トップインタビュー(第27回) モス型組織の秘密は「心+科学」のバランス

経営全般

公開日:2017.06.07

 モスフードサービスの櫻田厚氏は18年務めた社長の座を2016年、中村栄輔氏に譲って会長に専念した。互いに連携しながら、櫻田氏は主に海外事業、中村氏は国内事業を担当する。事業承継を機に、会社をどう強くようとしているのか。トップの2人に聞いた。

──2015年5月、商品単価を平均10%値上げしました。この2年間をどう振り返るか。

なかむら・えいすけ
1958年福岡県生まれ。82年中央大学法学部卒業後、88年モスフードサービスに入社した。法務部長、社長室長などを経て、2005年に執行役員営業企画本部長。取締役執行役員開発部長や常務事業統括執行役員などを歴任。16年に櫻田厚氏の後を受けて社長に就任した
(写真/柚木裕司)

中村:値上げに伴う客数減は当初5%を見込んでいたが、2.8%減に抑えることができた。大幅な顧客離れを防げた理由は、値上げを機に、店舗力とそれを支える組織力の強化に努めたからだ。

 本部と加盟店が危機感を共有し、ハンバーガーの作り方をおさらいする「製造勉強会」などを実施したのは、その象徴だ。双方が危機感を共有できた背景には、本部と共栄会の関係の見直しがある。

 1980年に加盟店の互助組織として正式にスタートした共栄会は、月日がたつにつれて役割が形骸化していた部分があった。本部社員と共栄会幹部が泊まり込みで議論し、「いい店をつくる」という創業者が掲げた原点に立ち返ることができたことが大きい。

 こうした一連の改革により、値上げ後も、特にリピーターのお客さまが離れなかった。

──今後の戦略をどう考えるか。

中村:実は、これまでのモスバーガーはどちらかというと、新規客を取り込むことに目が向きがちで、高い頻度で新商品を出していた。しかし、冷静にデータなどを分析すると新規客はむしろ定番を好んでおり、リピーターが「たまには別の商品を頼んでみよう」と新商品に興味を持つケースが多いことが分かった。

 だから今後は、リピーターの客単価と来店頻度の向上がカギを握ると考えている。「モスバーガー」「テリヤキバーガー」などの定番商品を軸にしつつも、同程度かやや高い単価で、定番を少しアレンジした新商品を投入していく。

 そうして1人のお客さまが昼だけでなく、朝や夜など異なる時間帯の利用を促すことで来店頻度を高めたい。夜の需要を取り込もうと、アルコールやつまみメニューをそろえた「モスバル」を一部店舗で始めている。よりメニューを充実させ、例えば、女性が夜1人で気軽に立ち寄れるようにしたい。

 朝については現在500円弱でハンバーガーと飲み物をセットにした「朝モス」を展開している。客単価は朝が500円以下、昼は1000円以下、夜は1500円前後を想定している。

4年前から継承を準備

──モスでは創業者の櫻田慧氏がつくり上げた理念の浸透は進んでいる一方、理念に寄りかかり過ぎて戦略の具体性に欠けるとの指摘がある。

中村:もともと創業者は「心と科学」の両方が重要と話していたが、いつしか、理念経営さえしっかりしていれば問題ないという風潮ができていた。店舗運営で課題が見つかっても、原因をデータなどで分析し切れないと「理念共有が足りない」と、理念を逃げ口上に使うようになっていた面がある。

さくらだ・あつし
1951年東京都生まれ。70年に広告代理店に入社。72年に叔父で創業者の櫻田慧氏の誘いでモスフードサービスの創業に参画した後、77年に入社。94年取締役海外事業部長、97年取締役東日本営業部長などを経て、98年社長に就任。2014年会長兼社長。16年に社長を中村氏に譲り、会長に就任した
(写真/菊池一郎)

 心の部分は、ベースとして絶対に忘れてはならないが、数字などに基づく合理性や物事の定義付けが必要だと社員やオーナーには話している。例えば「いい店」とは「創業者が掲げた基本方針を徹底している店」といった具合だ。

櫻田:中村は、私とは違うタイプ。もともと弁護士をめざして法律を勉強していたこともあって、物事を合理的に判断する。

 2016年6月の株主総会で中村を社長にしたが、実は4年くらい前から、役員1人ひとりの評判を社員や加盟店オーナーなど、多くの人にそれとなく聞き続けてきた。

 創業者は事業承継の準備をせずに急逝し、組織が動揺した時期があった。その反省に立って早めに準備を進めてきた。取締役約10人についてヒアリングをした結果、中村を選んだ。

 中村には、合理性に長けた自分の特色を生かしてもらいたい。今後は理詰めという直球だけでなく、部下の人柄によって話し方や説得の仕方を変えるという変化球でコミュニケーションを取る力も大切になるだろう。そのために私はサポートしていく。

中村:櫻田は海外事業、私は国内事業を担っているが、連携は密にしている。互いに意見も言う。海外事業の会議で私が発言を求められることもよくある。二人三脚で経営していく。

国内出店余地はある?

