ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第9回) 会長・社長・社員で生み出した「ごきぶりホイホイ」

スキルアップ

公開日:2019.08.20

 暑い夏。アース製薬のゴキブリ用捕獲器「ごきぶりホイホイ」を台所などに設置している方も少なくないのではないでしょうか。ごきぶりホイホイの発売が始まったのは1973年。以来、45年以上にわたって愛用されているロングセラーです。

 アース製薬の創業は1892年。噴射式の家庭用殺虫剤「アース」や蚊取り線香「アース渦巻香」などの虫ケア用品で事業を展開していました。しかし、業績低迷により、1970年に大塚製薬の資本参加を受け、経営の立て直しを図ります。大塚製薬の社長であった大塚正士氏(当時)の実弟である大塚正富氏が社長に就任。正富氏は「3年以内に会社を立て直す商品を開発して世に送り出す」ことを決意します。

 当時、社会課題となりつつあったのは、ゴキブリの駆除でした。それまで木造中心だった日本の住宅は、1970年代に入るとマンションなどのコンクリート造りの建物が増え始めました。また、木造でもアルミサッシの普及により気密性が向上しました。その結果、家屋の暖房化率が高まり、ゴキブリにとっては住みやすく、住む人にとっては悩ましい状況になってしまったのです。

 当時ゴキブリ駆除のために一般的に使われていたのは、プラスチック容器で生け捕りにするタイプ。捕獲後は水に漬けるなどの殺処理をしなければならず、決して使い勝手のいいものではありませんでした。

子ども時代のセミ捕りが商品のヒントに

 ゴキブリを駆除するいい方法はないか……。社長の正富氏が模索していた1971年の夏、工場に向かうバスに乗っていると窓の外からセミの声が聞こえてきました。セミの声に耳を澄ませると、子どもの頃、セミ捕りに行っていたことを思い出しました。現代では網で捕るのが主流ですが、正富氏が子ども時代は、長い竿(さお)の先にトリモチと呼ばれる粘着性の物質を付けてセミを捕っていました。

 「ゴキブリの駆除に、この方法が使えるのではないか」。ひらめいた正富氏はすぐ研究員を集め、新製品の開発を指示します。その結果、研究員たちが考えたのは、紙の箱に粘着剤を仕込み、捕獲した後は箱ごと捨てられるようにするというアイデアでした。誘因剤を含んだ粘着シートでネズミを捕獲する、アメリカのネズミ捕り器がヒントになっています。

 ゴキブリは、暗いところに隠れる習性があります。色の暗い紙で高さの低い紙の箱を作り、底に粘着剤を塗って真ん中に誘引剤を置けば、ゴキブリが誘引剤のニオイに釣られて箱に入ってくる……。研究員はこう考えました。

 しかし、実験してみると思っていたようにはなりません。箱の入り口までは来るのですが、ゴキブリの鋭い触覚が粘着剤に触れると、危険を察知して中に入ってこないのです。どうすれば、箱の中に入れることができるのか。開発チームの試行錯誤が続きます。

工夫を凝らし、満を持して発売

 突破口になったのは、ある研究員の一言でした。「箱の入り口に坂道を設けて上を向くようにすれば触覚が粘着剤に当たらず、好きなニオイに釣られて中に飛び込むのではないか」。実験してみると、もくろみ通りになりました。これで、私たちが知るごきぶりホイホイの原型ができたことになります。

 粘着剤についても、乾燥しにくく強力で、しかも持続性があるように工夫を重ねます。こうして1972年の5月には試作品が完成。社内公募で決まった「ゴキブラー」という名前で夏のテスト発売を計画しました。

 しかし、発売は翌年の持ち越されることになります。商品の画期性を理解した大塚正士会長(当時)が、類似品がすぐ出回ることを見越し、さらなる品質の向上を指示したのです。開発チームは、さらにテストを重ねて細部を改良します。

 また、正士会長は商品名にも再考が必要だと考えました。当時は怪獣ブームで、そこからゴキブラーという名が付けられましたが、パッケージにすると恐ろしいイメージになってしまったのです。そこで正士会長が自ら考えたのが、親しみやすいごきぶりホイホイだったのです。

 1973年1月に発売を開始すると、それまでの捕獲器と違って手軽に処理ができるごきぶりホイホイは爆発的に売れ、注文が殺到しました。結果、ゴキブリ用捕獲器市場の約90%を占める大ヒット商品となり、正富氏が「会社を立て直す商品」と考えていたように業績も回復。アース製薬はごきぶりホイホイをきっかけに多種多様な商品を生み出しました。

真の“風通し”から生まれたロングセラー

 そして、ごきぶりホイホイは発売開始から45年が経過した今も人々に愛用されています。ごきぶりホイホイの開発過程を見ると、社長の正富氏が基本アイデアを出し、研究員たちが研究を進め、正士会長がさらなる品質の向上と商品名を考えるという、経営陣と従業員が一体となり出来上がったことが分かります。

 理想の組織としてよく「風通しのいい組織」ということがいわれます。それは職位や所属に関係なく意見を交わすことの重要性を表しているのではないでしょうか。

 上に立つ者の意見が100%正しいとは限りません。現場の意見が100%正しいとも限りません。上に立つと現場の細部がよく見えなくことがあります。一方、俯瞰(ふかん)的な視点から見ることが可能になります。一方、現場では、現状を細部まで見ることがきますが、視野が狭くなる傾向もあります。こうした両者が、互いの長所を存分に発揮したときこそ、素晴らしい製品が生まれることをごきぶりホイホイの事例は示しています。

執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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