人生を輝かせる山登りのススメ(第36回) 山でハッピーウエディング

スポーツ

公開日:2018.06.22

 山の新緑が梅雨にぬれる季節になりました。高山植物の花が開き始める6月といえば、結婚式のシーズンですね。そこで今回は、山で行う結婚式についてお話ししたいと思います。

 私自身は2017年に“自分たちらしく”そして、お招きした方にも喜んでいただきたいという気持ちを大切に、山で結婚式を挙げました。恥ずかしながら、本編後半、穂高神社奥宮での体験談を書いています。山での結婚式に興味がある方は、ぜひ一読してみてください。

より強く思い出に残る山での結婚式

山好きはやっぱり山で

 最近のブライダル事情は多様化していて、都市部の専門施設ばかりでなく自分たちらしい場所や演出で結婚式・披露宴をするのが流行しているといいます。登山を通じて知り合ったカップルなら、やはり好きな山で式を挙げたいと思うのも自然なことでしょう。

 二人が出会った山、思い出の山など、思い入れのある場所で人前式をしたり、ウエディングドレスで記念写真を撮ったりする山好きカップルは多いですが、中には日本一の場所、富士山頂で神前式をするつわものカップルもいます。

日本最高所の神社、富士山頂上奥宮でも式が挙げられる

 神奈川県にお住まいの森田貴彦さん・芙美子さんは2017年8月11日(山の日)に富士山頂にある「富士山頂上奥宮」で挙式をされました。芙美子さんのお父さんは登山が大好きで、中でも富士山には毎年登るほどに特別な思い入れがあるそう。そこで二人で相談し、お父さんを喜ばそうと、富士山頂での結婚式を決めたそうです。

 貴彦さん、芙美子さんはタキシード、ウエディングドレスを自分たちで背負い上げ、山頂で着替えて式に臨んだそうです。当日はお父さんと、山の仲間数名が式に立ち会いました。霧がちな天気でしたが、時折青空も見られ、「まさに一生の思い出になる結婚式になりました」と話してくれました。お二人はもちろんですが、お父さんがどれほど感動されたかは、想像に難くありませんよね。

富士山頂で結婚式を挙げられた森田貴彦さん、芙美子さんご夫妻。他の登山者にも祝福され幸せいっぱい

 山頂で神前式のご奉仕をする富士山頂上奥宮(富士山本宮浅間大社)に伺ったところ、2017年は12組、2016年は10組が挙式をしたそうです。奥宮が開かれるのは7月中旬〜8月末という短い期間。その間に10組前後が行っているのですから、もしかしたら、皆さんが登ったときにも幸せなシーンを見かけるかもしれません。

 挙式の内容は、麓の富士山本宮浅間大社とまったく同じで、祝詞奏上の儀(神主が両家の結婚を神さまに報告し、加護を祈る儀式)や、三献の儀(お神酒を飲み、夫婦の契りを交わす儀式)などが執り行われます。

 二人だけで心静かに行うこともあれば、山の仲間20人ほどが参列してにぎやかに祝福されることもあるといいます。婚礼衣装に着替えることもできますが、衣装を運び上げるのが大変なため、登山ウエアのまま行うというカップルも多いそうです。

 富士山での挙式、まさに日本一の場所で愛を誓えば、その絆はより確かなものになりそうです。

舟に乗る結婚式

上高地明神池畔を舟こぎで渡る

 さて、そういう私も、昨年初夏に長野県・北アルプスにある穂高神社奥宮で挙式をしました。穂高神社奥宮は上高地から歩いて約1時間、穂高岳の一峰である明神岳の麓にあります。

 ここは私が特に好きな山域ということもあって、何度も訪れているのですが、あるとき舟の上に新郎新婦が立つ結婚式のポスターを見ました。そのときは結婚できる気配がまったくなかったので「ここでも式ができるのね」というぐらいにしか思っていませんでした。

 それからだいぶ時は流れ……、私にも結婚のご縁がやってきました。そこで悩むのが式をどうするか、です。夫は派手な結婚式・披露宴は絶対にイヤだと譲りません。私も決まりきった結婚式ならやらなくてもいいかなと思っていました。でも、母はちゃんとした式を挙げてほしい様子。困って、長く考えていたときに思い出したのが、穂高神社奥宮での式でした。私たちらしいし、しかも古式ゆかしい神前式ができるので母も納得しそう。さらに山での結婚式なら友だちも喜んでくれるのではないか、ということで迷わずに決めました。その上、ポスターで見たような明神池を渡れる珍しい神事も行われます。

 古来、穂高神社を信仰してきた安曇(あずみ)族といわれる人々は、元は海洋民族で、海を渡って安曇野の地に来たと伝わっています。その名残でしょうか、奥宮では、毎年10月8日に御船神事(おふねしんじ)が行われます。そのときはもちろん、神主さんやみこさんなどの関係者しか舟に乗れないのですが、結婚式では特別に新郎新婦が同じような神事を体験できるのです。

 当日は幸いにも晴天に恵まれ、新緑の静かな森の中で式が執り行われました。憧れの山々に見守られ、より厳粛な気持ちになります。そして、舟渡りの神事。普段は決して立ち入ることのできない神域に入らせていただいただけでなく、婚礼衣装で舟に乗るという、ここでしかできない体験をし、大変に思い出深い式となりました。

 ちなみに舟はバランスを保つのが難しいため、多くの新郎新婦は座るそうですが、私たちはせっかくなのでよく景色が見えるよう立って乗りました。参列してくださった皆さんも大いに喜んでくれたようです。

穂高神社奥宮での挙式は好天に恵まれ、参列者も喜んでくれました

 穂高神社奥宮で式を挙げられることはあまり知られておらず、年に2〜3組しか行われないそう。普段は、山登りはまったくしない伯父や伯母も自然の中を歩けてよかったと言っていました。

 山での結婚式は、参列者にアクセスの面で負担をかけたり、天候の影響を大きく受けたりするなどハードルの高い面もありますが、新郎新婦だけでなく、多くの人の記憶に残る式になると思います。

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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