ゴルフエッセー「耳と耳のあいだ」(第95回) 「ゴルフ×ヘルスツーリズム」で楽しく健康増進を

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公開日:2024.06.11

 国内の旅行業界では外国人旅行者によるインバウンドの盛り上がりが話題の中心ですが、実は、日本人の国内旅行も復調しているようです。観光庁の「旅行・観光消費動向調査2024年1-3月期(速報)」によると、同期の日本人の国内旅行消費額は4兆7574億円で、2019年同期比13.0%増、前年同期比11.8%増になっています。新型コロナウイルスの感染者が中国で初めて確認されたのは2019年12月ですから、消費額は感染拡大前を超えました。

 国内旅行の目的にゴルフを選択している読者もおられると思います。近年では、そうした旅行を「ゴルフツーリズム」という言葉で見かけるようになりました。私は常々、ゴルフと旅行は親和性が高いと感じています。ともに非日常を楽しみ、ある程度の距離を移動する。また、ファッションを楽しんだり、訪問先の自然や施設、食事などを楽しんだりと共通点が多いからです。そこで、自身が主管するゴルフスクールのお客さまを対象に、さまざまなゴルフツアーを企画してきました。

 ツアーを企画するにあたり意識しているのは、単に宿泊を伴うゴルフをするだけでなく、ゴルフ以外の楽しみをプラスαの価値として付加している点です。具体的には、訪問先の観光地を物見遊山したり、温泉をセットにしたり、海ならシュノーケリング、山なら星空観賞など、ゴルフ以外にアクティビティの時間を設けています。

 例えば3泊4日の旅行の場合、初日は移動、2~3日目がゴルフ、そして最終日の行動はゴルフか観光かを選択いただくのですが、観光を希望されるお客さまがほとんどで、みなさんが満足されているようです。ゴルフが好きな人は、本当に旅行が大好きなのだろうと感じさせられます。そこで、今回は改めて「ゴルフ×旅行」について考えてみたいと思います。

“健康っぽい旅行”ではないヘルスツーリズムの価値

 ゴルフツーリズムはもとより、○○ツーリズムという言葉を多く聞きます。ヨガや温浴などを楽しむスパツーリズム、病気の治療を目的としたメディカルツーリズム、リラクセーションや食事療法、運動、美容やスキンケアといったウェルネス産業と融合したウェルネスツーリズム、そして旅行にヘルスケアサービスを付加したヘルスツーリズムなど……。いずれも、遊び・観光・グルメといった従来の旅の主目的とは異なる新たな旅の目的を提案するもので、これまで観光資源がないとされていた地域とも連携でき、関連事業やサービスは拡大傾向にあります。

 私が主管するゴルフスクールでは「ゴルフと健康との融合」をテーマにしているため、まずはヘルスツーリズムの第一人者で、スポーツ健康科学がご専門の髙橋伸佳さん(NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構、業務執行担当理事)にお話をうかがいました。

 「ヘルスツーリズムは単に健康っぽい旅行ではなく、旅行をきっかけに健康への気づきを与え、健康増進につながる行動変容を促すものです」と髙橋さん。健康な人ほど健康には無関心で、不健康になってから慌てて健康に留意する人が多いものです。そのため、ヘルスツーリズムをきっかけに自身の健康に無関心な人が関心を持ち、規則的な食事や睡眠、運動習慣といった健康的な行動を始めてほしい、というのが狙いだそうです。

 会社経営にウェルビーイングが推奨される昨今、企業にとっても個人にとっても健康は必要不可欠なキーワードです。著者が主管するゴルフスクールは、「ゴルフと健康との融合」がテーマであると述べましたが、それはまさに、ゴルフの上達をきっかけに健康増進につながる行動を促す、ヘルスツーリズムの考え方と同じなのです。

 髙橋さんは2001年に一般社団法人日本旅行業協会が行った「旅の健康学的効果」の調査・研究にも関わっており、その調査結果では、脳波中のα派の含有率は旅行前よりも旅行中に増大し、旅行後も旅行前より比較的高くなるため、旅行には「癒やし」効果が絶大、効果は旅行後も持続すると発表されました。