──既に全都道府県に店舗展開している。主力のモスバーガーの出店場所は約600カ所あるとしているが、本当に余地はあるのか。

中村:あくまで機械的にはじき出した数値だ。急展開して各店のサービスレベルが落ちるのが一番よくないので、数は追わない。優先順位をつけて出店する。

 具体的には、かつて集客上の問題はなかったものの、加盟店オーナーの後継者がいなくて閉店せざるを得なかったり、顧客から出店の要望があったりした場所を優先する。この方法で昨年出した24の新店はいずれも実績が計画を上回っており、マーケティングの精度は高まっている。

 既存店の老朽化も課題だ。当社の創業時から加盟店を経営してきたオーナーは高齢化しており、借り入れまでして新規投資をお願いするのは、気力・体力面でもなかなか難しい。「次世代オーナー育成研修」で30~40代の若手を育成しているのは、その対策という部分がある。人材育成という経営の土台をしっかり固めることが、チェーンが強くなる最大の要因だ。

──櫻田会長は、創業者である慧氏のおいとして直接薫陶を受けた経験を持つ。創業者精神を伝え続ける役割を担っていくのか。

櫻田:創業者が残したのは「人間貢献・社会貢献」という経営哲学。簡単に言えば、世のため人のために、今自分にできることをささやかでもいいからやり抜き、お客さまから感謝されるようないい店をつくるということ。それを追求する風土を守り抜く必要がある。

 創業者も最初から信念を持っていたわけではない。挫折を繰り返す中、周囲の人の助けがあって自分の考えを確立していった。

 例えば、こんな話を創業者がしていたことがある。東京都練馬区の成増駅近くで1号店をオープン後しばらくした頃のこと。創業者が日興証券浅草橋支店勤務のとき、ひいきにしていた和食店があり、そこの女将さんが成増店の様子を見に来たことがあった。

 すると、創業者はげっそりとやせて疲れた表情で無精ひげをはやしていた。それを見た女将さんはこう諭したと聞いている。

 「あなたね。商売する顔じゃないわよ。これだったらお客さんは絶対に入らない。笑顔を出すことが商売の最初の一歩なのよ」

 女将さんは創業者の心の中に「とにかく成功したい、もうけたい」という欲望が前面に出ていることを見抜いて戒めた。それを創業者は肝に銘じた。だから、私も創業者によく聞かされた。

 「欲望と志は違う。欲望は自分のために行動するが、志は他人のために行動することを指す。欲望を完全に消し去ることはできなくても、少しでも志を持って働かないと駄目だ」と。

──逆境に直面したとき、何が創業者の心の支えになったのか。

櫻田:日興証券を飛び出した以上、絶対に成功してみせるという意地だろうが、それだけではない。

 一緒に付いてきてくれた仲間や、創業資金を支援してくれた肉親や友人ら周囲の人の恩に報いたいという気持ちがあった。周囲の人へ感謝の気持ちを忘れない姿勢は、これからも、社員や加盟店オーナーに伝え続けていく。

伝道師の役割を貫く

櫻田:私はここ数年、多くの階層の人たちに創業者の理念やモスの考え方を直接会って伝える機会を増やしてきた。2011~15年まで、月1回ペースでお客さまを対象にした「タウンミーティング」、11年から月2回程度、社員を対象にした「ランチミーティング」をそれぞれ開いているほか、15年からは2カ月に1回、キャストさんを対象にした「キャストミーティング」を実施している。

 モスを支えてくれているのはお客さまであり、社員であり、最前線で働くキャストさん。そうした人たちに会って、日ごろのお礼を述べるとともに、相手の表情を見ながら「ダイレクトコミュニケーション」をするほうが圧倒的に心がつながり、様子が分かる。これを絶やさないようにしたい。

日経トップリーダー 構成/久保俊介

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年4月)のものです

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