ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
病院を訪れる外来患者にとって不満は待ち時間が長いことだろう。この不満を解消するために、来訪者向けに無料でWi-Fiサービスを提供する医療機関が増えている。Wi-Fiは、入院患者が快適な入院生活を送るために有効なツールでもある。しかし、医療機器への影響や患者のプライバシーを考えると注意するべきポイントも多い。医療やヘルスケアの現場でWi-Fiを導入するメリットと留意点を考えてみたい。
医療の現場ではすでにWi-Fiの導入が広がっている。電波環境協議会に設置された「医療機関における電波利用推進委員会」が2021年3月に発表した調査結果では、病院の約9割でWi-Fi(報告書では無線LAN)が導入されているという。新型コロナウイルス感染症の広がりもあり、現在ではさらに普及が進んでいるはずだ。
だたしその用途は、施設スタッフのインターネット接続用や医療情報システム用が多くの割合を占め、患者や外部訪問者のインターネット接続用は3割程度にとどまっていた。セキュリティ面や医療機器への電波干渉などの不安が拭いきれないことが原因とみられる。
しかし、患者や来訪者向けのWi-Fi導入はQOLを高められる。普段からインターネットに慣れ親しんでいる来訪者にWi-Fi環境を提供すれば、待ち時間への不満を軽減できるだけでなく、ネットワークを介して必要な情報を提供できるようになる。
入院患者にとってもWi-Fi導入のメリットは大きい。入院生活にエンターテインメントなどの楽しみをもたらしたり、インターネットを介して家族とオンラインで会話ができたり、病院スタッフとのコミュニケーションにおいても幅が広がる。
どちらかといえば、患者や来訪者がWi-Fiを使えないため、持ち込んだスマートフォンやモバイルWi-Fiなどを勝手に使用されてしまうリスクの方が大きい。テザリングによる電波が医療情報システムや医療機器のWi-Fiに干渉して、業務用の通信に影響を及ぼす危険性もあるからだ。
Wi-Fi導入に関する不安は、適切に対処すれば解消できる。まずは業務用と患者や来訪者向けのネットワークを分けることだ。医療機関内で利用しているシステムへの影響を避け、電子カルテなどの情報漏えいを防ぐためにも、ネットワーク分離は必要不可欠だ。
さらに、電波干渉が起きないようにネットワーク全体を設計する必要がある。電波干渉が起きると、つながりにくくなったり速度が低下したりして本来の機能を発揮できなくなる。医療施設内のインフラである業務ネットワークや医療機器への影響を及ぼすことにもなりかねない。電波環境を測定して現状を把握した上で、電波干渉が起きないように患者や来訪者向けのアクセスポイントを適切に設置する必要がある。
使用するWi-Fi機器については、小規模のクリニックであっても家庭用の機器ではなくビジネスWi-Fiを選択した方が問題が起こりにくくなる。セキュリティ機能が高く、設計の自由度も高いビジネスWi-Fiでなければ、安心して利用できる通信環境を構築することはできないだろう。
使用する周波数についても考慮しておく必要がある。通信機能を備えた医療機器の多くは、電子レンジなどの家電製品と同じ2.4GHz帯の電波を利用している。患者や来訪者向けにネットワークを拡大する場合、それとは別にWi-Fi専用の5GHz帯を利用する機器の導入が望ましい。そのためにも2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応し、さらに通信速度が速いWi-Fi6の導入を考えておくことが賢明だ。
Wi-Fi6の導入はセキュリティ面でもメリットをもたらす。最新のセキュリティ規格であるWPA3と組み合わせれば安全性を高められる。
さまざまな課題を解消してWi-Fiのメリットを享受するには、専門家の協力が不可欠だ。導入後の運用まで考えて安心できるIT事業者を選定し、計画段階から相談しつつ進めていきたい。患者や来訪者のQOL向上のために、安心して利用できるビジネスWi-Fiの導入が求められている。
執筆=高橋 秀典
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ビジネスWi-Fiで会社改造