ビジネスWi-Fiで会社改造(第11回) Wi-Fi活用を促進する―社内啓発大作戦

Wi-Fi スキルアップ

公開日:2022.08.15

 ビジネスWi-Fi導入の目的は、働き方を変え、生産性を高めることにある。せっかくビジネスWi-Fiを導入しても、以前と同様の働き方を続けていてはメリットを引き出せない。そして、標語を設けたり研修をしたりしても、長年慣れ親しんできた働き方を変えるのは容易ではない。では、どうやって従業員を啓発していけばよいのか。ここでは実際に効果があった事例を通してアプローチの方法を考えてみたい。

個人専用のロッカーでフリーアドレスの効果アップ

 日経BPコンサルティングが2021年に実施した「オフィスWi-Fi導入実態調査2021」によると、社内無線LAN導入理由・導入意向理由のトップに挙げられているのが「業務プロセスの効率化」「ワークスタイルの変革」だ。これに異論を挟む余地はあまりないだろう。しかし、実際にこれらの目的を達成するのは簡単ではない。そのために何が必要なのだろうか。

 ビジネスWi-Fiを導入すれば業務効率が向上し、働き方が変わるわけではない。他の要素との組み合わせが必要になる。その代表的な取り組みがフリーアドレスであり、ペーパーレスであり、モバイルデバイスの活用である。こうした取り組みと合わせて普及させていけば、業務を効率化でき、働き方が変わる可能性は高いが、その実現は一筋縄ではいかない。

 オフィスにビジネスWi-Fiを導入すると同時にフリーアドレス環境を整えても、各人がいつも同じ席に座って、従来の課や係、グループ単位で集まって仕事をしているケースも少なくない。これでは、プロジェクトごとに集まって仕事を効率化したり、別組織の人とコミュニケーションをとることで新しい発想を生み出したりする効果はあまり期待できない。

 ある地方銀行では、ビジネスWi-Fiを導入するとともに、従来の島型に1人用事務机を並べていたオフィスのレイアウトを、大型テーブルをメインとする構成に変更した。同時に個人用の袖机も撤廃した。そして、個人用のロッカーを用意して、出退勤時にノートパソコン、書類、資料などを個人用ロッカーに片付けるよう徹底した。

 この見直しにより、従業員は出社したら、まずは自分のロッカーの鍵を開けて中からノートパソコンや資料などを取り出し、大きなテーブルの好きな場所に座って仕事に取り掛かるようになった。同じプロジェクトのメンバーが出社していたら、その近くに座って仕事をすればコミュニケーションをとりやすい。業務が終わればノートパソコンなどをロッカーに戻して鍵をかけて退社、次の出社日には、その日の業務内容に合わせて、改めて席を選択する。

 このようにビジネスWi-Fi導入に加えて、オフィスというハードの変更を実施すればフリーアドレス本来の柔軟な働き方が普及し、業務の効率化を図れるようになる。

モバイル活用の前提はペーパーレスの徹底

 ビジネスWi-Fiの導入効果を上げるために、もう一つ進めるべきなのがペーパーレスの徹底だ。デスクの上に書類が積み上がっている状態は決して効率的ではない。印刷や書類の保管スペースのコストもばかにならない。何より、デジタル化されていないと情報の共有や活用が進まない。ビジネスWi-Fi導入の狙いの一つである「どこでもいつでも業務ができる環境づくり」の障害になってしまう。

 もちろん、現時点では契約書や役所に提出する書類の作成といった業務では、プリントアウトする必要もあるだろう。現在の日本はペーパーレスへの移行期でもある。それでも、何も考えずにプリントアウトする慣習を改めるのは大切。各人ができるだけ書類を減らすよう徹底したい。

 ある大手システムインテグレーターではオフィスにフリーアドレスを導入するとともに、プリントアウトや印刷をする複合機の利用方法に工夫をこらした。オフィスの中心に数台の複合機を配置し、プリントアウトを管理するシステムを導入したのだ。

 具体的には、従業員はまず、自分が使っているパソコンをプリントアウトする複合機に接続する。そして、プリントアウトする際には、それを承認するかを上司が確認するワークフローにしたのである。上司は申請内容を確認してプリントアウトが必要だと判断した場合のみプリントアウトを許可する。

 忙しい上司にさらに一仕事加わるという意味では、業務効率に悪影響を及ぼす可能性は否定できないが、ペーパーレスを強く意識してもらえる。例えば一定期間取り入れて、無駄な印刷がなくなったと判断した後にこの仕組みを止めるといった方法もあるだろう。

 ペーパーレスはモバイル端末の活用の促進にもつながる。モバイル端末さえ持っていればどこでも情報を入手できるようになるからだ。会議もモバイル端末一つで対応できるようになるはずだ。普段仕事をしている場所を離れて会議室に移動して働く際に、モバイル端末の利用が当たり前になればビジネスWi-Fiの効果も引き出せる。

 しかし、モバイル端末活用の徹底も容易ではない。それを実現するために本気でモバイル端末の活用に取り組む鉄道会社では、まず社長以下すべての役員にそれを徹底させるようにした。その具体策の一つが、社長以下すべての役員が会議を行う際、会議室に持ち込めるのはモバイル端末だけにしたことだ。これにより、紙の書類やノートは会議に持ち込めなくなった。そして、この方策を全従業員に拡大したのである。

 この取り組みは大きな効果を上げたようだ。その会社では会議の参加者全員、持っているのはモバイル端末だけ。すべての議論は端末上の共有情報をベースに行われる。会議の準備のための事前の情報共有も徹底され、共通の土台の上で議論が始まり、会議の時間も短縮できた。ビジネスWi-Fiの活用を広げる際には、まずは忙しい経営者陣が率先垂範し業務効率を上げて、それを全社に広げていくのが理想的な形だろう。

執筆=高橋 秀典

【TP】

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