トップインタビュー(第19回) 生産性と顧客満足の二兎を追う

経営全般 顧客満足度向上

公開日:2016.10.05

スーパーホテル会長 山本梁介氏

 ITの積極的な活用で生産性を向上、破格の宿泊料金を実現し人気を博してきたスーパーホテル。自分で考え、行動し、お客の感動を創造する「自律型感動人間」の育成をめざし、経営理念の浸透に力を入れる。ホテル業界はインバウンド増加に沸くが、本分であるビジネス客向け市場で、さらなるリピート率の向上をめざす。

──スーパーホテルは自動チェックイン機、暗証番号キーの導入などIT(情報技術)の積極的な活用で生産性を引き上げてきました。朝食付きで1泊4000円台からという破格の宿泊料金が人気で、客室稼働率は90%。70%が採算ラインといわれるホテル業界では圧倒的な数字ですね。

山本:稼働率もさることながら、我々が一番誇りに思っているのはリピート率70%という数字です。

 これからもリピーターを大切に考え、この数字を0.1%でも上げていきたいと考えています。ご指摘の通り、IT活用による生産性向上は我が社の大きな強みです。仮に1人のお客様のチェックインに10円の人件費がかかるとしたら、自動チェックイン機を導入すると全国1万3000室分で1日13万円、1年間で約4700万円のコストを削減できます。そこに手間をかけずに済む分、従業員はお客様へのサービスを充実させられます。

 ただ、過去には生産性向上ばかりに目が行き、お客様に十分に満足していただくことができなかった時期もあります。ホテルが30店舗を超えた2003年頃のことで、稼働率が80%程度に落ち、クレームも増えてしまいました。スーパーホテルの経営理念や価値観が従業員に浸透していなかったためと反省し、以来、理念の浸透に力を入れています。

出張客は“街の応援団”

──今おっしゃったスーパーホテルの理念、価値観とは何ですか。

山本:ベースにあるのは社会的責任を果たすことです。顧客第一主義を貫き、「安全、清潔、ぐっすり眠れる」スペースを提供する。それによって活力ある社会活動・経済活動に貢献していきたいと考えています。

 スーパーホテルの主要ターゲットはビジネスでの出張者。仕事で宿泊するお客様はその土地に足りないビジネスやテクノロジー、ノウハウを供給してくれる、いわば“街の応援団”です。我々のサービスでリフレッシュしてもらうことは地域の活性化にもつながります。

 従業員には生産性やコストに対する意識を持つとともに、自分たちの仕事がお客様の満足や地域貢献に役立つというワクワクした気持ちを持ってもらいたい。マニュアルに頼るのではなく、自ら考え、行動し、お客様の感動を創造する「自律型感動人間」の育成を目指しています。

──そういう理念や価値観を従業員に浸透させるためにどんな方法を取っていますか。

山本:1人ひとりがどう行動すべきかを示した「経営指針書」と、理念を名刺サイズにまとめた「Faith(フェイス)」というカードを作り全員に持たせています。毎日行う朝礼では、アルバイトや業務委託会社の方にも参加してもらい、これらを唱和します。従業員はどんな思いで業務に取り組んでいるか、どう実践しているかを順番に発表。支配人や副支配人がコメントやアドバイスを返します。

 これを毎日繰り返すうち、理念が1人ひとりの従業員に腹落ちし、次のより良い言動へと結び付くようになります。お客様の感動は従業員の喜び、やりがいにつながります。お客様と従業員の間で感謝と感動の輪を回すことこそ、ホテル業の基本であり、醍醐味だと思います。

──経営理念の浸透という地味で長期にわたる活動はマンネリ化しがち。継続させるコツはありますか。

山本:最初のうちは「大事なお客様のところへ行かないといけない」などと朝礼を抜け出そうとする従業員もいましたよ。「我が社で一番重要な会合だから」「出入り禁止になってもいいからこっちに来い」と強制的に出席させてきました。目先の効率にとらわれると、「朝礼に出ている10分、15分の時間を使って掃除した方が生産性は上がる」という考えに傾きがちです。それよりも大事なことがあると訴え続けないと。定着までには3~4年かかりました。

