人生を輝かせる山登りのススメ(第30回) 世界遺産、熊野古道・伊勢路を歩く(後編)

スポーツ

公開日:2017.12.15

 伊勢神宮と熊野三山とをつなぐ道、熊野古道・伊勢路。この約170㎞に及ぶ道のりを歩きながら伊勢路の魅力をお届けしていて、今回は後編に当たります。前回は紀伊長島までの古道歩きをリポートしましたが、後編は尾鷲から熊野までの峠歩きを中心に、伊勢路歩きに役立つ情報をお伝えします。

 尾鷲からはいよいよアップダウンが激しくなりますが、数々の絶景との出合いが楽しみな道です。そして、旅の最後は熊野速玉大社へと至ります。全行程12日間を要した伊勢路歩きの後半をどうぞお楽しみください。

リアス式海岸を縫うように歩く峠越え

 尾鷲市街までに越えた荷坂峠、始神峠などの峠は標高差200~300mの小さなものでした。しかし尾鷲からは、伊勢路でも一番の難所といわれる八鬼山(やきやま・標高647m)越えをはじめ、長い登り坂が続く曽根次郎坂、太郎坂などの山道が続く区間に入ります。なお、今回歩いている伊勢路のコースを確かめたい方は、三重県が運営するWebサイト「世界遺産 熊野古道伊勢路」をご覧ください。

八鬼山道「さくらの森広場」からの眺め。戦国時代に名高い九鬼水軍発祥の地として知られる九鬼の漁港、熊野灘が一望できる

 この辺りは湾や入り江が連続するリアス式海岸で、伊勢路はその地形がつくる細かい尾根を越えていきます。それぞれの尾根は、いつもの登山に比べれば標高は高くありません。しかし、海岸の0mレベルから数百mを登り、また下っては海岸に出るといったアップダウンのきつい道が続き、体力がジワジワと奪われていきます。

 そんな中で励みになったのが峠からの大展望でした。息を切らせ、汗をかいて峠まで来ると、海の景色が一気に広がるのです。突き出したいくつもの岬と入り江、そして島々が浮かぶ海の景色はまさに絶景。登りの苦労を癒やして余りある眺めでした。さらに峠をいくつも越えて石畳が美しい松本峠を過ぎると、ゴールまで残すところ約30kmです。熊野市街を経て、七里御浜(しちりみはま)という美しい海岸が続く、穏やかな街道を進みます。

美しい石畳が残る松本峠。古道らしい雰囲気が漂う

約22km続く日本一長い砂礫(されき)海岸「七里御浜」。浜沿いの道から熊野速玉大社へ向かう

七里御浜を歩き熊野川を越えて、旅の終着地へ

 ここからが伊勢路のハイライト。大地の隆起と波による浸食でつくられたという自然の芸術、鬼ヶ城や獅子岩。また、古代神話に登場する伊弉冉尊(いざなみのみこと)の御陵だと伝わる花窟(はなのいわや)神社など、世界遺産にも指定されている見どころが続きます。普通の観光ならば、車でポイントだけを回るのでしょうが、歩くことにより、角度によって全く違って見える獅子岩の形を楽しめ、花窟神社周辺にはご神体とされる岩に似た大岩が他にもあることに気が付きました。

海に向かって吠えているような獅子岩。江戸期に起源を持つ「熊野大花火大会」における人気撮影スポットの1つ

 右手にミカン畑を見ながら七里御浜の海岸をたどり、熊野川を渡れば、いよいよ長い旅の最終目的地である熊野速玉大社(新宮)に到着です。社殿では、170㎞を無事に歩けたこと、そして旅の途中で親切にしてくれた人々などへの感謝の気持ちを込めてお参りをしました。

 お参りを済ませたとき、心がスーッと静まり、ひと呼吸置いて、それが体の中心から隅々にまで行き渡るようなすがすがしさを覚えました。このような感覚になるのは、伊勢神宮から一歩一歩、自分の足でたどる旅をしてきたからこそなのだろうと思います。

伊勢路のゴールである熊野速玉大社。ここからさらに熊野古道・中辺路を行き、熊野那智大社、熊野本宮大社へと進む人も

 峠やその他の道中から見た景色、地元の人々と触れあったことなど、伊勢路で経験したすべてのことは私の心の財産となりました。そして、また明日からの日々を進むための力にもなっているように思います。時代は違えども、昔の人もきっと同じような気持ちで、故郷へ帰っていったのではないかと感じました。

晴天率が高い冬こそオススメしたい伊勢路歩き

 さて、ここで伊勢路を歩くためのアドバイスをいくつかお伝えしましょう。山越えの峠道は、ほぼ一本道なので迷う心配は少ないのですが、意外に分かりづらいのが里道です。分岐には地元の方が立ててくれた「熊野古道」を示す道しるべがあるものの、それだけでは分かりづらい場所も多くあります。

 そんなとき、私は「熊野古道伊勢路ナビ」というWebサイトの地図を活用しました。スマートフォンのGPSと連動させると、地図画面上に現在地が表示されるので分かりやすく、また、周辺の見どころ、食事や宿泊ができる場所も表示することができ、とっても便利でした。

 また、峠越えが続く中盤には、コンビニや商店が少ない地域もあり、さらに山の中に入ると飲み物の自動販売機もないため、飲み物や食料の調達ができないところもあります。登山をするのと同じように、朝出発する前にその日の行動に必要な分の水や食料(非常食も)を用意しましょう。

 行程の山間部はクマの目撃情報も寄せられています。ある峠では12月末にクマが出没したという注意喚起の張り紙を見ました。クマよけの鈴を付ける、人の少ない場所ではホイッスルを吹くなどして、クマとの不幸な事故を避けるように行動してください。

 伊勢路を歩くには秋から春にかけてがよい季節です。中でも冬は晴天率が高く、空気が澄んで遠くの景色まで見渡せるので、オススメの時期。紀伊半島は温暖ですが、特に伊勢路を南下して、熊野が近づいてくると気候はさらに穏やかになります。冬でも快適に歩けるでしょう。

 私は伊勢路を踏破することを1つの目的としましたが、楽しみ方は人それぞれ。まずは興味のある部分から歩いてもよいですし、紀勢本線やバスなどの公共交通機関をうまく使って、国道歩きが長い区間をショートカットするのもよいかもしれません。

 冬は伊勢路歩きにいい季節。みなさんも伊勢路で「歩く観光」を楽しんでみませんか?

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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