ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
英ダイソン チーフエンジニア(創業者) ジェームズ・ダイソン氏
吸引力の落ちない「サイクロン式」掃除機などを生み出してきた発明家。英国の地方都市で始めた小さな家電メーカーを一代で世界企業に育て上げた。あくまで独自性を求めて開発してきたことが成長につながった。
──英国に本社を置くダイソンは、今年で設立21年目を迎えました。今では、1700人以上の技術者を擁し、約70カ国で掃除機などを販売する世界会社になっています。なぜ、ここまで急速に成長できたのでしょうか。
ダイソン:それは、他社に比べて我々の製品が優れているからだと信じています。そのために売り上げの15%程度を研究開発費に充てています。これは相当な額に上り、その分は製品価格に反映せざるを得ません。当然、値段が高くなるという問題はあるのですが、それでも私はこの方針を貫きたい。
今、我々が戦っているのは、競争の激しいグローバル市場です。米国やドイツ、フランス、スウェーデン、韓国、中国、そして日本などの大手企業、さらには新興国の企業などと競い合っています。ダイソンはこの方針を貫くことによって、常に彼らの先を走ることができるのです。
──他社の先を進み続ける秘訣は何でしょう。
ダイソン:我々はほかのものをコピーすることが嫌いです。私にとっては絶対に避けるべき行動です。ダイソンは常に他社と違うことを追い求め、独自技術の開発に挑んでいます。
新しい技術を生み出すには、複数の物事を組み合わせることが必要です。そして、とても長い期間にわたってのことでもあるのです。ですから、我々は、20年ほど後に量産するような製品のアイデアについて検討するプロジェクトを大学と一緒になって進めています。
──20年先ですか。
ダイソン:はい。それだけではありません。3年後、5年後、7年後、10年後、15年後というプロジェクトもあるんです。我々はとても長いスパンで製品のあるべき姿を考えています。株式を上場していないのでこうした長期的な投資ができるのですが、私に言わせればどんな会社でも同じことをすべきです。
──あなたは創業者でありながら、経営を別の人に任せ開発に専念しています。とても珍しいと思いますが、これが成長の秘訣なのでしょうか。
ダイソン:会社の経営は大変ですよね。うまく経営しようとして、それだけに追い回されてしまう人もいます。ですが、私にとって経営の重要性は低いのです。それよりも、良い製品を作ることのほうがもっと重要で、興味があるのです。
──技術者として経営陣に不満を感じることはないのですか? もっと開発に人やお金を回してほしいとか。
ダイソン:いいえ。ダイソンは今、猛スピードで拡大しています。このため優秀な人材を多数必要としていますが、採用でも苦労はしていません。
今では、67カ国で事業を展開する国際的な会社になりました。研究所を英国に置くほか、シンガポールやマレーシアにも拠点を持ち、米国でのビジネスも大きく育ちました。また、日本でも人気を集めています。こうした事業の拡大に伴って、我々は従業員により大きな責任を求めるようになっています。
──急成長による混乱などありませんか。またそうした問題を防ぐための対策は?
ダイソン:我々の目指す方向ははっきりしています。我々にとっては良い製品を作ることが重要なのです。ですから、私はいつもこの原点に立ち返るのです。
例えば、多くの会社は修理などのサービスで利益を稼ごうとしています。一方、ダイソンでは逆です。当然コストがかかるものと捉えています。ただし、我々はそのコストを気にしません。利益は製品を販売したときに得るもので、ユーザーへの対応から得ようとは考えていないのです。
このように、従業員の誰もが理解できるような原理原則をつくり周知すれば、全員が同じ方向に向かって動くことができるのです。
──ダイソンの原理原則はあなた自身の思いでもある?
ダイソン:もうお分かりでしょう。私は製品づくりのために生まれてきた男です。つまりエンジニアであり、デザイナーでもある。この会社を始めた理由も、面白い製品を開発したかったからです。
でも、私はビジネスには関心がありません。新製品や新しい技術を生み出すことに興味があり、そんな自分と一緒に働きたいという人材を会社に迎え入れ育てていきたいという熱意を持っています。
──先日、3000人のエンジニアを採用する計画も発表しましたね。どんな人材がダイソンにとってふさわしいのでしょうか。
ダイソン:未経験者を大切にしています。我々は、他社と異なることに挑戦するわけですから、過去にどのようにして働いたかは、ほとんど価値がありません。
物事を変えたいと思っている人、変化を恐れない人、物事に違った方法で取り組んだり、もっといい方法を探したりする人を求めています。誰かのまねをする人には関心がありません。我々はパイオニアでありたいのです。
──では、どのように社員を評価しているのですか。
ダイソン:やるかやらないかを自分で決定できるかです。簡単でしょう? どんな製品を作るかが特に重要ではありません。それよりも、人々の生活をどうより良くするか、ちょっとした困り事をどのように解決するかを考えてほしい。
このほどダイソンはハンドドライヤーを発売しました。これは掃除機とは関係ないように見えるでしょう。しかし、モーターとファンを使うという点では同じですから、我々の持っている技術を生かせば、新しい価値を提供できると考えました。新しい技術で世界を変えていく、そのような人材を評価しています。
──今でこそ成長が続いていますが、ダイソンにとって最大の危機は何だったのですか。
ダイソン:起業はとても大変な挑戦でした。新しい製品を作りたい人や技術者に資金を貸してくれる人は少なかった。私がエンジニアであるという理由だけで、ベンチャーキャピタリストは出資を渋りました。結局、私は市中の銀行から100万ポンドを借りたのです。
これは私にとって大金でした。しかも当時は深刻な不景気の真っただ中。後になって、貸し出しを決めてくれた担当者にその理由を聞きました。すると「自分の奥さんが掃除機の紙パックが大嫌いだと言っていたこと。そして、ダイソンが米国でとても長い間裁判を続けており、その過程で私自身が決断力のある人物であると分かったから」と話してくれました。
──最後に日本の中小企業の社長や起業家にアドバイスを。
ダイソン:絶対に諦めないこと。最近は資金の確保は簡単になりました。また、面白い製品を生み出すチャンスもあります。特に日本は新しい技術やアイデアが好きな人が多く、新しいビジネスを始めるのには素晴らしい国です。
インターネットやソフトウエア関係に注目が集まっていますが、メカの分野にもチャンスがあると思います。ネットやソフトウエアに比べるとかなり“空いている”はずですから(笑)。
日経トップリーダー/伊藤暢人
執筆=ジェームズ・ダイソン(James Dyson)
1947年英国生まれ。ロンドンの王立美術大学を卒業後、エンジニアリング会社に入社した。悪路でも使いやすい荷車や水陸両用の乗り物などさまざまなものを開発している。掃除機については5年の間に5127台の試作品を作り、86年にサイクロン式を開発。93年に英マルムズベリーにダイソンを設立した。
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