ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第22回) 微細な使いやすさを追求したキャンパスノート

スキルアップ

公開日:2020.09.25

 文房具店のノート売り場には、さまざまなデザイン、紙質、大きさの商品がズラリと並んでいます。その中でも、定番となっているのがコクヨの「キャンパスノート」。学生時代、あるいは社会人になってから一度もキャンパスノートを使ったことがないという人は少ないのではないでしょうか。

 キャンパスノートの発売は1975年。これまでに累計31億冊以上の販売冊数を記録している、ノートのロングセラー商品です。

 キャンパスノートには、ルーツとなっている商品が2つあります。1つは、1959年にコクヨが発売した背のある無線綴(と)じのB5ノートです。この商品を開発した当時、ノートの主流は複数の紙を糸で留める糸綴じ(かがり綴じともいう)ノートでした。ノートを開くと、真ん中のノドの部分に糸が見えるのが糸綴じノートです。

 この糸綴じノートは、普通に書くには特に問題もありません。また、強度に優れているという長所もあります。ただ、糸綴じノートはノートを開くとページが山なりに膨らみます。そのため、若干書きにくいという側面がありました。

 それまで帳簿や伝票などの製造を中心に事業を行い、ノートの分野では後発だったコクヨは、ここに目を付けました。ページが山なりに膨らまず、平らに開くようになれば、使い勝手が少し良くなる――。この細かな使い勝手に、商機を見いだしたのです。

 糸綴じに代わる綴じ方の研究を進めた結果、たどり着いたのが無線綴じでした。無線綴じは糸を一切使わず、中紙を背表紙にのり付けしてとじる方法です。無線綴じだとノートを開いたとき、ページが山なりに膨らまずフラットになります。また、糸綴じだと片方のページを破くともう一方のページも外れてしまいますが、無線綴じだと片方のページを保存のために破いても、もう一方のページは外れることがありません。

 ただ、無線綴じは糸綴じよりも強度に劣り、紙がバラけやすいという欠点がありました。そこでのりの材質、塗り方などに工夫を凝らし、糸綴じに負けない強度が出るようにしました。キャンパスノートも、1959年の無線綴じノートで採り入れた無線綴じを採用しています。しかし、のり付けの工程は企業秘密。工場見学でも、この工程は見られないようになっています。

 1959年の無線綴じノートがキャンパスノートの綴じ方の原点だとしたら、コンセプトの原点になったのは1965年に発売された意匠ノートです。このノートの綴じ方は、左右の紙のとじる部分に穴を開けて、そこにらせん状の針金を通してつなぐ「スパイラル綴じ」という方法。大きなセールスポイントは、表紙に人気イラストレーターの絵や写真を用いたことです。中でも人気を博したのが、欧米の有名大学のキャンパスの写真を使った「世界の学府シリーズ」。美しいキャンパスで学生生活を楽しむ欧米の大学生の姿は、当時の日本の学生の憧れをかき立てました。

 この意匠ノートで用いたキャンパスのイメージと無線綴じを組み合わせ、洗練されたイメージと高い実用性を持つノートをと開発されたのが、キャンパスノートです。

 1975年にキャンパスノートが発売されると、フラットに開ける使いやすさと高いデザイン性で、小学生から大学生まで幅広い層の支持を受けました。

マイナーチェンジのたびに使いやすさを追求

 使いやすさの追求は、発売されてからも続きます。実は、現在販売されているキャンパスノートはマイナーチェンジを繰り返した5代目です。マイナーチェンジのたびに微妙な部分に手を加え、使いやすさを向上させてきました。

 例えば、無線綴じの課題は、のりの粘着力が強過ぎるとページが開きにくくなり、弱過ぎれば紙がバラけやすくなってしまいます。そこで適切な粘着力になるよう、のりの塗り方などの研究を続けました。現在のキャンパスノートは、軽くフラットにページが開けるのと同時に、16キロの重りをつるしても中紙がはがれないほどの強度を持っています。

 また、キャンパスノートのページの一番上と一番下のケイ線には、短い縦棒と丸点の目印が交互に付けられています。これは上下に線を引くときの目安になるとともに、書き出しの頭をそろえやすくするものです。この目印も進化しています。目印の中には、下向きの三角形が混ざっています。これは以前、日付などを入れる線が引けるよう、ページの左寄りの所だけにありました。その後、多様な使い方に対応できるよう、ページの右寄りにも三角形の目印が入るようになりました。

 目印は、ページの一番上と一番下のケイ線だけでなく、短い定規でも線が引けるようページ内のケイ線にも目印が打たれていますし、行数が数えやすいよう5行ごとにケイ線の端に目印を入れるなど、非常に細かい配慮がなされています。

 シャープペンシル、ボールペン、万年筆などさまざまな筆記具で書き心地がよくなるよう、紙の材質にも改良を加えています。2011年にリニューアルした5代目のキャンパスノートでは、数年にわたる調査の上、新しい紙を採用しました。

 キャンパスノートは基本的なベーシックタイプのほか、ケイ線上にドットが等間隔に入ったタイプや、めくりやすいようページの端に切れ目の入ったタイプ、持ちやすいよう縦長になったタイプなど、多様な使いやすさを追求したバージョンが出ており、300種類を超える製品ラインアップを展開しています。

 開いたとき、ページが多少山なりになってもノートに書き入れることはできます。また、細かく目印が打たれていなくても、筆記具によっては多少書きにくいことがあっても、書くというノートの基本的な機能が損なわれることはありません。そして、あまりにも単純なつくりなので、他社商品との違いが生み出しにくく、まねもされやすい、ブランド化が非常に難しい商品といえるかもしれません。

 それでも、ページの開き具合、ケイ線の目印、紙の材質など、微細な使いやすさを徹底して追求し、地道な改良を重ねたことにより、キャンパスノートはブランド化を実現したのです。商品をブランド化しロングセラーを生み出すには、他にはない目立った特徴をアピールすることが必須に思えますが、そうではないことをキャンパスノートは教えてくれます。

執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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