ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
ラグビーワールドカップ2019に沸いた日本。その第1回が開催されたのは1987年のことだった。当時、日本代表の主力の1人は平尾誠二さん。第2回、第3回大会にも出場し、チームをけん引した。
「華麗」とも評されたステップで相手の守備網を切り裂き、鮮やかにトライを決める。チームの司令塔という役割を担うSO(スタンドオフ)やセンターとして天才的な状況判断で最適なプレーを選択し、チームを勝利に導いた。
京都・伏見工業高等学校(現・京都市立京都工学院高等学校)3年時に全国制覇。同志社大学ラグビー部では史上初の大学選手権3連覇という金字塔を打ち立て、神戸製鋼では主にキャプテンとして日本選手権7連覇を達成した。
観客を魅了するプレースタイル、そして圧倒的な戦績は「ミスター・ラグビー」と呼ばれるにふさわしかった。
伏見工業高校のラグビー部が栄冠を勝ち取るまでの物語は、『スクール☆ウォーズ』というタイトルでテレビドラマ化されたことはよく知られている。平尾さんをモデルにした登場人物もいた。しかし、彼自身のドラマチックなラグビー人生は、その数年前、京都市立陶化中学(現・凌風学園)に入学した春にスタートしている。
新入生の平尾さんは、入部するクラブを選ぶために運動部の練習を見学するが、彼の目にはどの部の練習風景もしごきに見えたという。そういう雰囲気を嫌う少年だった。そんな時、足元にコロコロとボールが転がってきた。
脂で磨かれ、黒光りした革製の楕円のボール。誘われるように拾って投げ返したそのボールは、グラウンドの上で不規則にバウンドして跳ね返った。「これは何のボールやろう。面白いボールやなあ……」
(『勝者のシステム』 平尾誠二著)
平尾さんは、ラグビーとの出合いをそう振り返る。当時、陶化中学のラグビー部は発足2年目。大学を出て美術教師になったばかりの寺本義明先生は、生徒たちにのびのび自由に練習させていた。その練習風景に心が動き、平尾少年は入部を決める。
入部後、次第にラグビーに魅せられていった平尾さんは、学校の練習だけでは物足らず、1年365日、夕食後に家の近くの公園で黙々とボールを蹴る練習を続けた。夜の練習には、他の部員も次々と加わり、すぐに10数名にまで増えたという。兄貴のような存在だった先生の下、中学生の部員たちが思うようにラグビーに取り組んでいく。そのエピソードはもう1つの青春ドラマのようだ。
そして伏見工業高校へ。そこで平尾さんは、あの熱血教師に出会う。元ラグビー日本代表の山口良治先生だ。指導法はスパルタ方式だった。「入学した当初は、練習が嫌で嫌で仕方がありませんでした。しかし、苦しい練習を強制させられているうちに、自分が強くなっていくのが実感できました」
自分の成長が実感できたことで、平尾さんは練習が面白くなり、山口先生に言われなくてもハードな練習に取り組むようになっていった。
進学した同志社大学ではラグビー部長の岡仁詩先生の指導を受けた。岡先生は自由な気風を持ち、理論派として知られる指導者だ。
「情」の山口に対し、岡はあくまで「理」でラグビーに相対する。高校生になって、まず「情」の部分をたたき込まれて、大学に入って次は「理」を教え込まれる──この順番がよかったと、平尾は語る。
(『平尾誠二 最後の挑戦』 早瀬圭一著)
個性的な3人の指導者と出会い、その彼らによって、ラグビーを楽しみながら、戦略を駆使し自由自在なラグビーを追求する「ミスター・ラグビー」が創られていった。
このプロセスは、ビジネス社会にとっても示唆に富んだものといえるだろう。1人の人材のさまざまな可能性を引き出し、モチベーションを高めていくために、異なる環境、個性やスキルの異なる先輩や上司の下で仕事をするチャンスを提供していくことが大きな効果を生む可能性を秘めている、と。
2019年、自国開催のラグビーワールドカップで日本代表は見事なプレーを見せた。キックを多用したゲームがあったかと思えば、対戦相手によってはひたすら短いパスを多用し、好機を広げていくゲームも。まさに自在にゲームを展開した。それは平尾さんが日本代表の監督を務めていた頃に理想としていたラグビーだった。
勝利を重ねた日本代表は史上初めて決勝トーナメントに進出した。その初戦、南アフリカ戦が開催された10月20日は平尾さんの命日だった。私たちはもう平尾誠二がいない世界で3年の月日を過ごしていた。「天国の平尾さんが見守っている」といった論調の報道も多かった。スター性の高いキャラクターとは裏腹に派手なことを嫌った平尾さんは面はゆい思いをしていたかもしれない。
それでも空の上の高い、高いところから、フィフティーンが戦う姿を眺めて、げきを飛ばし、目を細め、悔しさを腹に落とし、そしてダンディーな口ひげの下に白い歯をのぞかせたことだろう。
執筆=藤本 信治(オフィス・グレン)
ライター。
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