人生を輝かせる山登りのススメ(第52回) 〈番外編peak3〉ミステリアスな名山、位山へ

スポーツ

公開日:2019.09.27


 登山初心者のBizClip編集者Kさんと登る山、番外編の3回目。今回は岐阜県高山市にある位山(くらいやま)へ行ってきました。「ずっと気になっていたふるさとの山に登ってみたい」というKさんからのリクエストをもらい、お盆に帰省するタイミングに合わせて、一緒に登山を楽しんできました。トップ画の正面に見えるのが麓の飛騨一之宮。さらに左向こうには高山の町並みが望めます。

今回のお題は「水分補給」を意識すること

2ℓ分の水分を持って登山開始。飽きずに飲めるよう、水、スポーツドリンク、かんきつジュース、お茶など味の違うものを用意

 位山は乗鞍岳から続く中央分水嶺上にある山です。山中に巨岩が点在していて、古くから霊山としてあがめられてきました。ほかにもUFOが来るといわれていたり(興味がある方は飛騨一之宮観光協会HPをご覧ください)、天孫降臨の伝説があったりするなど、ちょっとミステリアスな雰囲気を持つ山でもあります。

 一方で、山頂部にサラサドウダンの群生地があるなど自然豊かな山でもあります。また、中腹や山頂近くからの展望も良いとのこと。私も位山に登るのは初めてで、楽しみにしていました。

 位山に登ったのは8月中旬。登山口がある道の駅「モンデウス飛騨位山」に9時ごろ到着しました。このときの気温は、手元の温度計で28度。日中は30度を超える予報が出ていたことから、熱中症を防ぐために、水分摂取を意識して登ることにします。登山中に脱水状態に陥ると、熱中症にかかりやすいだけでなく、足のけいれんが起こったり、循環器系の病気の原因になったりするといわれています。山中では、街中のようにすぐに病院へ行くことができないので、より気を付けなければなりません。

 登山の運動生理学を研究されている鹿屋体育大学の山本正嘉教授によると、登山行動中の脱水量は気温25度ぐらいまでで「体重(㎏)×行動時間(h)×5」の式で求められるとされています(気温が高いときは係数「5」を6~8に増やす)。例えば、体重60㎏の人が5時間行動をすると1500mlの水分が汗や呼吸などから失われることになります。脱水や熱中症を防ぐにはそれ以上の水分を補給する必要があるということです。

 Kさんの体重に荷物の重さを加えると約70㎏。位山のコースタイムは登りが2時間15分、下りが1時間35分で、合計約4時間です。この日、気温が30度ぐらいまで上がることを考えて、係数を7に変更した上で、上記の計算式に当てはめました。Kさんの脱水量は「70㎏×4h×7=1960ml」で、登山中に約2ℓの水分を補わなければならない計算になります。

 そのことを伝えると「登山中に、そんなに水分補給が必要なのですか?」と驚いた様子です。Kさんが自宅から用意してきたのは、500mlのペットボトル1本。それではとても足りません。登山口で500mlのペットボトル3本を追加し、計2ℓの水分補給を目標に登山してもらうことにしました。でも、なかなか規定量を飲むのは難しいので、より細かく分けて、山頂までに2.5本、下りで1.5本飲むことを目標にスタートします。

位山の標高は1529m、前回の車山よりも標高は低い。恒例の、山頂でワンショット

巨岩を眺めながら山頂へ

 道の駅「モンデウス飛騨位山」を出発し、冬はスキーゲレンデとなる草原の端を登っていきます。この日は台風一過の雨上がり。草付き(岩壁や斜面などにある、草が生えた滑りやすい所)は湿度が高く、少し登っただけでも汗が噴き出してきました。Kさんはリュックサックからボトルを取り出し、こまめに水分補給をしています。

