ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
2019年9月、大阪市出身の女子プロテニス選手大坂なおみさんに大阪府知事から「感動大阪大賞」、大阪市長から「市長特別表彰」が贈られた。よくぞ、今、贈っていただいた!と、賞の贈呈を伝える記事を読んで膝を打ったものである。世界ランキング1位になった後、一度もトーナメントの決勝まで進んでいない大坂なおみ選手がずっと気掛かりだったからだ。
破竹の勢いで女子プロテニスの頂点まで上り詰めた大坂選手には焦りや戸惑いもあることだろう。でも、アスリートとしてのキャリアはまだまだこれからなのだ。それを裏付けるために、大坂選手の少し前のテニス界を華やかに駆け抜けた伊達公子さんにスポットを当ててみたい。
1970年に京都市で生まれた伊達さんは、高校時代にインターハイで3冠を達成。卒業後の1989年にプロとしてのキャリアをスタートさせた。彼女の武器は、ライジング・ショット(相手が打ったボールが自陣でバウンドした直後に打ち返す技術)に象徴されるスピーディーな展開。同年には早々と全仏オープンで海外デビューを果たし、続くウィンブルドンと全米オープンでは本戦出場を成し遂げた。
その後も海外でグランドスラムをはじめとする大会で世界の名だたる強豪選手を相手に善戦。時に圧倒し、95年11月には世界ランキング4位のポジションを得ている。
しかし、自身最高ランクに上ってから1年もたたない96年9月、その輝かしい戦績に突然ピリオドを打った。全盛期と認識していたトッププレーヤーの決断に世間が驚く中、引退を表明し、コートを去ったのである。
しかし、物語は終わらなかった。2008年4月、伊達さんは現役復帰を表明した。引退発表してから11年半が経過していた。
11年半!
トップアスリートにとっては100年にも相当すると思われるブランクを経て彼女は再びラケットを手にすることを決意する。しかもプロとして全日本選手権に出場することを目標に掲げたのだ。
復帰の1つのきっかけは、同年3月に開催されたシュテフィ・グラフさんとのエキシビション・マッチだったという。
「先日のドリームマッチに向けて昨年の9月頃から練習を繰り返す中で、引退してからこれまでに感じたことのない気持ちの揺れを幾度となく感じていることに自分自身で気づきました。」
(『Ðate of ÐATE 伊達公子の日々』 伊達公子、金子達仁著)
その揺れた気持ちが最終的に向かったのは、プロとして真剣勝負のテニスコートに立つことだった。そして実際、復帰したその年に全日本テニス選手権シングルスで16年ぶり、3度目の優勝を飾ったのだ(ダブルスも優勝)。
ビジネス社会において、伊達さんのように再チャレンジに意欲を燃やす人材に出会う機会は少なくない。例えば、キャリア採用の場面。選考に際して、社内の年齢構成などを考慮し、年齢制限を設けるケースはよくある話だ。
しかし伊達さんのケースでは、現役復帰はプロテニス界では異例の37歳の時だ。それでも見事に結果を出した。年齢を重視するあまり、自社に「伊達公子」を迎えるチャンスを逃している可能性はないだろうか。
キャリア採用の面接では前職の退職理由を尋ねることが多い。そして「仕事が嫌いになったから」といったネガティブな理由は評価が低いとされている。
しかし伊達さんも最初の引退の理由を「あの時は、テニスが嫌いで、ツアーが嫌いで……」と述べている。真剣に打ち込んだからこそ嫌いになることもあるだろう。そのときの状況により好きな仕事が嫌いになったのかもしれない。そうした視点で嫌いになった理由を丁寧に引き出せたなら、応募者のことがより深く理解でき、適材適所を実現できるのではないだろうか。
復帰後の2011年、グランドスラムのウィンブルドン本戦2回戦では、伊達さんは同大会で5度の優勝を誇るビーナス・ウイリアムズ選手と3時間近い激闘を繰り広げるも惜しくも敗退した。
その試合を「40歳の、11年半もブランクがあった私がここまで立ち向かうことが出来たのはやっぱりテニスが好きでChallengeすることが好きだから」(同著より)と振り返っている。
少子化により若手の採用が難しくなっている今、少し視野を広げて採用した人材が、時間を経て、新しい職場で仕事に打ち込み、「やっぱり仕事が好きだ」と思ってくれたら、それはとても素晴らしいことだと思う。
[9/24追記]
大坂なおみ様、大変失礼いたしました。
本コラムで「世界ランキング1位になった後、一度もトーナメントの決勝まで進んでいない」と書きましたが、9月22日、「東レ パシフィックオープン」(大阪市)で見事、優勝されました。 しかもコラムで取り上げさせていただいた伊達公子さんが1995年に優勝されて以来の日本勢による快挙。これも何かのご縁でしょうか。
なにわともあれ、本当におめでとうございます!
執筆=藤本 信治(オフィス・グレン)
ライター。
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アスリートに学ぶビジネス成功への軌跡