ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第48回) 発売から30年たってブレークしたレアなロングセラー「マロニーちゃん」

スキルアップ 雑学

公開日:2022.11.30

 冬が近づいて気温の下がる日が多くなり、お鍋がおいしい季節になってきました。鍋料理にはさまざまな種類がありますが、食べ応えと独特の食感でどんな鍋料理をするときにもあると便利なのが、マロニーのでんぷん麺「マロニーちゃん」。1964年に発売され、半世紀以上にわたって愛され続けているロングセラーです。

 マロニーの創業者・吉村義宗は、終戦後、シベリアで抑留生活を経験し、1948年に帰国しました。吉村は野菜の仲買などの仕事をしながらもやしの製造技術を学び、1950年、大阪の東淀川に吉村商店を開きます。

 何ごとにも研究熱心な吉村は、もやしの製造工程を工夫し、新しい製法を生み出しました。これによって生産高が飛躍的に伸び、吉村商店は業界で一目置かれる存在になります。

 1955年には吉村商店を株式会社化して大洋産業株式会社とし、1959年には機械を導入した工場を開設。完全な機械化を実現し、日本一の生産量を誇るまでになります。

 吉村は機械化によってもやしの大量生産を実現しましたが、事業を取り巻く環境は変化しつつありました。原料となる緑豆が高騰したことに加え、全国的にもやしの生産が増えて値崩れが起きるようになります。「これ以上は、もやしでの事業拡大は難しい」と吉村は判断。そして目をつけたのが、春雨でした。

 春雨は使い勝手のいい食材ですが、当時の春雨は煮込むとすぐに溶けてしまうという欠点がありました。春雨を改良した製品を開発するため、吉村は中小企業の技術指導を行う大阪府立工業奨励館(現・大阪府立産業技術総合研究所)の門をたたきます。工業奨励館の田村博士は、吉村の「溶けない春雨の機械化生産を実現したい」という熱意に動かされ、共同で新しい春雨の研究を進めることになりました。

 一般的に、春雨はでんぷんを湯でこね、底に穴の開いた容器から糸状にして出し、それを熱湯でゆでて乾燥させるという製造工程で作られます。この工程をどのように工夫したら、溶けない春雨ができるのか。試行錯誤を繰り返します。

 春雨に強度を作れない要因は、穴の開いた容器から糸状にして出すところにあると思われました。そこで、でんぷんを湯でこねたところで薄い板状に伸ばし、熱を加えました。これで、でんぷんを材料にしたでんぷんのりと似たような状態になります。そこにじゃがいものでんぷんを加え、強度を高め、これをカットして細長い麺状にしました。こうすると、強度があって溶けにくく、また工場でも製造が可能なものになります。

 1963年、表面がつるつるで側面に気泡が入り、ざらざらした食感の新しいタイプの春雨が完成しました。「マロニー」と名付けられたユニークな商品名の由来は、社員の公募で「まろやかに煮える」イメージから決定したという説が有力です。翌1964年に試験販売を開始しました。

ローカルフードから全国区の商品へ成長したきっかけとは

 しかし、マロニーはまったく売れず、1カ月後には全品が返品されるという惨憺(さんたん)たる結果になります。知名度がない上に、パッケージを見てもどんな商品なのかがわからない、そもそもパッケージのデザインが食料品らしくないというのが、販売店の意見でした。その意見を反映し、パッケージをすき焼きの写真を入れたものに変更しますが、状況はあまり変わりません。

 それでも、吉村はマロニーに対する自信を失わず、販売を続けます。1967年にはヨーサン食品に社名変更し、お湯で戻す手間を省いた「生マロニー」を発売。原料を緑豆でんぷんとじゃがいもでんぷんから、じゃがいもでんぷんとコーンスターチに変更してさらに煮崩れしにくくするなど、品質向上にも取り組みます。

 また、マロニーを定着させるには商品名と社名が同じ方が有利と考え、1978年には社名をマロニー株式会社に変更。この頃、大手スーパーチェーンのダイエーから生マロニーを扱いたいという打診があり、スーパーを販路として関西を中心に愛用者が広がっていきます。

 そして1995年、女優の中村玉緒を起用し、テレビ・ラジオでCMを大量にオンエアしました。CM収録時に中村玉緒がアドリブで歌った「マロニーちゃん♪」のフレーズを採用したCMは大きな評判を呼び、マロニーを一気に全国区の商品へと押し上げます。

 2019年には商品名を「マロニー」から「マロニーちゃん」へと改め、2020年には「スープマロニーちゃん」で即席カップスープ市場にも参入。さまざまな形で、しっかりした食感のマロニーちゃんが楽しめるようになりました。

 この連載で紹介してきたように、現在ロングセラーとなっている商品も、発売直後からヒットしたものばかりではありません。今では誰もが知っている商品も、発売直後は知名度がなく、苦戦しているケースが珍しくありません。営業努力、PR戦略、口コミなどで少しずつ消費者の間で知られるようになり、数カ月後、あるいは数年後にヒットしてロングセラーへの道を歩むようになったものも多くあります。しかし、マロニーちゃんのように、発売開始から30年以上たって全国的にブレークするというのはレアケースです。

 マロニーちゃんは非常に個性的な商品というわけではなく、料理に使う基本的な食材のひとつといえます。時流に合った、あるいは時代が追いついてきたから、発売後数十年して大ヒットしたという印象はありません。関西を中心に一定の消費者の支持を得ていたところ、CMをきっかけとして一気に全国に広まった形です。

 これは、商品がポテンシャルを持っていることが大前提ですが、大きくヒットしていない商品でも、何かをきっかけとしてブレークするケースがあり得るということです。それがCMなのか、商品名の変更によるリブランディングなのか、パッケージの変更なのかは分かりません。しかし、自社の商品ラインアップの中で、品質には自信があっても大きくヒットしないままになっているものがある場合、何かの「きっかけ」を与えることが突破口となる可能性を、マロニーちゃんの事例は示唆しています。

執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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