 スーパーホテルは報酬を得ながら経営ノウハウを学ぶ「ベンチャー支配人制度」を導入していることもあり、本部に多くの人数を割き、各店舗を支援する体制を整えています。IT戦略室、建設企画部、経営品質部、業務サポートセンターなどさまざまな部署が運営をバックアップしていますが、経営理念に関してはコンサルタントセンターの社員が頻繁に現場に出向き、指導をしています。

 半期に1回、数字もチェックします。支配人、副支配人など各層別の従業員満足度調査を実施し、理念の浸透度や自律型感動人間としての成長度などを確認します。理念が浸透し、自律型感動人間になると個人も組織も成長するということを理解できないと、日々の活動にもすごみが出ませんから。

「タッチの差」を大切に

──こうした取り組みはサービス改善につながっていますか。

山本:スーパーホテルでは靴を脱ぐ場所を区分けしたり、個人の技量差が出ないように2人1組で掃除したりとさまざまな工夫をしています。これらは現場の従業員からの提案で実現しました。自律型感動人間の感性を生かしたんです。

 競争の激しいビジネスホテル市場で、違いを生むのはごくわずかな差です。ゴミが1つ落ちているだけで「ここに泊まるのは止めよう」となってしまう。「平凡の凡を重ねて非凡を成す」「僅差が大差につながる」という意識を持つことが大事。「タッチの差」を大切に考えながら仕組みをつくり上げるなかでイノベーションが生まれます。

インバウンドよりビジネス客優先

──ホテル業界は今、インバウンド需要に沸いています。この先の市場動向をどう見ていますか。

山本:新興国では個人の年収が400万円を超えると、ビジネスや観光で海外を訪れる機会が出てきます。中国に続いてASEAN(東南アジア諸国連合)諸国もそういう段階に入ってきました。彼らにとって近くで最も魅力的な国が日本。東京五輪はもちろん、五輪後もインバウンド需要は伸びると思います。当社でも東京は既に30~40%が海外からのお客様です。

 とはいえ、我々は本分であるビジネスでのリピート客を大事にする方針を貫いていきます。インバウンドでも個人客には対応しますが、20人以上の団体はお断りするなど線引きします。インバウンドが集中し、常連のビジネス客が泊まれないというのでは申し訳ないですからね。

──今後の展望を教えてください。

山本:まずは海外店舗を広げたい。IT活用による生産性向上と日本流のおもてなしを両立したビジネスモデルは、スーパーホテル独自のものと自負しています。海外でも十分に通用するはずなので、積極的に輸出していきたい。

 国内では地方創生に貢献する取り組みを進めます。2015年12月には、人口2万5000人ほどの島根県江津市にホテルを開業しました。ここを拠点に体験観光や地域の特産品販売を広げていこうと狙う江津市の協力もあり、稼働率88%を実現しています。コンビニもわずかしかないような地域に全国からお客様が訪れるようになり、地元の皆さんはとても喜んでくださっています。大都市圏に比べて収益性は劣るかもしれませんが、地方を元気にすることができ、従業員のワクワクにもつながる。経営理念に沿った事業として力を入れていきたいですね。

日経トップリーダー 構成/小林佳代

※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年6月)のものです

執筆=山本 梁介(やまもと・りょうすけ)

1942年生まれ。大阪府出身。64年慶應義塾大学経済学部卒業、繊維商社の蝶理に入社。25歳で家業の繊維会社を継ぐが、その後、不動産業に転身。96年博多にスーパーホテル1号店を開業。以後、チェーン展開に乗り出す。国内113店舗、海外3店舗を構え、売上高271億円(2016年3月期)を稼ぐ一大ホテルチェーンに育て上げた。

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