ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
多くの人材が集まる組織にとって、好むと好まざるとにかかわらず、マネジメントは欠かせないものです。これは、戦国時代の「家」も同じです。多くの家臣や兵を束ねていた戦国武将は今でいうマネジメントを行う存在であり、マネジメントについて数々の言葉を残しています。
2019年のラグビーワールドカップに出場した日本代表は「ONE TEAM(ワンチーム)」というスローガンを掲げていました。ラグビーの代表は国籍ではなく所属協会によって決まるため、選手はさまざまなチームから選ばれただけでなく、いろいろな国から集まっていました。多様なバックボーンを持つ選手が集う中、日本代表はスローガンの下に1つのチームとなり、見事ベスト8入りを果たしました。
戦国時代の軍も、ある意味ラグビーの日本代表と似たような状況にありました。家臣には、何代も仕える古参もいれば新参もいます。また、兵の中には年少の頃から戦を渡り歩いたつわものもいれば、普段は農業をしている農兵もいます。このような事情からか、今から400年以上前の武将も「ONE TEAM」に相当する言葉を残しています。
美濃(現・岐阜県)の斎藤氏の家臣として世に出、後に豊臣秀吉に仕えた竹中半兵衛は、「要害がいかように堅固であっても、人の心が一つでなければものの用をなさない」と、軍が1つにまとまる重要性を語っています。半兵衛が黒田官兵衛と並ぶ名軍師として知られていると思うと、この言葉はさらに重みを増します。
また、豊後(現・大分県)出身で秀吉に仕え、秀吉から無双の強さとたたえられた立花宗茂は、「戦いは兵が多いか少ないかで決まるのでなく、一つにまとまっているかどうかである。人数が多いからといって勝利できるものではない」と、まとまる強さを強調しました。
多様性の時代になり、現代の企業はさまざまなバックボーンを持つ人材を抱えるようになりました。多様な働き方や考え方を受け入れるのはもちろん大切です。しかし、各人がバラバラの方向を向いていては、チームとしての成果は望めません。方向性や共有すべき価値を示し、1つのチームとなる大切さを百戦錬磨の武将は語っています。
多様な人材をまとめるだけでなく、人材をいかに登用するかもマネジメントの大きな課題です。この点についても、戦国武将は興味深い言葉を残しています。
「おまえは時々、部下を夏の火鉢やひでりの雨傘にしている。改めよ」
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という3人の天下人に仕えた名軍師・黒田官兵衛には、有名な上記の言葉があります。この言葉は適材適所を表すものとしてよく引用されています。確かに、暑い夏に火鉢を用意しても意味がありません。また、日が照っているのに雨傘をさしても意味がありません。
しかし、寒い冬には火鉢は役に立ちますし、雨が降れば雨傘は役に立ちます。官兵衛の言葉は、適切な人材を適切な場所に置くだけでなく、適切な人材を適切なタイミングで登用する大切さにまで触れているように思われます。
戦国最強ともいわれた武田軍を率いた「甲斐の虎」武田信玄も、人材登用について次のように述べています。
「渋柿を切って甘柿を継ぐのは小心者のすることだ。国持ち大名にあっては、渋柿は渋柿として役に立つものだ」
この言葉はさまざまな解釈ができますが、一国を持つほどの大名、現代でいうと大企業では、さまざまな資質の人材が役に立つと述べていると捉えられるでしょう。信玄は「老人には経験という宝物がある」とも語っているところを見ると、「甘柿=若手、渋柿=ベテラン」という側面もあるのかもしれません。
信玄はまた、「我、人を使うにあらず。その業を使うにあり」とも言っています。「人を使うのではなくその能力を使う」、人が持つ能力をいかに発揮させるかを重視する信玄の姿勢を表した言葉ともいえるでしょう。
信玄の言葉にもあるように、人材登用ではその人物がどのような資質、能力を持っているかを見極める力が必要です。黒田官兵衛の嫡男で、秀吉・家康に仕えた黒田長政もこれを意識していました。
「刀や脇差などの目利きを心掛けるように、人の目利きも常に心掛け、普段から人を観察してよく学べば、人の見極めで外れることもなくなる」
人は、特定の場面では自分をよく見せられるかもしれませんが、常に仮面をかぶることはできません。本当の姿は、ふとしたときに顔を見せます。普段からよく観察していれば、その人物がどういう人かを見極められます。
このほかにも、戦国武将は現代でいうところのマネジメントに関する言葉を数多く残しています。それらはマネジメントの重要性とともに、難しさも指摘しているように思います。人が人を管理するのは、恐らくいつの世でも簡単ではないのでしょう。400年以上前にも同じように悩み、考えていた戦国武将の言葉は、マネジメントの難しさに直面している現代のマネジャーに、一筋の光を投げかけてくれるかもしれません。
【T】
戦国武将に学ぶ経営のヒント