ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第94回) バランス能力を高め、転ばないゴルフで健康寿命延伸

スポーツ

公開日:2024.03.19

 「出勤途中で転んで骨折してしまい、ゴルフがしばらくできなくなりました……」。私が主管するゴルフスクールのお客さまからこんな連絡をいただきました。転倒事故は高齢者ほど骨折などの大きなケガのリスクが高まりやすく、打ち所や程度によっては寝たきりになる場合もあります。避けられるものならできるだけ避けたいと思う人は多いのではないでしょうか。

 今回は、転倒事故を回避・予防するために必要な、体の「バランス能力」について考えてみます。ゴルフ寿命を奪うだけでなく、日常生活に不便を生じさせかねない転倒事故に遭わないように、普段からバランス能力を養っておきましょう。

今や日本社会の課題となっている転倒事故

 厚生労働省が公表している「事故の型別労働災害発生状況(2022年/確定値)」を見てみましょう。2017年に978人だった死亡者数は2022年には774人まで減少しています。一方、休業4日以上の死傷者数は同じ時期に12万460人から13万2355人へと増加しています。中でも転倒事故は2万8310人から3万5295件に増えました。事故の型別でも、「動作の反動・無理な動作」「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」などを抑えて1位になっています。

 高齢者の転倒事故は、それがきっかけで寝たきりになり、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)の低下を招くリスクが高くなるといわれる重要因子の1つです。厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022年)」によると、要支援者・要介護者になった主な原因として、1位:認知症(16.6%)、2位:脳卒中(16.1%)に続き、骨折・転倒は13.9%で3位になっています。

 このように、労働や長寿といった観点からも転倒防止は日本の社会課題といっても過言ではないでしょう。そもそも、なぜ人は転ぶのでしょうか?その要因は、運動機能や感覚といった個人に起因する内的要因と、段差や障害物、慣れない履物、滑りやすい床といった外的要因の2つに分けられます。内的要因はゴルフでも重要なバランス能力が大きく影響します。この能力は筋力や柔軟性、関節の可動域といった「運動機能」と、視覚や平衡感覚などの「感覚機能」、そして脳や神経といった「脳神経機能」の3つの機能が連携した働きです。

 ランニングやマラソンで足がもつれる、突っかかるという経験のある人は、「運動機能」が低下していると自覚できていないことが原因かもしれません。若い頃の「速く走れる」という記憶に対し、中年太りで今は「速くは走れない」体になっているのに若い頃と同じフォームで走ろうとする、いわゆる「イメージと運動機能のズレ」です。もしくは、体がどの程度傾き、重心がバランスの保てる範囲か否かを感知する「感覚機能」の低下が原因かもしれません。

 視覚や筋肉、関節、皮膚から情報を通じて体の位置や動きを感じとる感覚(体性感覚)、耳の奥にある三半規管で感知する重力やスピードの感覚(前庭感覚)などが正しく機能しなければ、バランスの崩れを制御できず、転倒事故につながります。また、運動機能や感覚機能が正しく働いていたとしても、「脳神経機能」で正しく情報処理ができていないと、体勢の崩れを制御する骨格筋を的確に働かせず、転んでしまいます。具体的には、貧血などで起こる一時的なめまい、認知症や失調性疾患などの病気や障害、薬の副作用などが挙げられます。

 これら3つの機能が衰えるとバランス能力も低下しますから、加齢とともに転びやすくなるのは当然といえるかもしれません。転倒の外的要因を取り除くには社会のバリアフリー化の進展に期待しなければなりませんが、内的要因を取り除くにはバランス能力の維持・向上が効果的です。そしてそれは、ゴルフ上達のためにも必須といえます。

ゴルフで大切なバランス能力

 ゴルフスイングはゴルフクラブという、長くて先端が重たい道具を振りますので、その際に生じる遠心力や慣性力に引っ張られます。ナイスショットはこの引っ張られる力に対して、体の軸と重心を安定させ、ピタッと決まったフィニッシュが取れる安定感のあるスイングが必要であり、それにはある程度以上のバランス能力が不可欠です。

 ゴルフコースには起伏もあります。きつい傾斜地でのショットが苦手という人は少なくありません。また、風の強い日のラウンドは、強風にあおられて体の軸と重心が崩れやすくなりますし、雨の日は芝生がぬれ、滑りやすくなっています。自然を相手にするゴルフは、状況によって高いバランス能力が求められるのです。

 バランス能力の低下は姿勢に表れるといってもいいでしょう。姿勢は、バランス能力を左右する3つの機能「運動機能」「感覚機能」「脳神経機能」のすべてと相関関係にあります。例えば、物の重さを手に取って量るとき、無意識のうちに姿勢を正していることにお気付きでしょうか。近くにある物を手に取り、その重さを量ってみてください。手に取ったまま首をかしげたり、背中を丸めたり、もう一方の手に持ち替えてみたりしてみてください。姿勢によって重さを感じにくいなぁ、なんだか不自然だなぁと感じるのではないでしょうか。

 あるいは、目を閉じて片足立ちをして、どのくらい姿勢を維持できるか試してみてください。視覚を閉じても揺らがずある程度の時間立っていられるのなら、3つの機能がまだ若い証拠だと思います。すぐにぐらつくようなら要注意です。姿勢を安定させるには体幹や下肢の筋力、股関節の柔軟性などが不可欠であり、それらはまた、バランス能力の維持・向上に役立ちます。さらに、転倒事故の防止にもつながります。

人の“転びやすさ”を計測するイベントを開催

 2023年5月、おそらくゴルフ業界初であろうイベント「転倒リスク計測会」を開催しました。ここでは人の転倒リスク(転びやすさ)を測定、「立位年齢®」として数値化して表示する機会を提供しました。立位年齢が実年齢よりも高く出た人は要注意、トレーニングをするなど何らかの対策が必要と注意喚起し、被験者の行動変容を促すことがイベントの最大の狙いでした。

 協力いただいたのは、横浜国立大学発のベンチャー企業、UNTRACKEDです。同社が開発した立位機能評価システム「StA²BLE」(ステイブル)を用いて立位年齢を計測。立位年齢は、身体機能を年齢で表した「バランス年齢」と、感覚機能を数値化した「感覚点数」から算出されます。イベントでは、私が主管するゴルフスクールが入っているフィットネスクラブで開催しました。参加された被験者のほとんどがフィットネスクラブの会員です。この計測会では、みなさんほぼ実年齢より立位年齢が若い(転倒リスクが低い)という結果になりました。さすが、日ごろから全身トレーニングをしている人ほどバランス能力に優れているということでしょう。読者のみなさんも転倒には気を付けて、いつまでも長くゴルフが楽しめるように自身のバランス能力維持・向上に努めてください。

2023年に開催した転倒リスク計測会の様子

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

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