ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
コロナ禍も一時より収まり、会社にお客さまを迎える機会が増えてきたのではないでしょうか。来客時のお茶請けは意外と悩むものですが、外さない選択がブルボンの「ルマンド」。1974年に発売されて以来、約半世紀にわたって愛され続けている洋菓子のロングセラーです。
ブルボンの創業は、1924年。前年に関東大震災が発生し、首都圏から地方へのお菓子の供給が途絶えました。この状況を見かねた吉田吉造が北日本製菓を創業し、地元の新潟・柏崎にお菓子の量産工場を設立したのがその始まりです。
吉造は、お菓子の中でも栄養価が高く、保存性に優れたビスケットの製造をスタートさせます。その後、ドロップ、チューインガムなども製造・発売。戦後には育児食ビスケット、キャラメルなどの生産を開始し、工場を新設するなど、業容は順調に拡大していきました。
しかし時代は高度成長期に入り、生活様式が大きく変化。それに伴って人々の嗜好も変わって変化していきます。お菓子にも新機軸が求められるようになったと判断したブルボンは、それまでになかった洋菓子の開発に着手しました。そうして生まれたのが、ルマンドの先行的な商品である「ホワイトロリータ」です。
ホワイトロリータのポイントは、ちょっと「高級感」のある洋菓子。クッキーの生地を連続的にひねりながら成形していく独自の製法を開発し、それまでにない食感のホワイトクリームクッキーを実現しました。包装にもこだわり、ひねり包装機を新たに開発。当時はまだ珍しかった個包装を採用しています。
1965年に発売したホワイトロリータは、多くの消費者から好評を得ました。そして1970年にはラム酒に浸したレーズンを使った「レーズンサンド」、1972年にはラングドシャクッキーをくるくると巻いた「ルーベラ」を発売し、個包装の袋入りビスケットをシリーズ化していきます。
1974年は、創業50周年という節目の年。そこに向け、先行するホワイトロリータ、レーズンサンド、ルーベラとは異なる新しい袋入りビスケットの開発に着手します。しかし、それまでの商品も十分に工夫を凝らして生まれたもの。新たなビスケットを考案するのは容易ではありません。
そんな一大プロジェクトが進行する中、開発担当者がアイデアを考えている時、要らない紙をくしゃくしゃにしました。ふと見ると、紙が独特な形になっています。そこから、クレープ生地を薄く延ばして丸め、不規則な層にするというアイデアが生まれます。こうすることで、サクッと軽やかな食感になると考えたのです。
ただ、そのような製法は今まで手掛けたことがありません。大量に安定して生産できるようにするため、何度も試作を繰り返し、成型手法を完成させました。飽きの来ない味にするため、ホワイトクリームをベースにココアを入れているのも特徴です。名前は、世界に広がるお菓子になってほしいという思いから、「世界」を意味するフランス語の「ル・モンド」から取って「ルマンド」。包装はもちろん、ホワイトロリータから受け継がれている個包装です。
1974年2月、ルマンドの発売を開始。紫が基調の高級感あるパッケージ、不規則な層になったクレープ生地がもたらす独特の食感、そしてココアが効いた甘さ控えめの上品なお菓子を、当時のビスケットのヒット商品と同じ価格で楽しむことができるとあって、ルマンドは大ヒット商品となります。菓子1品では月商10億円以上は出ないと言われる中、ピーク時は月間販売額20億円を記録。業界の常識を塗り替える販売実績を築きました。
その後もルマンドは味のバリエーションを増やし、また2016年には小さなルマンドが丸ごと入った「ルマンドアイス」を発売するなどして新たなファンを獲得しながら、ロングセラーであり続けています。
それまで世の中にはなかった、まったく新しいコンセプトの商品がロングセラーになることもありますが、ルマンドは商品設計の全体が画期的だったというわけではありません。個包装の高級感あるビスケットが手頃な値段で手軽に楽しめるというコンセプトは、ホワイトロリータから続いていた袋入りビスケットシリーズに則ったものです。しかし、くしゃくしゃになった紙からヒントを得た、不規則な層になったクレープというアイデアは、まったく新しい画期的なものでした。
人はまったくそれまでになかったものを目にすると、拒絶反応を起こすことがあります。個包装で袋入りのビスケットに画期的なアイデアが融合されて起こった化学反応が、ルマンドというロングセラーを生んだ秘密なのかもしれません。
執筆=山本 貴也
出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。
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ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所