戦国武将に学ぶ経営のヒント(第4回) 健康・長寿で厳しい競争を勝ち残る

歴史・名言

公開日:2015.09.08

 著名経営者の訃報が相次いでいます。7月中旬、人気ゲーム機「ニンテンドーDS」や「Wii」の開発を主導した任天堂社長の岩田聡さんが、現役の社長のまま亡くなりました。7月下旬には、定食店をチェーン展開する大戸屋ホールディングス会長の三森久実さんが亡くなりました。いずれも50代という若さ。まだまだ経営の第一線で活躍できる年齢であっただけに非常に残念です。

 優れた経営力を持っていても、それを発揮できるのは健康だからこそです。すばらしい事業プランも生きていなくては実現できません。経営者は激務です。それだけに常日ごろからの健康管理が欠かせません。

 戦国時代の三英傑の一人、徳川家康(1542~1616年)は平均年齢が30歳代だった当時、75歳というかなりの長寿を全うしています。織田信長は明智光秀の謀反によって40代で世を去りました。豊臣秀吉は還暦を越えましたが、晩年は若い頃ほどの判断力、統率力などを発揮することはできませんでした。一方、家康は、長生きして、高齢まで能力を維持し続けたからこそ、260年余り続いた江戸幕府を開くことができたといえるかもしれません。

 そんな家康の健康へのこだわりを示すエピソードが残されています。家康が江戸幕府を開く前、まだ岡崎城にいた頃の食事の際の話です。ある家臣がお椀に白飯をまず盛り、その上に麦飯を載せて差し出したのだそうです。家臣としては主君のために気を利かせたわけですが、これを見た家康は激怒してこう言い放ちました。

 「おまえたちは私の心を察していない。私が先頭に立って粗食にいそしめば、まず戦費の倹約にもなり、また下々の部下たちをいたわることにもなる」

 質素倹約を重んじ、部下思いだった家康らしい言動ですが、麦飯など粗食を旨とした食生活にこだわっていたことを表すエピソードともいえます。実際、麦飯にはビタミンやミネラルが多く含まれています。また、白飯に比べてよくかんで食べないとおいしくありません。このため、あごの運動になり、唾液を多く出したり、脳を活性化したりすることにもつながるといわれています。

「健康経営」が経営者にも社員にも求められる

 家康の健康への気配りは徹底していました。冷たいものや季節はずれのものは口にしなかったといいます。これは、胃腸をいたわったり、食中毒などのリスクを減らしたりすることです。また歳をとっても鷹狩りを好み、身体を動かし足腰を鍛えていました。薬についての造詣も深く、自ら調合したり煎じたりもしていたようです。こうした日々の養生が70歳を超える長寿の一因でしょう。

 こうした家康の姿勢を経営者として学ぶとすると、健康で長生きしてこそ事業を発展させられるということになるでしょう。これは、経営者自身に限りません。社員の健康管理に気を配り、元気に仕事をしてもらえるようにするのも経営者の務めです。

 最近では、「健康経営」という考え方が注目されつつあります。これは経営的観点から、社員の心と身体の健康管理を実践するというもの。社員の健康は経営資源と位置づけ、いかにその損失を防ぎ、増進させていくか。社員の健康度を上げる取り組みが企業に求められています。

 もちろん長生きしているからといって、後進に道を譲らず “老害”になってしまっては意味がありません。家康も将軍の座は64歳で秀忠に譲り、「大御所」として睨みを利かせました。いざというとき、後進に正しいアドバイスが行える賢者であり続けるように歳を重ねたいものです。

【T】

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