人生を輝かせる山登りのススメ(第51回) 感謝の気持ちを込めて乗鞍岳外来種除去作業に参加

スポーツ

公開日:2019.08.23

高山植物のミヤマキンバイ(黄)やハクサンイチゲ(白)に交ざって咲く外来種のセイヨウタンポポ

 8月11日は国民の祝日「山の日」でした。山の日の意義は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」です。山は登山や川遊び、森林浴などのフィールドを提供してくれるだけでなく、きれいな水や空気、温泉など、数え切れないほどの恵みをもたらしてくれます。

 日ごろ山で活動する私はここ数年、特に「山の日」が近づくと、感謝の気持ちを行動で表したいなと考えるようになりました。そこで思い付いたのが乗鞍岳の外来種駆除作業に参加することです。今回は楽しくてすがすがしい気持ちになれる「乗鞍美化の会」イベントの様子を紹介します。

高山植物のお花畑が広がる乗鞍岳山頂部

在来植物の生態系を壊す恐れがある外来種

 乗鞍岳は標高3026m。山頂に程近い2702mの畳平までバスが運行され、比較的手軽に登れる3000m峰として人気があります。昭和初期に作られた軍用道路がその後、登山、観光用として使われるようになり、現在に至ります。

 2700mを超える高さまで乗り物()でアクセスできるのは日本では乗鞍岳だけ。登山者はもちろん、観光客も3000m近い環境を体験できる貴重な場所となっています。

 しかし、近年はセイヨウタンポポをはじめとする外来植物が増加し(タイヤや靴の裏に付着するなどして運ばれたと思われる)、高山植物の生態系を崩す心配があります。今回のイベント主催者である「乗鞍美化の会」の話では、セイヨウタンポポは繁殖力が旺盛で、在来植物をしのぐ勢いで増えてしまうことがあるそうです。

 また、日本古来の種であるニホンタンポポとセイヨウタンポポの雑種が生まれていることも問題になっているのだとか。この状況を危惧し、「乗鞍美化の会」では10年ほど前から年に数回の駆除作業を行ってきました。
※ マイカーでのアクセスは規制されています。畳平へは、バスもしくはタクシーで乗り入れます

山の環境を維持するために

萼(がく)が反り返っていないのが在来種のニホンタンポポ(長野県・霧ヶ峰にて)

 この日の作業ボランティア参加者は59人。伺うと、ほとんどが地元、岐阜県高山市民でした。ふるさとの山を守りたい、山登りが好きなので環境保全に役立つ活動をしたいという人のほか、普段はあまり乗鞍岳へ来る機会がないのでこれを機に来てみたという人もいました。中には楽しいので毎年のように参加しているという人もいます。

 参加者は4つの班に分かれて、作業方法やセイヨウタンポポの見分け方のレクチャーを受けた後、それぞれの担当エリアで作業を始めます。ちなみにセイヨウタンポポは萼(がく)が反り返っていますが、ニホンタンポポは子房(花の付け根)を包み込むようになっているのが大きな違いです。

 私は白雲荘、鶴ヶ池周辺の道路脇エリアでの駆除作業に参加させてもらいました。よく見ると舗装路の脇や石垣の隙間、そして高山植物の群落の中にもセイヨウタンポポが生えています。在来種でないことを確認しながら、そしてなるべく根を残さないように注意して、1株ずつ引き抜いていきました。

道路脇で作業をする筆者

高山でも大きく育つセイヨウタンポポ

 中には40㎝以上にも成長したセイヨウタンポポもありました(ハイマツ帯で発見)。それを駆除した男性は「セイヨウタンポポがこんなに生命力が強いとは知りませんでした」と驚いていました。

 コマクサやイワギキョウなど、乗鞍岳でも見られる高山植物は、長い歴史の中で、自身の体を小さくすることで高山の厳しい環境に耐えてきました。そんな中でも在来植物より大きく育つセイヨウタンポポを見て、私もビックリしました。セイヨウタンポポも子孫を残すために必死なのですが、それによって日本古来の植物たちが消えてしまうのは困ります。それぞれにいろいろなことを考えながら、でも和気あいあいと作業をしました。

ハイマツ帯で、ビックリするほど大きく育ったセイヨウタンポポ

 1時間30分ほどの作業時間でしたが、気付けばビニール袋半分ほどもタンポポを駆除していました。スタッフが参加者すべてのタンポポを集め、採取量を集計したところ、20㎏にもなったそうです。作業前はポツポツと見えていたセイヨウタンポポの黄色い花は、作業後にはほとんどなくなりました。

時間内、協力し合って作業をした参加者たち

 外来種に悩む山は乗鞍岳だけではありませんし、1日作業をしたからといってすべての高山植物を守れるわけでもありません。でも、作業に参加することによって、今までより乗鞍岳に親しみを持てるようになり、外来種の問題に関心を持つようになりました。作業をしたこと自体よりも、このように山の環境を考える機会を持つことが大事なのではないかと思います。

 また、機会をつくってこのようなイベントに参加していきたいです。

 なお、乗鞍岳は国立公園に指定されています。今回の除去作業は「乗鞍美化の会」により、各方面への許可を得て行われました。許可なしの外来種駆除はできませんのでご注意ください。

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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