戦国武将に学ぶ経営のヒント(第97回) 優秀な若者は不要!?加藤清正が家臣の採用で見せた「組織全体を見渡す視点」

歴史・名言

公開日:2024.01.23

 「企業は人なり」。人で成り立っている企業にとって、人材の採用は企業の命運を左右しかねない重要なものです。多くの家臣を従えていた戦国武将にとっても、これは同じ。どのような家臣を抱えるかで、家の命運が大きく変わってきます。名将と呼ばれる武将は、自身も何らかの面で優れた資質を持っていましたが、その下には必ずと言っていいほど優れた家臣がそろっていました。

 家臣の採用で、面白いエピソードのある武将がいます。加藤清正です。清正は幼い頃から豊臣秀吉に仕え、数々の戦に加わりました。秀吉が天下人への緒を切った賤ヶ岳(しずがたけ)の戦いでは、先頭を切って敵陣を突破して戦功を挙げ、「賤ヶ岳七本槍」の一人に数えられています。

 清正はその他にも有名な虎退治の話などで勇猛な武将として知られていますが、家臣が客人の前で粗相をしても弁明して恥をかかせないようにするなど、家臣思いの武将でもありました。そのような清正の下には、召し抱えられようと、次々に浪人や武士が訪れます。

 ある日、士官を求めて老人、中年、青年の3人の武人が城にやって来ました。老人は、面接を担当した清正の家老に対して次のように言いました。「私はこれまでいろんな主君の下でさまざまな戦いに加わり、疲れてしまいました。特に望みもございません。少々の扶持(ふち)をいただき、茶飲み話の相手にでもしていただければと思います」。

 次に口を開いたのは、中年の武士です。「私も、いくつもの合戦で戦功をあげました。しかし、手柄についてきちんと認められることはありませんでした。清正様なら、武功を正しく評価されることでしょう。そのような清正様の下で活躍したく思います」。

 そして、最後に青年が訴えました。「調べたところ、加藤家にはいくつか問題があるように見受けられます。私を召し抱えていただけるなら、その問題の解決に取り組みます」と言って、具体的な解決策を挙げました。

 この3人のうち、清正は2人を家臣として招き、1人は採用しませんでした。採用しなかったのは、いったい誰だったのでしょうか。

加藤清正が家臣の採用で重視したこととは…

 面接が終わると、そばで控えていた清正に向かって家老が言いました。「年寄りの武士は駄目ですね。もう疲れたと言って戦に出る気がなく、茶を飲んで過ごそうとは厚かましい」。この家老の言い分は、もっともなように思えます。しかし、清正は老人を家臣に採用しました。「あの老人は、ひとかどの人物だろう。茶を飲みながら皆の相談相手になれば、きっと役に立ってくれるはずだ」と考えたのです。

 次の中年の武士に対しても、家老は「自分の手柄を認めてくれないなどと、前の主人のことを悪く言うようなのは信用できません。出世することしか考えていない、できていない人間です」と批判。しかし、清正は「出世は武士の本意である。その思いが強いのは良い」として、召し抱えることにしました。

 最後の青年に関して、家老は採用を進言します。「あの若者は優秀です。あのような優秀な若者を入れれば、家は活気づくでしょう」。しかし、清正は首を縦に振りませんでした。「確かに優秀だろう。しかし、彼を入れれば家が活気づくだろうか。そもそも、加藤家にいる若者たちは皆優れている。あの青年を優秀だとして入れたなら、当家の若者たちは腐ってしまうのではないか。当家の若者たちが活躍していないとしたら、家臣であるお前たちの指導に問題がある」と諭したのです。

 その後の加藤家は、清正が「当家の若者たちは皆優秀だ」と発言したことが噂になり、若者たちはより一層文武に励むようになりました。さらに、やる気にあふれた中年武士が入ったことで家臣たちの競争心が高まり、停滞気味だった組織は活気を取り戻していきました。また、老人は家臣たちのよき相談相手となり、組織の潤滑油として不可欠な存在になりました。

 このエピソードを見て感じさせられるのは、清正の視野の広さです。戦は、現代の企業でいうと事業の柱のようなもの。老人の手柄を認めて役割を与えることで能力を発揮させるとともに、出世欲に満ちた中年を登用し、組織の活性化につなげました。一方、城を訪ねてきた青年が優秀だったことは清正も認めましたが、若者たちへの影響を考慮して採用を見送りました。

 人材採用においては、優秀な人材の獲得に目が行きがちになります。その人物を採用することで組織にどのような影響があるのか。今、組織に必要なのはどのような人材なのか。このような視点の重要性を、清正のエピソードは教えてくれているように思います。

【T】

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