ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
夏にはさまざまな楽しみがありますが、中でも多くの人にとって大きなイベントとなるのが長めの休暇を利用しての旅行です。長期旅行と言えば、学生時代に「青春18きっぷ」を利用し、普通列車を乗り継いで全国を旅した経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。青春18きっぷの発売が開始されたのは1982年。今年で40周年を迎えた、特別企画乗車券のロングセラーです。
青春18きっぷは、別の特別企画乗車券のヒットをきっかけに誕生しました。前年に発売された「フルムーン夫婦グリーンパス(通称フルムーンパス)」です。フルムーンパスは、2人の年齢を合わせて88歳以上の夫婦を対象に、新幹線を含む特急、急行、快速、普通列車のグリーン車が7日間乗り放題という特別企画乗車券です(現在は5日間用、7日間用、12日間用の3種類あり)。グリーン車に乗って全国を自由に旅することができるフルムーンパスは、俳優の上原謙と高峰三枝子が熟年夫婦を演じたテレビCMの効果もあり、大きな人気を呼びました。そこで、他にも大きな特別企画乗車券をと考えられて作られたのが青春18きっぷでした。
この背景には、JRとして民営化される前の日本国有鉄道(以下、国鉄)の経営状態がありました。国鉄は運輸通信省鉄道総局が行っていた国有鉄道事業を引き継ぎ1949年に発足し、全国で鉄道輸送を行っていましたが、モータリゼーションと航空輸送の発展などから経営状態が悪化していました。そこで、赤字路線の廃止を骨子とした日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が1980年に成立。それとともに、売上増加策が求められました。そこで生まれたのが、大型の特別企画乗車券だったのです。
12歳以上22歳未満を対象とする割引企画「スカイメイト」を1966年から大手航空会社が導入し、これが空の便の普及に一役買っていました。この鉄道版のような形で企画されたのが、1982年2月に発売が開始された「青春18のびのびきっぷ」です。
「青春18のびのびきっぷ」の有効期間は3月1日から5月31日で、1日有効切符が3枚と2日間有効切符が1枚の4枚つづり8000円という価格設定。「青春18」と名前は付いていますが、年齢制限はありません。
1人で4回に分けて日帰り旅行することも4人グループで日帰り旅行することもできるという使い勝手のよさ、そしてなんといっても1日中、全国の普通・快速列車に乗り放題で1枚あたり2000円という値頃感から、「青春18のびのびきっぷ」は若者を中心に人気を呼びます。旅行需要が伸びる夏季にも発売し、初年度でフルムーンパスを超える売上枚数を記録しました。そして、翌1983年に「青春18きっぷ」と改称。1984年には冬季の発売も始まり、バカンスシーズンの定番商品となりました。
青春18きっぷの人気を支えた存在の一つが、夜行列車です。東京23時25分発大垣行きの普通夜行列車は、特に夏休み期間中は青春18きっぷを手にした若者でにぎわいました。
こうした夜行列車熱は、1987年に国鉄が民営化されてJR7社となったあとも変わりませんでした。大垣行きと共に人気を博したのが、夜行快速「ムーンライト」です。
「ムーンライト」は国鉄時代の1986年に新宿〜新潟間で始まり、1988年からはJR西日本が新大阪~広島を結ぶ「ムーンライト山陽」(1989年には京都駅まで運転区間を拡大)、京都~出雲を結ぶ「ムーンライト山陰」、新大阪~博多を結ぶ「ムーンライト九州」を次々に開通させ、青春18きっぷで多くの旅行客が利用しました。
JR全社の青春18きっぷの売り上げは、2006年に100万枚を突破。その後、高速バス網の発展などにより下がりましたが、依然としてファンは多く、年間60~70万枚台の売り上げを維持しています。2019年もコロナ禍の影響を受けながらも61万枚と、人気の根強さを表す結果となっています。
青春18きっぷが長く支持されている理由のひとつは、何と言っても価格の安さにあると思われます。青春18きっぷの現在の価格は、5回セット(5日分)で1万2050円。1回あたり2410円で、1982年当時とそれほど変わっていません。この値段で1日乗り放題というのは、特に遠出をする際には魅力的です。
また、ネーミングも人気のひとつの要素でしょう。若い世代にとっては現在の青春の旅となり、40代以上の世代にとってはかつての青春の旅の気分を再び思い出させる名称です。
それに加え、青春18きっぷが持つ「期待感」も長く愛される理由になっていると思われます。消費者が消費に向かうとき商品に見いだす性質には、「便利さ」「心地よさ」「おいしさ」「格好よさ」「かわいさ」などがあります。それと共に大きな要素となり得るのが「期待感」、言い換えれば「ワクワク感」です。
青春18きっぷは、行き先の制限はありません。普通・快速列車の利用であれば、全国どこへでも行けます。そして、5回分がセットになっています。「この5回でどこに行こうか」と想像がかき立てられ、期待感、ワクワク感が醸成されます。
5回分の使い方をあらかじめ考えるのではなく、2回分だけ、あるいは一切行き先を考えないで買う。そんな青春18きっぷのユーザーも少なくないことでしょう。どこにでも行けるという自由さから来る、「どこに行こうか」というワクワク感。これが、青春18きっぷという商品の大きな魅力になっているのではないでしょうか。ワクワク感は、消費に向かわせる大きな力があります。
執筆=山本 貴也
出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。
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ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所