ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
サービス業、小売業、ホテル・旅館業、あるいは病院など多数のゲストを迎える業界では、顧客満足度向上や集客力向上のためにWi-Fiを提供したいと考えるケースは多い。しかし、以前から自社で業務に使っているWi-Fiをゲストに開放すると、セキュリティ上のトラブルにつながるだけでなく、回線速度や安定性などパフォーマンス面の劣化も懸念され、かえってゲストの不満を招きかねない。
どうすればセキュリティを確保しながら、快適で安定したWi-Fi環境をゲストに提供できるのだろうか。まずは具体的な事例をいくつか紹介する。
サービス業のA社ではビジネスWi-Fiを導入するに当たって、ゲスト向けにもWi-Fi環境を提供したいと考えていた。しかし、業務用とゲスト用のネットワークは分離した方が良いというアドバイスもあり、具体的にネットワークの分離をどう実現するかが課題になっていた。
同社が選択した方法は、周辺の電波状況を調査した上で最新のWi-Fi規格であるWi-Fi6に対応した機器を導入して通信の安定化を図るとともに、仮想LANによってネットワークを分割して利用するというもの。これによってストレスのないWi-Fi環境を、セキュリティの高い状態でゲストに提供できた。
カーディーラーのB社では、店舗を訪れたゲスト向けにWi-Fi環境を提供したいと考え、アクセスポイントのネットワーク名であるSSIDを業務用とゲスト用のネットワークとで切り分けた。
ネットワークを切り分けるに当たってB社が採用したのが、ネットワークの名前が表示されない「SSIDステルス機能」だ。導入を支援した専門会社に「SSIDが複数表示されてゲストが困惑するのではないか」と相談したところ提案された方法で、来客者はネットワークの切り分けを意識せずに利用できるようになった。
広い敷地で旅館業を営むC社では、ゲスト向けのWi-Fiを提供するに当たって、ゲストが行動しそうなエリアの電波調査を実施。電波が届きにくく、接続が不安定なエリアをチェックし、Wi-Fiの中継機を配置して電波状況を改善した。
上記のA社とB社のケースのように、ゲスト向けにWi-Fiを提供するに当たっては、業務用とゲスト用のネットワークの分離を大前提に検討したい。同じネットワークを利用すると、業務用ネットワークのセキュリティリスクが高まるからだ。
ただし、ネットワーク機器を二重に設置するなど、必ずしも物理的に分離する必要はない。上記A社のように、1つの機器(ルーター)を設置して、仮想LANで論理的にネットワークを分けたり、上記C社のようにアクセスポイントに複数のSSIDを割り振ったりして、1つのネットワークを複数のネットワークのように利用するなどの方法をとれば、Wi-Fi導入コストの節約にもなる。
SSIDが複数示されてゲストが困惑するのを防ぎたければ、B社のようにSSIDステルス機能を使う方法も考えられる。ただし、この方法はあくまでネットワーク名を隠すだけで、SSID自体は存在している。根本的なセキュリティ強度の向上とは別物と考えるべきだろう。SSIDを探すツールも簡単に入手できるので、ステルスが無効化されてしまう可能性がある。
せっかくゲスト向けにWi-Fi環境を提供するからには、電波状況にもきちんとした配慮をしておくべきだ。Wi-Fi環境を提供していると示しているのに、つながりにくかったり、通信速度が遅かったりすると、ゲストはかえって不満を覚えてしまう。顧客満足度アップを狙ったサービスなのに、本末転倒だ。
こうした事態に陥るのを防ぐためには、Wi-Fi6などに対応した機器を選定したり、上記C社のようにWi-Fiの利用エリアを的確に把握し、専門会社に電波調査を依頼したりして、アクセスポイントの台数と設置場所を適切に設計する必要がある。提供エリアがそれほど広くなくても電波干渉によってパフォーマンスが低下する可能性があるので、専門会社に電波調査を依頼し、機器を選択するようお勧めする。
誰もがすでにスマホを使っている状況であるだけに、ゲストにWi-Fi環境を提供する必要性は高いだろう。しかし、それを顧客満足度の向上につなげるためには、提供する側の責任として、安心、快適という電波環境の実現が求められる。
執筆=高橋 秀典
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ビジネスWi-Fiで会社改造