ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
オフィスの重要なインフラとなりつつあるのがWi-Fiによるネットワークだ。かつては有線で結んでいたパソコンやオフィス機器などを、無線LANの一種であるWi-Fiでつなぐケースが増えている。そんなWi-Fiの基礎知識から使いこなしまでを紹介する連載の第1回は、最近注目の第6世代Wi-Fiとそこに至るまでの歴史について紹介する。
最近大型の家電販売店を訪れて、通信機器のコーナーに立ち寄ると「Wi-Fi 6」の文字が目につくようになった。最新の無線規格であるWi-Fi6対応の無線ルーターが数多く登場し、“Wi-Fi 6時代の到来”を肌で感じることができる。今回はWi-Fi入門編として改めてWi-Fiの歴史と概要について整理してみたい。
Wi-Fiは無線LANの一つであり、「Wi-Fi Alliance」という無線LAN製品の普及促進を図る業界団体が作ったブランド名である。相互接続性の認証試験に合格した製品には「Wi-Fi CERTIFIED」というロゴの使用が認められる。通信規格の正式な名称は「IEEE 802.11xx」だが、親しみやすさを狙って“Wi-Fi”という言葉が使われてきた。
ちなみに、無線LANとは無線通信を利用したローカルエリアネットワーク(LAN)全般をさす言葉であり、無線通信としては、交通系ICカードに使われる近距離無線のNFC、短い距離で少ない消費電力で通信できるBluetooth、消費電力が少なく遠距離無線ができるLPWA、携帯電話など移動体通信に使われている5Gなどがある。そのそれぞれの特徴は下図の通りで、Wi-Fiは、比較的狭い範囲・短距離をカバーする無線通信ということになる。
無線通信にはカバーするエリアや消費電力、コストが異なるさまざまなタイプが使われている
出典:総務省「情報通信白書」2020年版
Wi-Fiの最初の規格である「IEEE 802.11」が策定されたのは1997年6月で、伝送速度はわずか2Mビット/秒。オフィスに普及していた有線LANと比べるとあまりにも差があり過ぎた。しかも、対応製品の価格が高く、相互接続も保証されていなかったために、なかなか普及しなかった。
この当時に無線LANの本命とされていたのは、実はWi-Fiではなかった。インテルが推進していたHomeRF規格への注目度の方が高かった。この流れを変えたのは1997年7月の“AirMac”(日本以外では“AirPort”)の登場だった。11Mビット/秒と大きく進化した「IEEE 802.11b」という次世代の規格を先取りし、しかも大幅な低価格化を実現した。
1999年にはWi-Fi Allianceの前身となる業界団体の設立によって相互接続性が確立されるとともに、新たな規格が策定される度に伝送速度が急速に向上した。また、当時の国内のパソコン周辺機器メーカーが低価格なWi-Fiルーターを発売。さらにノートパソコンにもWi-Fiを内蔵したタイプが次々と登場した。モバイルの時代の到来であり、Wi-Fiはその主役となった。
2009年に策定された「IEEE 802.11n」では、伝送速度が従来の10倍以上の600Mビット/秒と大幅な進化を遂げ、5GHzと2.5GHzの2つの周波数に対応できるようになった。その4年後の2013年12月に策定された「IEEE 802.11ac」の伝送速度は6.9Gビット/秒と一気に“ギガ”の世界に突入し、伝送速度が2桁もアップした(下図参照)。
Wi-Fi規格の見直しで通信速度の高速化が急速に進んだ
出典:総務省総合通信基盤局基幹・衛星移動通信課 基幹通信室「無線LANの現状」2020年
こうした多くの規格が策定されることに対応して生まれてきたのが、ナンバリング規格である。2018年10月、Wi-Fi Allianceはナンバリング規格の導入を決定し、「IEEE 802.11n」を「Wi-Fi 4」、「IEEE 802.11ac」を「Wi-Fi 5」、そして最新の規格である「IEEE 802.11ax」を「Wi-Fi 6」とした。
Wi-Fi 5とWi-Fi 6の違い
一方で無線LANであるWi-Fiには大きな弱点があった。無線LANは電波に乗せてデータを送信するので、誰でもアクセスできる可能性があり、セキュリティを担保することが難しい面がある。情報のやり取りを盗み見られる、情報が盗まれる、悪意を持ったウイルスが送り込まれるといったリスクに対しての対策が不可欠だ。
そして、この領域でもWi-Fiは進化を遂げてきた。1997年に登場した最初のWEPというセキュリティ規格は2001年以降容易に解読できることが判明した。こうした状況を改善するためWi-Fi Allianceは対策を講じてきた。2003年にはWEPをWPAプロトコルに置き換え、2004年にはWPA2、2018年にはWPA3を発表。暗号化方式や暗号鍵などが強化されている。
こうした高度なセキュリティ規格に対応しつつ、Wi-Fi 6の伝送速度はWi-Fi 5の1.4倍になる。通信のスピードが向上することは情報処理の速度に直結する。画像の表示に待たされることもなくなり、多くのデバイスを同時に接続できる。Wi-Fi 6を活用することで、より快適で安全かつ自由度の高い通信環境が構築できると期待されている。もちろんここまでの通信速度やセキュリティ対策があれば、オフィスにおける業務基盤として十分に役割を果たせる。本連載では、次回以降、ビジネスにおけるWi-Fiの導入法から活用法まで、初歩から解説していく。
執筆=高橋 秀典
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ビジネスWi-Fiで会社改造