ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第8回) UCC缶コーヒーをブレークさせた「万博への攻勢」

スキルアップ

公開日:2019.07.23

 日が照りつける中、冷たい缶コーヒーで喉を潤すシーンが多くなる季節になりました。世界で初めて缶コーヒーを開発したといわれているのが、UCC上島珈琲。同社の缶コーヒーは1969年の発売以来、人々に愛され続けるロングセラー商品です。

 UCCの歴史は、創業者の上島忠雄が1933年、神戸にジャムやバターなどの輸入食材を扱う個人商店を開業したことに始まります。神戸は今もハイカラな街ですが、貿易港である神戸には西洋文化があふれ、喫茶店ではコーヒーが出されていました。そうした喫茶店でコーヒーの魅力に取りつかれた忠雄は、コーヒー豆の焙煎(ばいせん)卸業を始めます。

 事業を順調に発展させていった忠雄は、戦後の1951年に商店を上島珈琲株式会社に改組。現在にまで続くUCCブランドをつくります。UCCは、UESHIMA COFFEE COMPANY(ウエシマ・コーヒー・カンパニー)の頭文字を取ったものです。忠雄は全国に上島珈琲の販売拠点を整備し、コーヒー業界をけん引する存在となっていきました。

 そんな中で生まれたのが、缶コーヒーです。

駅の売店で味わった心残りがきっかけ

 あるとき、全国を飛び回っていた忠雄は、駅の売店で瓶入りのコーヒー牛乳を買いました。しかし、一口付けたところで列車の発車ベルが鳴ってしまいます。当時、飲み物の瓶は売店に返却するのが決まり。コーヒー牛乳はまだ大半が残っていましたが、忠雄は急いで売店に瓶を戻し、列車に飛び乗ります。

 列車には間に合いましたが、気になるのが飲み残したコーヒー牛乳のことです。「手軽に持ち運べるコーヒーが作れないものだろうか……。そうだ、瓶ではなく缶入りにすればいいんだ」。こう思いついた忠雄は、缶コーヒーの開発プロジェクトを立ち上げたのです。

 開発過程ではさまざまな問題が生じました。例えば、コーヒーを缶に入れるとコーヒーの成分と缶が化学反応を起こし、コーヒーが黒く変色してしまったのです。その解決策として、缶の内壁に特殊なコーティングを施しました。こうした幾多の苦難を乗り越えてついに思い描いた缶コーヒーが完成。1969年4月に発売しました。

 しかし、社を挙げて営業スタッフがキヨスクなどに営業をかけますが、売れ行きは思わしくありません。営業スタッフ自身が、キヨスクで「UCCコーヒー ミルク入りください」と商品名を口に出して買ったり、電車に持ち込んで飲んだりと、地道な努力をしますが、なかなか認知度が上がりませんでした。

 そこで目を付けたのが、翌1970年に大阪で開催されることになっていた「日本万国博覧会」です。

売れないものを売る工夫

 運がいいことに、万博の会場はUCCの大阪工場から程近い所にありました。また最終的には6000万人を超える入場者がありましたが、開催前にも入場者は2000万人を超えると予測されていました。大きな商機になり得ると見たUCCの経営陣は社内に万博準備室を設け、冷蔵された状態で搬送できるトラックを新たに用意。夜間搬送にも対応できる態勢を整えます。

 そして、万博にパビリオン(展示館)を出展する企業や会場内の飲食店に、いち早く営業をかけていきました。飲食店に対しては缶コーヒーの販売に必要な機械だけでなく、そこで働くスタッフの準備にまで気を配るという念の入れようです。その結果、海外のパビリオンは100%、日本のパビリオンと飲食店は80%がUCCと取引することになります。

 万博は1970年3月に開幕。春先は目立った動きがありませんでしたが、夏になるとUCCの缶コーヒーが爆発的に売れるようになりました。気温の上がった会場内で喉を潤すため、来場者が競うように缶コーヒーを買い求めたのです。万博を機にUCCの缶コーヒーは認知度が一気に高まり、全国から入ってくる注文に生産が追いつかないほどの状態になりました。

 万博の翌年、UCCの売り上げは100億円を突破。コーヒーの実の「赤」、コーヒーの花の「白」、焙煎したコーヒー豆の「茶」の3色で彩られた缶をトレードマークに、UCCの缶コーヒーはロングセラーへの道を歩んでいきます。

 上島忠雄が列車の中で思いついたアイデアから始まったUCCの缶コーヒーは2018年、缶コーヒーのロングセラー製品としてギネス世界記録に認定され、累計販売数が150億本に達するという世界的な大ヒット商品に成長しました。

 万博を活用しなくても、時代の流れでUCCの缶コーヒーはいずれ広く受け入れられることになったかもしれません。しかし、万博を商機と見て攻勢をかけていなければその時期は遅れ、他社との競合に苦しんだ可能性もあります。

 新商品のPR戦略は非常に難しいものです。万博というイベントに商機と勝機を見いだし、社の態勢を整えそこに集中してリソースを投入していった。それによるスタートダッシュの成功がUCCの缶コーヒーを他社に抜きんでた商品に押し上げ、ロングセラー商品となる礎になったように思います。

執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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