戦国武将に学ぶ経営のヒント(第78回) 名言から学ぶ戦国武将の人生論

歴史・名言

公開日:2021.11.15

 「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。一度生を得て滅せぬ者のあるべきか」。織田信長が愛唱した幸若舞「敦盛」の一節です。

 現在は医療の進展などにより寿命が延びて人生100年時代といわれていますが、戦国時代の感覚では人生50年。しかも、戦国武将は戦によりいつ命を落としてもおかしくない状況を生きていました。そのような中で彼らはどのような人生観を持っていたのか、遺(のこ)されている言葉から見てみましょう。

 「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」という徳川家康の言葉があります。これは遺訓の1つとされ、家康が人生を振り返っての感懐を述べたものと思われます。家康に限らず、厳しい戦国の世を生きた武将たちにとって、人生は楽なものではないという共通認識があったとしても不思議ではありません。

 そうした中でも、山中幸盛の「願わくば我に七難八苦を与えたまえ」という一言は独特の重みを持って訴えかけてきます。幸盛は尼子氏の家臣として活躍した出雲国(現・島根県)の武将で、“山陰の麒麟児”の異名でも知られる人物。尼子氏は出雲に攻め入った毛利氏と戦いを繰り返し、幸盛も奮闘を重ねますが、第二次月山富田城の戦いで尼子氏は敗戦。尼子氏の三兄弟は幽閉されてしまいます。

 そこで尼子氏の再興を願った幸盛が述べたのが、前述「願わくば……」の言葉でした。幸盛は「楠木正成より勝る」とも評された優れた武将でしたが、毛利氏との戦いでは苦戦が続き、尼子氏の再興も容易ではないことは明白です。そうした状況であったにもかかわらず「七難八苦を与えたまえ」というところに、どのような苦難も努力し乗り越えてみせるという幸盛の強い意志、覚悟がうかがえます。

 覚悟に関しては、豊臣秀吉に仕えた山内一豊もこんな言葉を残しています。「命を捨てる覚悟で運を拾わねば、運などは拾えるものではない」。山内家は岩倉織田氏の重臣でしたが、一豊が幼いときに一家流浪の身となります。そこから一豊は信長、秀吉に仕え、最終的には土佐の一国一城のあるじにまで昇り詰めました。

 一豊には運に恵まれた側面もあったはずですが、その陰では命を捨てるほどの覚悟を自認していたのでしょう。自らに突き刺さったやりの穂先を素手でつかみ、やりをねじ切って敵を撃退したという一豊の豪胆さの奥には、こうした覚悟がありました。また、この言葉を逆から見れば、命を捨てるほどの覚悟があれば、運が訪れる余地が生まれるともくみ取れます。

 現代の企業では、成長ということが重視されます。仕事のスキルを伸ばすだけでなく、人間としての成長が仕事やコミュニケーションの質を上げ、組織の力になるという考えです。厳しい世を生き抜かなければならない戦国武将も、成長の大切さを説いていました。

小早川隆景、北条早雲が遺した成長し続けるための言葉

 「人生は長いのだから、山川を越えて自分を強くすること。好きなことばかり取り入れずに、むしろ、苦手なことに立ち向かっていくこと」。これは黒田官兵衛と共に戦国時代を代表する知将で、秀吉の天下統一に貢献した小早川隆景が若者に対して伝えた言葉です。

 もちろん自分の長所、ストロングポイントを持つことも、それを伸ばすことも大切でしょう。しかし、それだけしかできないと人間としての幅が狭くなり、もろさを抱えることになります。特に無理が利く若いうちに、苦手なことに立ち向かうことで人間としての幅が広がり、人としての強さにつながるというメッセージです。

 人間としての幅ということでは、後北条氏の祖で戦国武将の先駆け的存在である北条早雲が次のように述べています。「少しでも暇があらば、物の本を見、文字のある物を懐に入れて、常に人目を忍んで見るようにせよ」

 戦国武将は、戦だけが仕事ならば、兵法を学び、武術を磨けばいいのかもしれません。しかし、多くの臣を束ね、領国を経営し、貴族や他家との交際・社交も行わなければならないのが戦国武将です。そのためにはやはり教養が必要で、多くの武将は幼い頃から僧などを師として四書五経などを学んでいました。

 現代の企業でも経営者はもちろん、マネジメントを行っているビジネスパーソンならスタッフを束ね、管轄する部署やプロジェクトを運営し、社内の他部署やパートナー企業との交際が必要です。そのためには、専門領域に関する知識やスキルだけでなく、社会に関する広範な教養が力になるはずです。

 苛烈な時代を生き抜いてきた武将たちが人生について考えた言葉を、苦難、覚悟、成長といった面から見てきました。現代と戦国時代では環境が全く異なりますが、それぞれの言葉が持つ普遍的な意味の力強さからは、生きる上で大切なことは変わっていないのだと感じられます。

 そして、信長のこの言葉もいつの世でも真実であり続けるのでしょう。
「必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ」

【T】

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