ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
自宅でWi-Fiを使って、スマホやタブレットをネットにつないでいる方も多いだろう。しかし、その延長線としてビジネスでWi-Fiを使おうとすると失敗することがある。ビジネスWi-Fiを十分に活用するには、家庭用とは異なった機器を使うべきだ。電波の届く範囲、同時接続数、セキュリティなど家庭用とビジネス用では大きな違いがある。
進化するWi-Fiを活用することで得られるメリットはビジネス分野でも大きい。しかし、ちょっとした間違いでそうしたメリットが享受できなくなることもある。その典型例が、家庭用Wi-FiとビジネスWi-Fiの違いを考慮せずに、家庭用Wi-Fi機器をオフィスや店舗に導入してしまうケースだ。同じWi-Fiでも家庭で活用するのとビジネスで活用するのでは何が異なるのか。ビジネスWi-Fiならではの特性、必要となる機器などを解説する。
自宅にWi-Fiを導入している人は少なくないだろう。そして、小規模の事業者の中には、その延長線上でビジネス用途に使う際にも、「家電量販店で購入できる家庭用Wi-Fi機器で十分」と考えてしまう方もいるかもしれない。しかし、そこには落とし穴が待ち受けている。
確かに家庭用Wi-Fi機器は価格も安く、容易に購入することができる。しかも複数端末をインターネットに接続する「ルーター」の機能と、無線を使って各端末に接続する「アクセスポイント」の機能を両方とも備えた無線LANルーターが多いので、基本的には買ってきて外部につながるネット回線と接続すれば、家庭内ですぐにWi-Fiが使えるようになる。
このように設置が簡単なことはメリットだが、ビジネス用途で使うことを考えるといくつかの問題点がある。まず一つがカバーする空間の広さだ。Wi-Fiがつながる距離は通常では障害物がないなど好条件の環境で、アクセスポイントから半径25メートルから50メートル。戸建てで言えば2階くらいまで、マンションでは3LDKの広さくらいまでは対応できる。
ただし、鉄筋コンクリートなどの障害物があるとつながる範囲の距離は狭まり、接続が不安定になってしまう。例えば、木造家屋の2階なら問題なくつながっても、1階天井(2階の床)がコンクリートでできている場合、たとえ2階とはいえつながりにくくなる可能性がある。部屋と部屋の間の壁がコンクリートの場合も同様だ。
オフィスや工場は住宅よりも広いことから、まずアクセスポイントからの距離の問題が出てくる。さらにオフィスや工場の床や壁は、木造ではなく、コンクリート造になっている場合も少なくない。1階が店舗や工場で、2階、3階が事務所といった小さなビルを事業所として使っている場合、家庭用の機器では、安定した接続が望めない可能性がある。これではビジネス用途では使えない。
もう一つが同時接続台数の問題だ。前回、解説した通りWi-Fiの進化とともに接続可能な台数は増えてきている。家庭用Wi-Fi機器でも同時につなげる台数は最大で30台から50台になっているケースもある。これだけあれば家庭用としては全く問題ないだろう。しかし、オフィスで使う場合、足りないケースも考えられる。例えば、25人の従業員が働く事業所で、各人がノートパソコンとスマホを常時接続すれば満杯になってしまう。しかも上限に近い数を接続した場合、伝送速度や安定性に影響する可能性がある。
家庭用Wi-Fi機器では、カバーする範囲が狭過ぎ、接続数が足りない場合に導入すべきなのが、ビジネスWi-Fiとして使うことを前提としたWi-Fi機器である。そうした機器では、多くの家庭用Wi-Fi機器とは違ってルーターとアクセスポイントを一体化していない。
先ほども触れたように、ルーターはインターネット回線を接続されている複数の端末に割り振って分配する役割を果たす。一方のアクセスポイントは電波を発信してWi-Fi機能が付いている端末と無線で接続できるようにする役割を持つ。このルーターとアクセスポイントを接続することで、電波の届く範囲にある複数の情報機器でWi-Fiが利用できるようになるというのがWi-Fiの構成だ。そしてビジネスWi-Fiでは、この2つをそれぞれの機能に特化した高機能な機器とし、カバーする範囲を広げ、同時接続できる台数を増やしている。
具体的には、まず外部からのインターネット回線をルーターに接続する。そのルーターからLANケーブルを伸ばしてアクセスポイントに接続する。オフィスの広さや形状などに合わせて、必要な範囲や接続台数をカバーできるように複数のアクセスポイントを設置することで事業所全体にビジネス基盤としてのWi-Fi環境を構築する。
重要なのは利用環境に合わせて、アクセスポイントの配置や構成を適切に決めること。コンクリートの壁などの障害物があるか、別フロアまで広げる必要があるか、といった点を考慮する。基本的には1つのアクセスポイントがカバーできる範囲を半径25メートル程度に設定すれば安心して利用できるだろう。
ルーターとアクセスポイントを分けて全体を構成するビジネスWi-Fiには、もう一つ大きなメリットがある。それがセキュリティ対策の強化だ。家庭用Wi-Fiにもパスワードによるセキュリティ対策が可能だが、ビジネスWi-Fiでは、アクセスポイントの設定によって、さらなるセキュリティ対策強化が可能になる。
例えば、アクセスポイントはSSIDというIDによって識別できるようになっているが、アクセスポイントが持つ複数のSSIDに対してそれぞれアクセス権限を設定し、社内システムに接続できるSSIDとインターネットにしか接続できないSSIDを作ることで、社外の人にはインターネット接続だけを提供することが可能になる。
また、ネットワーク上で機器を識別するために付けられたMACアドレスを使って、事前に接続できるMACアドレスを登録しておいて、それ以外はアクセスポイントに接続できないように設定すれば、Wi-Fi接続できる端末を限定することができる。
企業規模に関係なく、情報セキュリティは非常に大切な経営課題になっている。少しでも高度なセキュリティ対策を施すために、たとえ伝送距離や接続台数が家庭用のWi-Fi機器で対応できるとしてもビジネスWi-Fiの活用を考慮したい。
執筆=高橋 秀典
【TP】
ビジネスWi-Fiで会社改造