ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
10年、15年と働いていると自分なりの仕事に対する考え方、いわゆる仕事論を誰もが持つようになると思います。戦国武将の大きな仕事は戦ですが、普段は領地のインフラ整備、経済政策、徴税などさまざまな仕事に関わっていました。戦や普段の仕事を進める中で得られた考えについて、武将は多くの言葉を残しています。
徳川四天王の一人に数えられる井伊直政の次男で、大坂の陣で大きな戦功を立てた猛将・井伊直孝は次のように言いました。
「先駆けの心がけとは、槍なくば刀、刀なくば無刀無具足でも、とにかく誰よりも早く取りつこうとすることだ」
「先駆け」は戦で真っ先に攻撃を担う役です。交戦の口火を切る一番やりと共に、名誉とされていました。その先駆けで大事なのは、やりがなければ刀で、刀や甲冑(かっちゅう)がなくても、とにかく早く始めようとすることだというのです。
現代のビジネスにおいて、「まずやってみる」大切さが指摘される場面があります。検討も思慮も大事ですが、そこで立ち止まっていては何も始まりません。やってみて初めて分かる課題、動いてみて初めて見える風景があります。まず、やってみる。まず、動かしてみる。そして、動きながら軌道修正していけばよいという考え方です。
井伊直孝は、やりや刀を準備できればそれに越したことはないが、そうした準備が整わなくても、誰よりも早く取り付き早く始める心掛けが大切と言っています。特にビジネスにスピードが求められている今、直孝の言葉はより重みを持っているように思えます。
先駆けに関しては、農民の身から天下人に上り詰めた豊臣秀吉が面白い言葉を残しています。出世街道をひた走る秀吉は目立つ存在で、周りから妬まれやすい人物でした。
そこで、ある人がこのような歌を詠みました。「人は皆 さし出でぬこそ よかりけれ 軍(いくさ)の時は先駆けをして」。人は先んじて目立つようなことはしないのがいい、戦のときは先駆けがいいが、という意味です。
これに対し、秀吉は次のように返しました。「人はただ さし出づるこそ よかりけれ 軍の時も先駆けをして」。人は常に先んずるのがいい、戦のときももちろん先駆けして、との意趣返しです。
先んずることは重要ですが、準備をしなければいいというわけではありません。武田家の家臣だった山県昌景は勇猛として知られ、武田信玄の戦では常に先陣を任されたとされる武将です。その昌景は、次のように語っています。
「武士の心がけとしては、その場に臨んで始めるようでは駄目だ」
戦場に立ってから準備を始めるようでは駄目で、戦場に向かう前にしっかりと準備をしておけという意味です。先陣を任されていた昌景の言葉だけに、別の角度から考えると、準備をしておけば先んずることができるといえそうです。
また、依存心が強いと自分からは動けません。スピードを持って動くには、自立し、自律的に動ける組織、人間である必要があります。天下統一に迫った織田信長は、人間の依存心を戒める言葉を残しています。「人城を頼らば、城人を捨てん」。城は防御の要ですが、城に頼っていては城が人を捨てる。人が動かなければ城は機能しないと言っています。
城は、現代に当てはめると会社になるでしょうか。会社が人を捨てる、つまり正当な理由なくいきなり解雇する、ということはありませんが、会社に依存して自分から動かない人間ばかりでは会社は機能しなくなると捉えられるでしょう。
越後の虎と呼ばれた軍神・上杉謙信の「運は天にあり。鎧は胸にあり。手柄は足にあり」も、自立と自律を呼びかけた言葉として読めそうです。
運は天が決めるため自分ではどうにもできないが、身を守るよろいは自分の心掛け次第で身に着けられ、手柄も自分次第で勝ち取れるといった意味です。現代では、社会情勢や景気といったものは、自分ではどうにもできません。しかし、社会情勢や景気が悪くても自分たちにできることはあるという意味です。
武将の仕事論として、最後に豊臣政権五奉行の一人として活躍した石田三成の言葉を紹介します。「大義を思うものは、たとえ首をはねられ瞬間までも命を大切にして、なにとぞ本意を達せんと思う」。大義を大切にする者は、たとえ首をはねられる直前であっても大義の実践を成し遂げようとするといった意味の言葉です。
ここでいう大義とは、現代の企業が掲げる企業理念、経営理念、ミッションなどに重ねられるでしょう。企業の理念を大切にする気持ちがあれば、困難があろうと、その理念を貫こうとするものです。企業活動を行っていると、さまざまな波が訪れます。そうした中にあるとき、企業の理念を大切にする思いが困難を乗り越える契機になり得ると、三成の言葉から感じ取れます。
戦国武将の言葉から、まず動くこと、自立・自律、そして大義・理念の大切さについて考えてきました。戦国時代と現代では400〜500年の時が隔たっているにもかかわらず、武将の言葉は現代のビジネスに重なるところが多くあります。組織が何かを成し遂げる、あるいは組織の中で何かを成し遂げる「仕事」というものの本質は、いつの時代も変わらないものなのかもしれません。
【T】
戦国武将に学ぶ経営のヒント