人生を輝かせる山登りのススメ(第47回) 熊本の癒やし名山「俵山」

スポーツ

公開日:2019.04.19

 ふらりと登った山が期待以上のいい山だったとき、取って置きの掘り出し物を見つけたようにうれしい気持ちになります。3月中旬に登った熊本県の俵山(たわらやま)は、まさにそんな山でした。今回は旅先で出合ったステキな山について紹介したいと思います。

広大な草原が開放感抜群

登山道から見る俵山の山頂部。春はアセビが咲く

 俵山は熊本市街から車で1時間ほどの所にあり、標高は1095mです。世界的な規模を誇る阿蘇カルデラ(東西18㎞、南北25㎞)の西側に位置しています。当初は熊本の代名詞ともなっている阿蘇山への登山を計画していたのですが、直前に噴火警戒レベルが引き上げられ、規制により登れなくなりました(2019年3月29日に警戒レベル1に引き下げられた)。

 そこで思い付いたのが俵山です。北側の俵山展望所(俵山峠)から山頂までの往復であれば3時間程度なので、半日もあれば登れます。それでいて展望が素晴らしいと聞いていました。

 朝、熊本空港近くのホテルを出発して、田園風景を眺めたり、山道を抜けたりしながら俵山登山口のある展望所へ向かいました。展望所からは阿蘇山が眺められますが、山の上へ行けばもっと素晴らしい景色が楽しめるだろうと期待しつつ、登山道を歩き始めます。

 阿蘇は良質の和牛として知られる「あか牛」の産地ですが、俵山の麓は牛の放牧場として利用されています。山の斜面は見渡す限りの広大な草原で、登山道もその中に作られています。

 背丈を超える“ススキ原”の中の一本道。春の風が野焼き前のススキを優しく揺らしていきます。振り返れば、登るごとに阿蘇外輪山(あそがいりんざん)の山々の眺めが広がり、あまりの心地よさに絵本の世界に引き込まれたかのような気分で歩きました。

俵山の登山道はススキ原でとても気持ちがいい

 途中で一部、植林帯を通りますが、それを抜けるとアセビなどの低木帯、その上部は笹原となって、さらに広大な景色を楽しめます。ゆっくり登っても登山口から2時間足らずで山頂に到着しました。

下りながら楽しむ阿蘇山の絶景

 この日は春がすみがかかっていたものの、東には阿蘇山、北には鞍岳、南は冠ヶ岳などの南外輪山へ続く山々が見渡せました。そんな景色を見ているうちに俵山から北に見る山の斜面が、所々大きく崩れていることに気が付きました。

登山道から見渡す阿蘇山とカルデラの南郷谷

 山頂で会った地元のご夫婦に伺ったところ、白川方面の地肌が見える斜面は、いずれも2016年の熊本地震の際に崩壊した場所だといいます。俵山が位置する西原村南阿蘇村は地震で大きな被害を受けたエリアの1つです。俵山の北山麓を貫く俵山トンネルが地震後、約8カ月にわたって不通となったほか、現在でも俵山へ向かう県道28号線が一部不通となったままです。

広くて休憩に適した俵山の山頂

 俵山の登山道も崩壊し、私が歩いた展望所からのコースと、西側からの2本のコースがしばらくの間、通行止めとなりました(今はいずれも新しい道が整備され通れるようになっている)。ちょうどこの4月に地震から3年を迎えましたが、山から見渡しただけでも、まだその爪痕は深く残っていることを実感しました。

 山頂はもちろん、登りながらも景色が楽しめ、開放感あふれる俵山は人気です。この日も、多くの登山者とすれ違いました。何人かに聞くと、熊本市や周辺の町村にお住まいの、地元の方が多かったです。中には、天気が良ければ俵山に来るという人もいました。現在も熊本の人たちにとって憩いの場となっているようです。

 さて、下山は往路を戻るのですが、今度は阿蘇山を正面に見ながらの道。前日にうっすらと雪化粧した阿蘇の山々と、巨大カルデラの地形が目の前に広がります。次第に春がすみも消え、視界がクリアになってきました。その風景は空からの眺めのようでした。

 手軽に絶景を楽しめる俵山が人々に愛される理由がよく分かります。きっと、今ごろは展望所からの登山道に植えられた桜の花が開き、さらに多くの人を笑顔にしていることでしょう。

 

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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