ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道氏
スープ専門店「Soup Stock Tokyo」をはじめ、さまざまな事業を立ち上げた。最近は魅力的な個人への出資・インキュベートにも積極的な遠山社長は、企業にとってのデザインやクリエーションをどう捉えているのか。
――遠山社長は子どもの頃からアートに親しんできたとお聞きします。そんな遠山社長にとって、企業経営におけるデザインやクリエーションとは、どのようなものでしょうか。
(写真:丸毛 透)
遠山:自分がやりたいことを実現するために、あるいは自己表現をするために欠かせないものですね。スマイルズでは、ビジネスでもイベントでも、何かを始めるときには、最初に「シーン」を描くことを大切にしています。私がSoup Stock Tokyoを始めるときも、女性がスープをすすってホッとしているシーンがまず頭に浮かんで、それが事業化のきっかけになりました。
社内では企画単位でも事業単位でも、シーンを描くことを皆でとことん突き詰めます。そのプロセスこそクリエーションの始まりであり、デザインでもあると思います。つまり、そもそもどんな価値を我々は提供したいのか、という根源的なところと結びついているものなんです。何かをつくって、その最後のところで姿形を整えるためのものではありません。
最近、ビジネスとアートの関係といったテーマで取材を受けることも多いんですが、私は「ビジネスはアートに似ている」と思っているんです。なぜかというと、アートって、まだ形も何も見えない暗闇の中から自分なりの感性で「こんな感じ」というものを形にし、それを作品として世の中に提示するわけです。それをアートが生まれる風景だとすれば、ビジネスも同じですよね。
新しいビジネスを考えるとき、まだ形も何もない。暗闇の中から「こんなことをやりたい、つくりたい」と。それをどうすれば実現できるだろうか、1人ではつくれないからどうしようか、と一生懸命考えて、なんとか形にして、世の中に提示して、お客さんから「いいね」と言ってもらって少しずつ大きくなる。これってまったく同じ風景ですよね。
ビジネスとアートはある意味、とても近いものなのに、現実はとても遠い存在になってしまっています。私はサラリーマンのときに絵の個展をやり、それがきっかけでビジネスを始めたという経緯もあって、ビジネスをするときも、アートをつくるときと同じ気持ちです。ときめき感とか悶絶(もんぜつ)感とか。
「また絵の個展をしないの?」と言われますが、絵を描いているよりビジネスの方が、広がりがあって楽しいですね。お客さんにも喜んでもらえるし(笑)
――何らかの構想なり表現したいことが自分の中にあって、でも、まだ形にはなっていない。それをさまざまな手段で形にしていく。言語化していく。その行為がつまりアートだとすれば、新しいビジネスを生み出すことはまさにアートであり、クリエーションだといえますね。
スマイルズの企業理念は「生活価値の拡充」。「Soup Stock Tokyo」でも、単に商品を売るのではなく、「ほっ」とできる時間の提供を大切にしている
遠山:ビジネスは、それを生み出した後、継続していくことがまた大変ですけどね(笑)
もう1つ、レストランに例えてみましょう。レストランにはたいていメニューブックがあります。料理の「種類」から「価格」「分量」「素材」「栄養素」など、写真や名前で表します。そういう情報を単純な表として記載したものでも、メニューブックとしては成り立ちます。
しかし、一方で「おいしさ」が大切ですよね。おいしさは目には見えなくてメニューには表れない。でも、それこそが大事な価値であって、私ならおいしい料理を食べたいし、提供したい。「おいしいね」と言ってもらえればうれしい。それが、もともと私たちがやりたいこと。そこを大事にしたいと思っています。だからメニューブックにも気を遣うし、どうしたら喜んでもらえるか、一生懸命考えます。そこはもうデザインとかクリエーションが一体となっていて、どこからがデザインの領域で……といった分け方はできません。
今はモノがあふれている時代です。新しいことを始めようとすると、失敗する確率は7割くらいあると思います。でも、こちらがきちんと価値を提案できれば、失敗の確率は6割、5割……と減っていくはずです。
さらに、分母が小さいビジネスであればリスクも小さいので、思い切ってとがった企画になりやすいんです。取り組む人は自分事として考えられるし、その人の情熱が生きる。いざというときに踏ん張れる。私は「個人の引力」と言っていますが、アイデアやセンスや情熱──その人の生きざまが詰まっているような小さなビジネスが魅力的だと思うし、根っこの部分の思いそのものがクリエーションなんじゃないでしょうか?
日経デザイン /編集長 花澤 裕二
※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年7月)のものです
執筆=遠山 正道(とおやま・まさみち)
1962年東京生まれ。三菱商事初の社内ベンチャーとしてスマイルズを設立。2008年2月MBOにて100%株式を取得。Soup Stock Tokyo、ネクタイブランドgiraffe、セレクトリサイクルショップPASS THE BATON 100本のスプーン、PAVILION、檸檬ホテル、刷毛じょうゆ海苔弁山登りの企画・運営を行う。NY、青山などで絵の個展も開催。
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