ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
ハウステンボス社長 澤田秀雄 氏
ロボットを駆使した「変なホテル」を2015年7月に開業したハウステンボス。滑り出しは順調で、17年3月には千葉県浦安市に2号店をオープンする予定だ。ホテル経営だけでなく、将来はロボットの自社開発・生産まで視野に入れる。
──長崎県佐世保市にあるテーマパーク「ハウステンボス」の場内に、2015年7月にオープンした「変なホテル」は順調に立ち上がっています。国内の生産年齢人口が減る中、サービス業の効率アップは喫緊の課題です。
澤田:世界最高水準の生産性をめざす狙いで、変なホテルを造りました。4年ほど前から構想を練って15年1月から建設を始め、同年7月にオープンしました。
私は今、ハウステンボス敷地内のホテルに住みながら仕事をしています。だからよく分かりますが、ホテルはおもてなしに人手がかかったり、多くの光熱費が必要だったりする。生産性を高める方法として思案した末に行き着いたのが、自動化、ロボット化だったのです。時代の流れが、ロボットに急速に傾いていると感じていましたしね。
変なホテルという名前に込めたのは、常に最新のテクノロジーを取り入れて「変化し、進化する」という決意です。
実際、この1年で随分進化しています。当初、受付ロボットは2体で、このうち、1体は日本語のみで、もう1体は英語と日本語にしか対応できませんでした。今は3体に増やし、日本語、英語、韓国語、中国語に対応しています。宿泊カードの記入も手書きから電子サインに変えました。数カ月後には海外のお客様向けにパスポートを使ったチェックインシステムを導入する予定です。
1号店が軌道に乗ったので、17年3月に千葉県浦安市に2号店を、同年夏には愛知県蒲郡市に3号店をそれぞれ開業する予定です。後方のシステムは共通にしながら、フロントやロビーなどは楽しめるように各拠点で変えるつもりです。
変なホテルがめざすランクを既存のホテルに当てはめるなら、3ツ星、4ツ星ホテルですね。そこそこ泊まり心地が良くて、値段もまずまず。かつ楽しければいい。今はインバウンド(訪日外国人客)が増えており、各地にあるホテルの稼働率は高い。しかし、将来、厳しい時代が来るかもしれません。その際、お客様の満足度が高くて選ばれるホテルになっていたい。仮に客室料金が1泊5000円になったとしても、利益が出るノウハウを蓄積していきます。
──実際に省力化につながっていますか。
澤田:オープン当初は客室72に対して約30人の従業員を置いていました。その後、新棟が完成して客室が2倍の144になったものの、16年9月時点では9人まで減っています。この先6カ月以内に6人にするつもりです。省力化などの努力で、今年8月には単月で1億円弱の営業利益が出ました。
ロボットは今、効率化・合理化がメーンですが、もっとエンターテインメント性を求めていきたい。顔認証でロボットが人間の表情をくみ取って「今日は楽しんでいただけましたか?」といった会話や冗談を柔軟に言えれば面白いですよね。
──既存のロボットは作り手側の発想が強く、サービスの現場で実用に耐え得るものが少なくないでしょうか。
澤田:準備段階で、さまざまなメーカーのロボットを研究対象として集めましたが、人がそばにいないと活用できないものばかりでした。人間の代わりができるのが本当の意味での実用化だと私は考えています。しかし、それには10年、15年かかると分かりました。
そこで発想を変えたのです。ハードやソフトに最初から完璧を求めず、運用を工夫しようと。100%ロボットに任せると難しい。だから例えば、掃除なら90%はロボットが手掛け、残り10%を人間が仕上げる。そうすると、コストが抑えられて効率化するんですね。
ロボットを使う側の視点に立つと、我々から提案できることが数多くあります。今、現場で重要なのは性能よりも耐久性です。高性能でも3時間稼働するとモーターが焼き切れるロボットでは困る。そこで、受付のロボットは、博物館向けなど耐久性のある製品で実績のあるメーカーと共同開発しました。毎日20時間稼働していますが、壊れない。これが重要です。
──多くのロボットメーカーなどから実験や導入を持ちかけられるのではありませんか。
澤田:実は、我々自身でロボットの開発や生産などを手掛ける準備会社を16年に設立しました。年内に人員を整えてロボットメーカーを正式に立ち上げる計画です。国内外のロボットメーカーとも業務提携するつもりです。
当社の強みはハウステンボスを使ってマーケティングできたり、問題点を把握できたりすること。何しろ、敷地はモナコ公国並みの広さ(152万平方メートル)があります。私有地の中に店やアトラクション、発電所、道路などがあり、街のようなもの。ですから、お客様の安全を確保しつつ、実用実験をして結果をフィードバックできます。ドローン(小型無人飛行機)などはその一例です。
当面は、世界で優秀なロボットメーカーなどと組んで、改良した製品を当社グループのブランドで売るほか、一緒に開発して売るつもりです。全部自前で手掛けると、2、3年はかかるので、スピードを優先します。まずは、サービス向けや家庭用ロボットからです。
当初、ロボットメーカーを創業するような構想はありませんでした。しかし、変なホテルを経営する中で、蓄積していく開発や改良、運用に関するノウハウを生かせば大きなビジネスになると考えるようになりました。サービスロボットをフル活用しているので、知見やノウハウの蓄積も多い。その利点を生かしてメーカーに逆進出していきたいですね。
──これまで新しいことにチャレンジし続けてきました。その原動力は何なのでしょうか。
澤田:時代もテクノロジーも変化している以上、挑戦し続けないと負けてしまいます。会社が大きくなると小回りが利かなくなる恐れがあります。その意味では、(私が会長を務める)エイチ・アイ・エス(HIS)は仕組みを大きく変える時期に来ているかもしれません。
スマートフォンの普及などによって、お客様は航空券やホテルを直接、手元で予約するようになっています。昔ながらの総合旅行会社のままでは、今後厳しくなるでしょう。
幸いHISは世界約230カ所に拠点があります。現地の情報網に加え、交通手段や宿泊施設など各種手配ができるシステムを持っています。成長が著しいアジアを中心に、こうした資源を生かし、いかにスマホを中心にしてプラットフォームを築くことができるか。旅行に必要な各種手続きを利用者が直接しているように見えて、実は裏で全体をHISが支えている。そんな仕組みが必要だと思います。HISの経営は今、部下に任せていますが、この先、改革に少し協力するかもしれません。
日経トップリーダー 構成/久保俊介
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年10月21日)のものです。澤田社長は2016年11月にエイチ・アイ・エスの会長兼社長に復帰しています。
執筆=澤田 秀雄(さわだ・ひでお)
1951年大阪府生まれ、高校卒業後、旧西ドイツのマインツ大学に留学。帰国後の80年にインターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)を設立し、社長に就任。04年会長に就任。10年には赤字続きのハウステンボス社長に就任し、短期間で黒字化した。エイチ・アイ・エスの連結売上高は約5374億円(15年10月期)。グループの従業員数は約1万3000人(15年10月末時点)
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