人生を輝かせる山登りのススメ(第54回) 御嶽山でボッカの手伝い

スポーツ

公開日:2019.11.26


 疲れて到着する登山者をいつもおいしい料理と快適な布団で迎えてくれる山小屋。登山者にとって頼りになる山小屋は、日々、より良いサービスを提供するために電気や水の確保、調理、清掃など多くの仕事を忙しくこなしています。そんな山小屋の仕事の中でも特に重労働なのが「ボッカ」という人力による荷揚げ。麓から山小屋まで物資を運ぶことがどれほど大変なのか……御嶽山の山頂直下にある山小屋、二の池ヒュッテのボッカ体験を通じてお伝えします。

ボッカは山小屋の重要な仕事の1つ

 御嶽山は昨年の秋、久しぶりに登って以来(そのときの様子は第42回「噴火から4年が経過、御嶽山の今」参照)、私にとって親しみのある山になりました。その理由の1つに二の池ヒュッテのオーナー、高岡ゆりさんの存在があります。

 高岡さんは金峰山(奥秩父/2599m)の山小屋で仕事の経験を積み、2018年に前オーナーから譲り受ける形で二の池ヒュッテの経営者となりました。高岡さんとは友人の紹介で知り合ったのですが、私も山小屋で働いた経験があって仕事の大変さがある程度分かるし、同世代ということもあってすぐに意気投合。以来、親しくさせてもらっています。

高岡さん(左)と著者・小林(右)。後ろは三ノ池

 9月末のこの日、私は1週間後に控えた登山イベントの下見で御嶽山に登るつもりでした。そこで高岡さんに連絡したところ、高岡さんも用事で町に下りていて、ちょうど同じ日に二の池ヒュッテへ上がると言います。私たちは一緒に御嶽山に登ることにしました。

 高岡さんがヒュッテへ上がるときは、空身(からみ/「体1つで」という意味)ということはありません。食料や水などの消耗品は主にヘリで荷揚げをしていますが、ヘリ会社のスケジュールや費用の面で、飛ばせる回数には限りがあります。そこで間に合わない分を、ボッカしているのです。それなら!と買って出て、私もボッカを手伝うことにしました。

食材や飲料水などを山の上の山小屋まで担ぎ上げる

背負子(しょいこ)を担ぐにはコツがいる

 朝、待ち合わせ場所のロープウェイ乗り場に行くと、高岡さんが慣れた様子で荷造りをしていました。この日に担ぐのは山小屋での食事に使う冷凍食材(鶏肉、麺など)やキャベツ、卵、そして飲料用水などです。これらをダンボールや発泡スチロールの箱に入れ、背負子(しょいこ)に縛り付けて運びます。

 背負子に荷物を積むときのコツは軽いものは下、重いものは上、そしてなるべく重いものを背中側にするのがコツです。これは、登山のとき、ザックに荷物を詰めるときの基本と同じです。そうすることによって、背負ったときに重心がちょうど体の中心にかかるので、比較的、楽に感じるのです。スタート時点で高岡さんが30㎏、私が25㎏ほどの荷物となりました。

 冬山登山などではザックの重さが20㎏を超えることも珍しくないので私は重い荷物にも慣れています。「これぐらいの重さなら問題ない」と思いました。しかし、背負子の肩ひもに両腕を通し、立ち上がろうとすると、途端にバランスを崩し、前に倒れそうになってしまいました。高岡さんが慌てて私を支えてくれます。

 「あまり前かがみにならず、真上から引っぱられるイメージで、スッと立ち上がるのがコツなのよ」と教えられました。重さは20㎏でも、重心が上部に集中しているし、荷物のかさがザックより大きいので慣れが必要のようです。

七合目の行場小屋で一休み

助っ人登場

 私は高岡さんに補助してもらいながらなんとか荷物を背負い、ゴンドラ内まで運びました。御岳ロープウェイ終点の飯森高原駅から歩き始めます。ここから二の池ヒュッテまでは標高差約800m、コースタイムで3時間ほど。はじめは樹林の中のなだらかな道ですが、七合目を過ぎると急な登りになります。背負子の荷物は、ザックよりも左右にバランスが崩れやすく、安定して歩くのが難しいと感じました。

 ゆっくり、ゆっくり登っていきますが、傾斜が急になると、脚の筋肉が悲鳴を上げ始めます。「この荷物を山頂直下にある二の池ヒュッテまで運ぶのは無理かも……」そんな弱音が心の中に広がり始めたとき、高岡さんがニヤリと笑って言いました。「実はね、ヒュッテから助っ人をお願いしていて、もう少ししたら上から男の子が下りてくるから、それまで頑張ろう」。

 すると間もなく、登山道を若い男の子が1人、駆け下りてきます。彼は大学生で、ヒュッテでアルバイトをしているそうです。私たちは早速荷物をほどき、3つに分けて背負い直しました。「ボクは仕事があるので先に行きます」とあいさつをすると、さっそうと歩き始めます。「やっぱり、若い男子にはかなわないよね」と高岡さんと顔を見合わせて笑いました。

 荷物を減らしてもらったので、だいぶ軽くなりましたが、それでも標高の高い御嶽山でのボッカは、普段の登山よりずっと苦しかったです。特に標高2800mほどの石室山荘から上は、息が切れて、脚の力も弱くなり、一歩、一歩がやっとというスローペースになってしまいました。

だいぶ上部まで登ってきた。二の池ヒュッテはもう少し

 結局、4時間もかかって二の池ヒュッテに到着。ヒュッテで荷物の重さを量ると、私の分は背負子を入れて18㎏。ラーメン20食分とそのほかの食材が少しずつ。大した量ではありませんが、それでも少しは役に立っただろうと自己満足し、すがすがしい気分になりました。

 その後、ボッカのご褒美に高岡さんがヒュッテ名物の鍋焼きうどんをごちそうしてくれ、三ノ池、五ノ池などの散歩を2人で楽しみ、私は下山しました。体は疲れたけれど、心は満足。なかなか楽しい経験となりました。

 二の池ヒュッテは10月13日で営業を終え、他の山小屋もシーズンの営業を終了しました。御嶽山は再び冬の眠りに入っています。来年の登山シーズンが待ち遠しいですね。私もまた来年、高岡さんの手伝いをしたいと思っています。

二の池ヒュッテの裏は紅葉がきれい

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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