ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第32回) 特殊な目的が普遍へとつながったTOTOの「ユニットバス」

スキルアップ 雑学

公開日:2021.07.19

 本格的な夏が到来し、仕事から帰ったら、まず風呂に入って汗を流したい季節がやってきました。現在、多くの住宅でユニットバスが採用されていますが、TOTOがJIS規格に適合した日本初のユニットバスを開発したのは1963年のこと。以来、60年近くにわたって人々の疲れを癒やし続けています。

 ユニットバスの開発には、1964年に開催された東京五輪が大きく関係しています。1959年のIOC総会で1964年の五輪開催地が東京に決まると、日本では受け入れのため交通インフラや各種施設の整備を始めました。その1つがホテルです。政府は約3万人の訪日客があると予想していました。しかし、ホテルの客室数は十分とはいえない状況です。

 そこで政府の要請に応じたのが、大谷重工業社長の大谷米太郎でした。大谷は、千代田区紀尾井町にある自分の所有地を使ってホテルの建設に着手します。

 大谷の「ホテルニューオータニ」は、訪日外国人をメインターゲットに17階建て、客室数は1000室を超える国内初の超高層ホテルとして構想されました。しかし建設が決まったのは1963年1月。工期は約1年半と、通常なら約3年かかるところの半分しかありません。

 開業に向けて突貫工事が進められましたが、問題となったのが浴室です。浴室の工期は通常、1室当たり3週間から1カ月が必要でした。五輪に向けた建設ラッシュで人手不足だったこともあり、1000室を超える浴室の工事を普通のスピードでやっていたら間に合いません。

 ホテルニューオータニの施工を担当していた大成建設は、解決策をメーカー数社に依頼します。その中の1社が東洋陶器(現・TOTO)でした。1912年に創業し、水洗便器や浴槽などの製造を手掛けていた同社は1963年7月に開発プロジェクトを立ち上げ、工期の大幅短縮という難題に取り組みます。

 通常の工法を使っていては、工期を大きく短縮できません。工期を短縮するには、部材をあらかじめ工場で製作し、現場で組み立てるというプレハブ工法が最適です。しかし浴室全体をプレハブ工法で作ってしまうと、現場への搬入が容易ではありません。

スピードアップのために採られた策とは

 そこで考えられたのが、浴室を上下半分に分けて製作するセミキュービック方式によるユニットバスでした。

 まず、防水パンというステンレス製の大きな受け皿を床に置きます。そして、防水パンの上に浴槽、給排水管などを組み込んだ「腰下フレーム」を浴室の下半分として置き、その上に浴室の上半分となる「上部壁フレーム」を重ねます。そして、ドアなどの器具類を取り付ければ完成です。

 こうして、従来の工法では1室当たり3週間から1カ月かかっていたところ、3~5日で浴室ができるようになりました。防水パンによって水漏れが防げるうえ、東洋陶器が1958年に開発していたFRP(繊維強化プラスチック)製の浴槽を採用して軽量化を図り、運搬を容易にしました。

 セミキュービック方式のユニットバスという東洋陶器の案は1963年12月に正式採用され、製造を開始しました。そして、工場での製作から現場での設置までを約3カ月半という超短期間で終え、ホテルニューオータニは無事、開業を迎えました。

 日本では本格導入されていなかったユニットバスは、洗練されたデザインも含めて評判を呼びます。他のホテルにも次々に採用され、浴槽と洗面などが一体になった浴室空間が徐々に根付き始めます。折からマンションの建設ラッシュも起こり、東洋陶器は1966年に集合住宅向け標準ユニット「UB-S1」を発売。1977年には、戸建住宅用浴室ユニット「KBシリーズ」を発売し、ユニットバスは日本でもおなじみのものになりました。

 通常では、特殊と普遍という2つの概念は分けて考えられます。その事例だけに当てはまるのが特殊で、一般的に当てはまるのが普遍です。しかしTOTOのユニットバスの事例を見ると、特殊と普遍は重なり合っているようにも見えてきます。

 TOTOのユニットバスは、東京五輪の訪日客を迎えるホテルの建設に間に合わせるという特殊な目的のために開発されました。しかし、短期間で工事が終わり、軽量で運搬性に優れ、デザイン性も高かったため、他のホテル、マンション、戸建て住宅にも採用され、広く普及していきました。

 私たちは、1つひとつの仕事をまったく別の案件と考えるときがあります。しかし、1つの案件の中には普遍に通じる大切なものが含まれている可能性がある。そんなことを、TOTOのユニットバスの事例は教えてくれているのではないでしょうか。

執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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