 15分ほど登ったところで山頂への道を外れ、牧草地の中にある祭壇岩に寄り道をしました。祭壇岩は真っ平らな大きな岩が2枚重なっていて、そこからは麓の一之宮が見渡せます。大昔はここで神聖な祭りが行われていたのかも……しれません。

祭壇岩。登山道から外れたリフト脇にある。周囲の木々は作為的に植えられたようで、見下ろす眺めがいい

 晴れた日には北アルプスから御嶽山まで、山々の展望が開けるリフト終点(リフトはスキー用で夏は営業していない)で一休みし、樹林帯を登っていきます。ブナやヒノキなどの木々を見ながら、手入れされた歩きやすい道を進みました。

森林浴気分でブナやミズナラの林を登っていく。位山は植生が豊か

 すると六稜鏡岩と名付けられた巨岩がありました。その後も御手洗岩、畳岩、門立岩などの巨岩が次々と現れます。岩を眺めながら、名前の由来を想像するのも楽しかったです。

 休憩を挟みつつ、登り始めて約2時間、位山のシンボルともいえる「天の岩戸」と名付けられた巨岩に着きました。天の岩戸は3つの巨石が組み合わさって、小さな石室状になっています。この場所が、神話に登場する高天ヶ原であるという伝説もあるとか。構造が人工的に見えることから、古代の遺構や古墳であるという人もいるそうです。

位山巨岩群の中でもひときわ大きい「天の岩戸」。登山旅の切り口として、天照大神伝説のある各地の天の岩戸を訪れるのもいいですね

 晴れていれば乗鞍岳や御嶽山が見える展望スポットを通り、木々に囲まれた山頂に到着しました。ここまででKさんはペットボトル2本分を飲み切りました。目標よりはやや少ないですが、順調に水分補給ができています。

水分補給の結果は?

 山頂部は周回できるように道が付けられています。白山の眺めが良い広場を通り、ドウダンツツジの木々がトンネル状になっている道を抜けて、再び天の岩戸に戻りました。そこからは来た道を下りていきます。行きは雲が多くて景色こそ楽しめなかったのですが、帰りはきれいに晴れて、スキー場上部から一之宮の集落や、高山の町並みなどが見渡せました。

 巨岩や展望、自然林などを楽しみ、無事にスタート地点まで下山。Kさんは下山までに合計ペットボトル3本分(1.5ℓ)の水分補給ができました。目標の2ℓには届きませんでしたが、補給を意識しなければ、持参した500mlだけで登山をするところだったので、その3倍は摂取できたことになります。その効果あってか、熱中症にもならず、足がけいれんすることもなく、登山を楽しめました。

 これから徐々に涼しくなりますが、秋になっても水分補給の大切さは変わりません。むしろ、大量の汗をかかない時期の方が水分補給を忘れがちになるので、意識的に飲むのがオススメ。みなさんもぜひ、今回のKさんを参考に、脱水量を意識した水分補給を心掛け、登山中の体調管理に努めてくださいね。

山頂近くの展望広場で一休み。雲がなければ県境にある白山が望める

 なお、位山では2019年10月5日、6日に登山道を駆け抜ける「第4回飛騨位山トレイル」が開催され、全国から多くのトレイルランナーが集まります。参加者を応援しがてら、秋の位山に出掛けてみてはいかがでしょうか。

▼▽Kさんメモ「位山」▽▼
「位山」は冬場のスキースポットというイメージしかなかったのですが、実は地元の神社で別格の「飛騨一宮水無神社」の奥宮で、分水嶺の一山です。道の駅から山頂までの往復が約10km弱、小林さんに言われてこまめに水分補給をしなければ、途中でバテていたでしょう。そして、初心者登山3回目にして初めて筋肉痛になりました。前モモ、背筋が翌日から痛い……。YAMAP計測で累積標高は登り976m/下り974m、同じ道を登って降りてだと体にキますね。この地元の山登り、新しいお盆の過ごし方を発見させていただきました(笑)

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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