トップインタビュー(第30回) 経営はデザインそのものだ

経営全般

公開日:2017.09.28

良品計画 代表取締役会長 金井政明氏

 アジアをはじめとする海外でもファンが拡大中の「無印良品」は、優れたデザイナーの知見を経営に反映させてきた。長らく経営トップとして同社を率いてきた金井政明・会長にとって、デザインとは何かを聞いた。

──金井さんにとってデザインとは?

金井:デザインという概念が今、急速に広がってきていますね。極端に言うと私は昔から「経営はデザインだ」と考えてきました。物事を構想していくという意味ではまったく同じです。そもそもなぜ分けて考えてしまうのか、と思うくらいです。

 ましてや日本は少子高齢化、人口減少など極めて難しい課題に直面しています。そんな時代の経営において、デザイン的な思考力──最近はデザイン思考といわれますが、そういった思考力を持たずにどうやったら会社を維持・成長できるんだろうと思ってしまいますね。

 従来のビジネスの延長で効率化したり、シェアを伸ばしたり、マーケティングによってブランドを強化したり──そういった過去の一時期成功したようなことは、もうないんだと思います。特に日本の市場においては。人口減少社会、あるいはデジタル化という新しい波によって、どの企業もそういう状況になるわけです。

──今までの延長線では限界が見えているということは、多くの人が感じていると思います。何か突破口はないのでしょうか。デザイン思考に注目が集まっているのは、そういう理由もあると思います。

金井:そうですね。「デザインの力でブランドを強化しよう」とか「売り上げを伸ばそう」とか、多くの会社がそこに期待を寄せているのかもしれません。しかし、もしかしたら、その考え方自体が間違っているんじゃないかと感じることもあるんです。

 「無印良品」は田中(一光)さんや小池(一子)さん、杉本(貴志)さん、今は原(研哉)さん、深澤(直人)さん、須藤(玲子)さんなど、錚々(そうそう)たるデザイナーたちと議論しながら作ってきているわけですが、決して「売れるものを作ろう」とはしていません。「ブランドを輝かせよう」といった議論もありません。むしろ、そういった議論からは距離を置いてきました。

 もっと謙虚に、「感じ良いくらし」とはどういうものか、そこに必要な商品はどうあるべきか、というアプローチです。売る側の発想ではなくて、普通の生活者の目線で、日常生活のどこに問題があるかということを常に考えているんですね。生活の中でここがどうも感じ悪いよね。じゃあ、どういうものがあったらいいんだろう、と発想する。こういうものをみんなが使ったら、社会全体が良くなるんじゃないか?そう考えることがデザインなんだと思っています。

 2016年度グッドデザイン賞に選ばれた「ホシノタニ団地」のデザインは本当に素晴らしいですよね。コミュニティーが失われた都会の中で、子どもと親世代、さらにおばあちゃん世代が交流し、どうつながりながら生きていくかをデザインしたわけです。それによって古い団地がよみがえり、ビジネスとしても成功しています。

 昔はこれをデザインと言わなかったかもしれません。でも今はデザインの概念がとても広がっています。町を活性化させたり、業績不振の企業を立て直したり、これも本来、デザインなんですよね。

──課題を発見して解決策を考えることがデザインだとすると、デザイナーの役割も、単に商品を美しく作るというものではなくなりますね。

金井:堤(清二)さんがつくった「アドバイザリーボード」のメンバーは、すごいですよ。形がこうだ、色がこうだ、ということではなくて、デザインはもっと本質的なものだということを、すでに40年も前に言っていたんですから。それを継承した原さんたちも、軸はまったくぶれていませんよね。

 ここに田中さんの言葉があるんです。

「傷ついた地球の再生を考えるデザイン、非西欧文明の再認識、コンチネンタル・スタイルからの脱出、快適追求の後退、きれい事でない国際交流、地球人認識から発生するさまざまな思想の衝突、新品のツルツル、ピカピカではない美意識の復興。それらが二十一世紀デザインの最大の課題ではないかと思う」

「地球資源の枯渇、環境汚染、交通・都市の問題、産業や生活の廃棄物、さらに福祉や高齢化社会問題など、いままで豊かな生活だけを追い求めたデザインに、いくつもの課題が山積してきた。デザインがこうした時代におせっかいな概念にならないよう、注意しなければならない。人間にとってもデザインにとっても、受難な時期がきたようである」(田中一光 著『デザインの前後左右』(白水社/1995年)より)

 田中さんはデザイナーですが、この言葉を経営者が語れば、「我が社はこういう問題意識を持って事業を展開するぞ」という経営方針にもなる。そんな内容です。

──普通の企業でも、アドバイザリーボードのような機能があると、変わると思いますか?

金井:それほど簡単ではありませんが、変われる可能性はあると思います。経営側が売らんかなという姿勢ではなく、謙虚に、こういう会社になりたい、こういう事業をやりたいという気持ちを本当に持っていれば可能ではないでしょうか。

 優れたデザイナーには、そういう提案力があると思います。アドバイザリーボードとは「雑談をする」と言っていますが、実態は経営の方向性とか、企業の在り方、貢献の仕方などを話しているんですよ。

 例えば、アドバイザリーボードミーティングで社員たちが「無農薬野菜を使ったメニューを出したい」と言うとしますよね。まあ、たいていの会社の社員は同じようなことを考えるわけですよ。ところが、アドバイザリーボードは社員たちの思考を大きく振ってくれるんです。「いっそ、まずい料理を作ってみろよ」とかね。びっくりするでしょう?

 でもそういう発想の振り幅というか置き換えが実は大事で、真面目に考えただけではなかなか新しいコンセプトってできないんですよ。

 デザイナーは他人のまねをしたらおしまいじゃないですか。だから四六時中、考えているんだと思います。普通の経営者よりも物事をずっと考えているんじゃないかな。経営者は他社で優れた仕組みがあればまねても構わないけど、デザイナーはコピーできませんから、自分の頭で考えるためにアンテナをものすごく張っている。だから普通の人では気付かないようなことがデザイナーのアンテナには引っ掛かる、ということは実際あると思いますよ。

 ただ、経営とデザインの間には妙な「溝」というか「川」があって、正直言って、まだまだ多くの経営者がその隔たりを越えないし、越えることを自分の役割だと考えていないふしがありますね。良品計画も外から見るとデザイン・コンシャスな会社だといわれることがありますが、その川を越えられる人は少なかったですよ。

──経営の側からその溝は越えるべきなのか、それともデザイナー側から超えていくべきなのか、どちらでしょうか?

金井:両方かもしれませんが、まずは経営側が意識を変える必要があるんじゃないでしょうか。なぜなら、冒頭にも言ったように、今までの経営では企業はもう持ちませんから。新しい発想を得るためには、経営とデザインの距離を縮めていくことが必要だと思います。

日経デザイン /編集長 花澤 裕二

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年4月)のものです。

執筆=金井 政明(かない・まさあき)

1957年生まれ。1976 年西友ストアー長野(現・西友)に入社。1993年良品計画に入社し、生活雑貨部長としてファミリー層向けの商品開発を主導。取締役営業本部生活雑貨部長、常務取締役営業本部長、代表取締役専務などを歴任後、2008 年に代表取締役社長。2015年より現職。

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