 具体的な効果として脳や身体の休息、ストレスの低下、怒りや敵意の低下が認められたそうです。旅行中はさまざまなシーンや因子があるので、必ずしも癒やし効果があるとは言いきれないそうですが、旅行によって健康への影響が期待できるというのは興味深いです。

 ゴルフの健康効果に関しては、過去の記事「健康づくりに役立つゴルフの5大要素(第62回)」や、「運動不足を楽しく解消するゴルフのチカラ(第80回)」でも述べましたが、旅行の健康効果はゴルフのそれに近いものがあると感じました。

ヘルスツーリズム認証を取得した小松CCの挑戦

 NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構などが運営する「ヘルスツーリズム認証委員会」という組織があります。同委員会では、「ヘルスツーリズム認証」という、ヘルスツーリズムの価値を評価する認証制度を設けています。この認証制度は、事業者の申請した旅行商品を「安心・安全への配慮」「楽しみ・喜びといった情緒的価値の提供」「健康への気づきの促進」という3つの観点から評価しています。認証によって、優れたヘルスケアサービスであるとお墨付きが得られる制度です。

 このヘルスツーリズム認証をゴルフ場で初めて取得した事業所が石川県にある小松カントリークラブ(運営:北国リゾート開発株式会社、以下小松CC)です。小松CCは歩行診断をベースにした独自の健康増進プログラムで同認証を取得しました。プログラム名は「楽しく歩ける“生涯スポーツゴルフ”と“心と体の食”再発見の旅」です。

小松CCのヘルスツーリズム認証プログラム

 プログラムの一部を紹介しますと、まずは説明と健康チェックから始め、計測器を装着して歩行活動量を測定しながら18ホールをラウンドします。その測定データを基に、健康運動指導士による歩行実践指導やラウンド前の準備運動指導を個別に行います。ラウンド後は「グルメナイト」と題し、地産地消食材による会席料理を食しながら、薬膳コーディネーターの女将が「疲労回復・栄養補給と食」について語り、会食を楽しみながら学べる内容になっているそうです。

 小松CC営業企画部長の北芳光さんは、ある講演の中で次のように述べています。「ゴルフはたくさん歩くから健康的といわれていますが、歩き方には個人差があります。歩数が多ければ健康的かといえば必ずしもそうではありません。股関節の可動域を広げ、正しい姿勢で大きな歩幅で歩けば、歩数は少なくなるがその方が健康的です。このプログラムは、そのような体験と指導を通じて行動変容につなげていただきたいと思っています」。小松CCはこの認証プログラムで、健康経営に取り組む企業を対象に、健康経営サービスも提供しています。

 ゴルフと健康経営との親和性に関しては、過去の記事「「ゴルフ×健康経営」で企業の生産性を高めよう(第85回)」でも述べています。ただ、ゴルフを活用した健康経営サービスはまだまだ普及しているとはいえません。ゴルフ業界の人間として、小松CCに追従するゴルフ施設の登場を期待しています。なお、歩くことの健康面やゴルフへの効能、健康的な歩き方に関しては、過去の記事「スコアも翌日の仕事も絶好調にするゴルフ~歩行編~(第16回)」で詳しく述べています。

 つらいトレーニングを課したり、食べたいものを我慢したりするのはなかなか難しいという人でも、ゴルフや旅行を楽しみながら健康増進に取り組めるなら、実行できるというケースは多いのではないでしょうか。いつまでも元気に、パワフルに活動するために、旅行、ゴルフをご活用ください。

執筆=小森 剛(ゴルフハウス湘南)

有限会社ゴルフハウス湘南の代表取締役。「ゴルフと健康との融合」がテーマのゴルフスクールを神奈川県内で8カ所運営する。自らレッスン活動を行う傍ら、執筆や講演活動も行う。大手コンサルティング会社のゴルフ練習場活性化プロジェクトにも参画。著書に『仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?』がある。

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