人生を輝かせる山登りのススメ(第16回) 今年は特に注意!クマとの遭遇被害を防ぐ5つの対策

スポーツ

公開日:2016.10.27

 10月も末になって、すっかり街の中でも秋が進みました。気候の良い季節、自然豊かな山あいへハイキングに出掛ける人も多いと思います。しかし、気になるのがクマの目撃情報です。

 今年の春、秋田県で相次いで人が襲われる事故がありました。環境省のデータによると2016年4月~8月は例年に比べると非常にクマの目撃情報が多くなっています。2015年の同じ期間では7310件でしたが、2016年は1万962件と50%近くも増えているのです。

 この秋もどんぐりが不作らしく、クマが人里に下りてきやすいというニュースも聞きました。住宅地にもクマが下りて来る現状、危機感を募らせている人もいるのではないでしょうか。今回はクマに遭わない方法や遭ってしまったときの対策をお知らせします。

対策1:クマよけの鈴を着ける

 本州や四国にすむのはツキノワグマです。北海道のヒグマより攻撃性は弱いといわれていますが、視界のない樹林帯やヤブで鉢合わせをすると、驚いて襲ってくることがあります。クマとの不幸な事故を防ぐ一番の方法は、あらかじめこちらの存在を知らせることなのです。

 そのために“クマよけの鈴”が有効です。登山用品店やアウトドアショップへ行くと、専用の鈴やベルが売られているのでチェックしましょう。私は、鈴タイプのものではなく、真ちゅうでできたベルタイプのものを使っています。真ちゅう製のベルは音色が高く、より大きな音が出て、遠くまで響きやすいからです。真ちゅうは他の素材に比べて重いのが難点ですが、安全には代えられません。

 なお、クマよけとしてラジオを鳴らしている人もいますが、相手に気付いてもらうためには大きな音を出さなければならず、そうすると、今度はその音で、こちらがクマの気配に気付かないことがあると頭に入れておきましょう。

対策2:ホイッスルを吹く

 渓流釣りでクマの多くすむ山域に入る友人は、ホイッスルが有効だと言っていました。ベルよりもさらに遠くまで届き、常に音が鳴り続ける鈴やベルより、局地的にホイッスルを吹くほうがクマに警戒音として届きやすいそうです。

 それを聞いてから、私はクマのいそうな山ではベルをバックパックに付けて鳴らし、さらに見通しの悪いところ、獣の臭い、登山道近くで動物の動く気配が感じたときにはホイッスルを吹くように使い分けています。

 余談ですが、最近のバックパックには、チェストストラップにホイッスルが付いているものがあります。自分の持っているバックパックを確認し、そのような機能があれば、クマ対策だけでなく、緊急時に救助を呼ぶときなどにも使えることを覚えておきましょう。

 登山者が多く、クマに遭遇する可能性が低い場所で大きな音のベルを鳴らしたり、むやみにホイッスルを吹いたりする必要はありません。以前、山小屋に宿泊しているとき、早朝のまだ暗いうちから出発準備を始めた人のザックに付いていた鈴が動くたびに大きな音を立てて、他の人が休めなかったということもありました。周囲の状況を考えて、過度な警戒が他の登山者の迷惑にならないように配慮しましょう。

対策3:背を向けて逃げない

 用心をしていてもクマに遭ってしまったらどうすればいいでしょうか。至近距離でクマの姿を見たらこちらも驚いて、走って一目散に逃げてしまいがちですが、それは決してやってはいけません。クマは走って逃げるものを追う習性があるので、逆に襲われる可能性が高まります。

 クマに遭ったら、なるべく刺激しないように相手の様子をうかがいながら、静かにゆっくりと後ずさりし、こちらに攻撃する意思がないことを示します。よくいわれる「死んだふり」もクマが興味を示して近づいてくることがあるので逆効果です。また、木に登っても意味がありません。ツキノワグマは木になっている実を食べるほど木登りが上手です。そんなクマに勝てるほどの木登り上手はまれでしょう。

対策4:クマ撃退スプレーを携行する

 クマが出没する可能性の高い山域に入るときは、クマ撃退スプレーを携行するなどの準備をしたほうがよいでしょう。唐辛子パウダーなどを噴射してその刺激でクマを追い払うスプレーですが、慣れていないと操作に戸惑うことがあります。「持っていれば安心」というものではないので、使い方を事前によく研究しておくなどの準備が必要です。

対策5:見かけたら通報して情報を共有する

 もし、ハイキング中にクマを見かけたら被害の有無にかかわらず、その地域の自治体に連絡しましょう。自治体では注意喚起のアナウンスをしたり、目撃情報の看板を設置したりするなどの対策が取られ、あなたの寄せた情報が他の登山者を守ることになるかもしれないからです。

 ちなみに、かつては九州にもツキノワグマが生息していましたが、2012年に環境省によって絶滅危惧種のレッドリストから除外され、事実上の絶滅とされました。しかし、祖母山地を中心にその後もクマではないかとされる目撃情報が複数報告されています。一部はアナグマだと判断されましたが、正体不明の事例もあります。クマはいないものと安心しきるのではなく、目撃情報のある山域に入る場合は万一に備えて対策をしたほうがよさそうです。

襲われても決して諦めずに抵抗する

 運悪く遭遇しクマが突然襲ってきたときは、できるかぎり必死に抵抗します。手にトレッキングポールを持っていれば、それが武器や防御に役立つかもしれません。また、カメラや足元に転がっている石など、何でも使って戦います。

 抵抗するのが難しい状況の場合、頭部や頸部(けいぶ)を攻撃されると致命傷となるのでバックパックなどで保護し、おなかを抱えるようにしてうずくまります。命があれば拾いもの、決して諦めないでください。

 登山やハイキングに出掛けるときは、クマの生息域に、私たちが踏み込んで行っているのだという自覚を持って行動するようにしましょう。環境省のWebサイトに「クマに関する各種情報・取組」があります。この中に都道府県別の被害状況や出没件数のデータをはじめ、「クマ類出没対応マニュアル -クマが山から下りてくる」がありますので、チェックしておくといいでしょう。

執筆=小林 千穂

山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どもの頃に山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』など登山専門誌に多数寄稿するほか、『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)、『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)などの著書がある。現在は山梨で子育てに奮闘中。

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