めをかける狙いがあります。ゴルフをやらない理由の1つに「ゴルフは丸1日かかり手軽にできない」が挙げられているからです。ゴルフ改正に関わっている組織の1つ、USGA(米国ゴルフ協会)では、「ゴルフは時間とお金がかかる」という負のイメージを払拭するため、「PLAY9」という施策を打ち出しています。9ホール(ハーフラウンド)のみのプレーを推奨し、短い時間で費用も安く、手軽にゴルフを楽しんでほしいというものです。

 具体的には、子どもが学校から帰宅した後、家族でゴルフを楽しむといったプレースタイルをイメージしているようですが、とても良い取り組みではないでしょうか。また、PLAY9は、体力的に18ホールはキツイという高齢者にもマッチしているプレースタイルです。さらに、午前中はオフィスで仕事をし、午後からゴルフをしながら取引先と商談するという新しいビジネススタイルが、PLAY9で普及するかも知れません。PLAY9が日本でも広がってくれればよいと思います。

 話が少々横道にそれましたが、プレー時間短縮に関する主なルール改正には、次のようなものがあります。

・自分が打つ番になってから40秒以内で打つ
・ピンからの距離に関係なく打てる人から打つ/通称:レディー(ready)ゴルフ
・グリーン上からカップにピンを立てたままパッティングができる(ピンを抜きに行く時間を短縮)
・紛失球の捜索時間は5分から3分に短縮

規制緩和で緩くなったゴルフルール

 3番目の規制緩和というのは、今回の改正でルールを“緩めた”項目があるということです。目につく項目を挙げてみましょう。

・アドレス中にボールが動いても、その理由がプレーヤーにない場合は無罰
・ペナルティーエリア内でもソール(構えでクラブを地面に付けること)できる(バンカーでは不可)
・バンカー内のルースインペディメント(小石やゴミなど)は取り除くことができる
・打ったボールが自分や自分の携帯品(カート含む)に当たっても無罰
・2度打ちも無罰(1打とカウント)
・ボールの捜索中にプレーヤー自身が偶然に動かしても無罰(元の位置に戻す必要はある)
・距離計測器の使用が可能に(ただし、高低差の機能など距離計測以外の機能は使用不可)

 また、カート道にボールが止まった場合などは救済処置を受けることになりますが、その際、正式競技ではマーカー(注)に告げる必要がありました。ところが改正後のルールでは、その必要がなくなったのです。つまり、ルールにのっとって正しくドロップし、プレーしているか否かをマーカーの確認なしに、プレーヤーの自己判断の下で行えるようになりました。

※(注)マーカー:競技者のスコアを記録したり処置の確認をしたりする人。同伴競技者の中から選任されるケースが多い

 これらは、「プレーヤーの誠実さを信頼する」というゴルフゲームの原則を尊重する考えに基づくものです。カート道での救済措置でもマーカーに告げる必要がないということは、「自分の行動は自分でジャッジせよ」ということになります。つまり、それができない人はゴルファーとは認めないというメッセージが、新ルールには込められているのです。そして、これが4番目の自己自律の強化です。

これから求められる「自立型人材」

 このように、今回のルール改正は、初心者にとってはゴルフへの敷居を下げる目的で分かりやすく、簡素化されました。また、さまざまな規制緩和も実施されました。その一方で、競技ゴルファーにとっては自分を律することができない人を排除するという厳しいルール変更になったといえます。

 これからの時代、ゴルフにおいてもビジネスにおいても求められる人材は、自分を律することができ、主体性を持って行動できる「自律型人材」です。そのことを今回のルール改正が物語っています。

 ビジネスにおける自律型人材は、上司に言われてから行動するのではなく、言われる前に行動できる人です。かつ、不測の事態にも臨機応変に対応できる人でしょう。責任ある仕事を任せられると評価されるのは自律型人材です。内容がパターン化している定型業務は、今後AIやアウトソーシングに置き換わると予想されている、もしくは期待されているからなおさらです。一方、指示待ち型の人は自律型人材の対極、責任を負いたくない人と見られるでしょう。そういう人は、何か問題が起きると「私は指示通りにやっただけ」と責任逃れをしようとします。

 自律型人材をめざすなら、ゴルフのプレーが役立ちます。なぜなら、今回の改正ルールが示すように、ゴルフには自律の精神が不可欠だからです。ゴルファーと行動を共にするキャディーさんは、残りの距離を教えてくれたり、パッティングのラインを読んでくれたりはしますが、どのクラブでどのようなショットで攻めていくかを最終的に判断し、実行するのは自分です。

 自然を相手にするスポーツであるが故、ラウンドに出るほど、刻々と変化する自然現象に臨機応変に対応する能力が養われます。野球やテニスのようなスポーツでは、場合によっては「相手のせい」がありますが、ゴルフは結果がすべて「自分のせい」です。ゴルフは徹底して自己責任のスポーツなのです。ですからゴルフは、自律型人材に求められる能力を身につける、うってつけのスポーツではないでしょうか。今回のルール改正で、初心者には分かりやすく、易しいものになりました。これを機に、まだゴルフをされていない部下の方にゴルフを勧め、ゴルフを通じて人材育成をされてはいかがでしょうか。

 

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

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